表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/29

二話

 家族だけで執り行ったささやかな(プレゼントや食べたご馳走の金額は全くささやかじゃなかったけど)誕生日会の翌日。私はお母さんに手伝ってもらって、主に男達から届いた贈り物を開封する作業に移っていた。


 この世界では、十五歳で成人である。正式に結婚できるのも男女ともに十五歳。もっとも、それより以前から夫婦のような暮らしをして十五歳になって正式に式をあげる人も多いが。基本的に、日本より早熟なのである。そして、女の十五歳の誕生日に贈り物をするというのは、自分を結婚相手候補として意識してくれないか、という意味も持つ慣習である。愛の告白や、ましてやプロポーズほどの意味は持たず、せいぜい、候補として自分を意識してくれ、という程度のアピールだが。複数の女性に贈っても失礼には当たらないので、可愛い女の子が十五歳になるととりあえず贈っておくというような未婚男性も存在する。逆に、誕生日を隠しているわけでもないのに一件も贈り物を貰えなかったらかなり切ない。


 なぜなら、この世界では何故か女性の出生率が少ないのだ。女性4.5割、男性5.5割といったところである。ほとんど同じじゃんと思うかもしれないが、考えてみてほしい。たとえ全ての女性が結婚したとしても、単純計算で、総人口の一割分の男が余る。そのため、日本での環境以上に、男は追うもの、女は追われるものとなるのだ。


 さて、ここで話を戻す。このような慣習の元、私へ送られてきた贈り物は……すごかった。いや、いかんせん語彙が貧弱で、何と表現していいものか。とりあえず純然たる事実を述べると、部屋が二つ埋まった。装飾品とかの一つ一つが嵩張らないものが多いにも関わらず。


 もっと決定的な意味を持つ愛の告白なら、ここまではいかなかっただろう。だが、これはただの自己アピールである。豪商の娘である絶世の美少女(笑)に対して、自分のことを意識してくれ、と言ってきているだけである。しかもこの慣習、身分とか贈り物の価値とか、贈られる本人と面識があるかどうかすらも縛りがない。それこそ花一輪だっていいのだ。さすがに豪商の娘に花一輪を贈ってくる男はいなかったようだが。また、全く面識のない男から突然贈り物とか普通は受け取らないと思うが、この時ばかりは別である。別におかしなことではないのだ。これを機に自分の存在を知ってください、という意味になる。慣習って怖い。


 何というか、色々あった。庶民の男の子が頑張って買ってくれたような微笑ましいものから、ガチっぽい魔石の装飾品、煌びやかな服まで。服は私の体格に合うものということで、横がキングサイズで泣きたくなった。一応これが『ないすばでー』らしいけどね。この贅肉豚が。


 皆さんには申し訳ないけど、ほんの一部の知り合いとよほど身分の高い貴族様を除いて、誰が何をくれたのかを記憶することは無理だった。というか、身分の高い貴族様からの贈り物が結構あるんだけど。これ面倒事フラグじゃないよね違うよね。


 お父さんは貴族ではないけど、権力的には下手すれば貴族以上だから、彼らから入ってくる縁談を気兼ねなく蹴れるのは嬉しい。また、女が少ないこの世界では、女に無理やり迫ったり、女に拒否されて強硬策に出るのは最も見苦しい行為だって考えがあるから、たとえ権力があっても女性を無理に好きにするのは難しいのだ。露見した瞬間に、民からの信頼を一気になくす。すっごいありがたい。だからきっと面倒事にはならない。信じてる。


 全部中身をチェックし終わった頃には、日が暮れかけていた。じゅ、重労働だったな……。お母さんと一緒にやったのに。


「リアちゃん。気に入った贈り物はあった? どの人と会うの?」


「ん。とりあえずこれと、これと、あとこれ。あと……」


 贈り物の中で、私が気に入ったものを挙げていく。とりあえずトップ10ほど。


 この世界基準のイケメンとの恋愛はちょっときついが、私だって恋愛したくないわけではない。というかしたい。でも親の持ってきてくれる見合い話は、基本的にそれなりにイケメン(この世界では)だ。だから贈り物をくれた人の中から、試しに何人かに会ってみることにしたのだ。いや、普通は何人かとかじゃなく全員に会うのかもしれないけど、私の場合は人数がい過ぎて全員はきつい。本当にごめんなさい。


 贈り物には普通、差出人の名前と連絡先、一言みたいなのが書かれている。一緒に写真を貼ってくれたら一発だったんだけど、残念ながらこの世界に写真はない。顔は会ってみないとわからないのだ。ちなみに、一言の部分に愛のポエムを書いている人はそれだけでNGにさせてもらった。申し訳ない。結構いるんだね、ポエマー。内容によっては鳥肌ものだった。ねっとりとした内容のポエム。怖い。


 どの人に会いたいかお母さんに伝えると、先方の予定を聞いて順番にうちに招待してくれるらしい。私の方は普段から、お母さんの手伝いで家事をするかお父さんの手伝いで簡単な書類仕事をするかでいつでも空いているのだ。たまに遊びに出かけるけどね。


 この世界の女は、基本的に専業主婦である。私も家事は叩き込まれている。国民皆学みたいな考えもないから、学校にも行っていない。読み書きは親や近所の人に教えてもらったり、お金のある家では家庭教師を雇ったりするのだ。ちなみに私は家庭教師をつけてもらっていた。もういないけどね。必要なことは成人前にだいたい教わったし。


 まあそういうわけで、出会いの場が少ない。私なんかはあまりにも無防備にやたら出歩くと犯罪に巻き込まれかねないし。可愛過ぎてだとさ。笑えるけど、本気でそうだから笑えない。


 なので、相手が確定していない成人女性は、親の持ってくる縁談か、十五歳の贈り物をくれた男性の中から会って決める、ということが一般的だ。


 かなり楽しみだ。どんな男性かはわからないけど、イケメンじゃないといいな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ