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18/29

その後【1】

日間ランキングありがとうございます。

相当長くなってしまいましたが、分けるところがないのでこのまま投稿します。

 今日、俺は最近できた不釣り合いなほど可愛い彼女とともに、食料品の買い出しをしていた。いや、ともに、というのは語弊がある。ぶっちゃけ俺は、彼女のあとをついて行くだけの荷物持ちだ。だって、野菜の良し悪しなどわからない。


 彼女が満足したらしいので、会計を済ませる。自分も少しは持てるとかふざけたことをぬかすアドリアーナから、買ったものを全て奪い取った。俺が一緒にいるのに、持たせるという選択肢はない。


 さて、これからどこに行くかというと。俺の家である。


 いや、別に邪なことを考えているわけではないし、いかがわしいことをするつもりもない。本当だ。料理を作ってもらうことになったのである。


 それと、もう一つ。彼女の気が済むまで、耳と尻尾を触らせる……という目的もある。外ではできないからな。というのも、無断で彼女のファーストキスを奪った罰を受けなくてはならないと思ったのだ。それをアドリアーナに伝えたところ、心ゆくまで耳と尻尾を触らせるように言われた。もちろん、その間俺は彼女に何もしてはならない。していいはずがない。この条件、彼女はかなり軽いものだと思って言ったはずだ。言われた時の表情もノリも軽かった。だが俺は、おそらくそう気楽なものでは済まないだろうと踏んでいる。この二箇所は、こう言っちゃなんだが……一応、性感帯の端くれなのである。可愛い可愛い可愛い彼女を目の前にして、俺は修行僧の境地に至らなくてはならないわけだ。だが、罰ならば受け入れてやろうじゃないか。というか、そんなことであの最低な行為が許してもらえると考えれば破格の条件である。


 俺の家は、借家だが小さな一軒家だ。騎士団の副隊長というのはそれなりに高給取りであり、もっと立派な家を借りることもできるが、大きな家なんて借りたって手入れが面倒なだけなのでこの家を選んだという経緯がある。


「お、おじゃましまーす……」


 家に招き入れてやると、アドリアーナは借りてきた猫のように大人しくなった。俺まで緊張してくるからやめてくれ。


 ま、まずいものとか出てないよな? この日のために片付けはしたし、もともとあまり家にいないからそう散らかってもいなかった。大丈夫なはずだ。


「え、えっと。じゃあ、キッチン借りるね、ラーシュ。待ってて」


「あ、ああ」


 キッチンに買ってきたものを置き、リビング兼ダイニングで待つ。非常に落ち着かない。自分でも呆れるほどにソワソワしている。ゆらゆらと揺れる尻尾を引っつかんだ。アドリアーナは、これのどこがいいと言うんだろうか。よくわからない。こんなもんがついているのはマイナスでしかないと自分では思う。だが、いいと言うなら有効活用してやろうじゃないか。これでアドリアーナを誘惑できるなら、生まれてこのかた一度たりとも役に立ったことのない尻尾にも存在価値があるというものだ。


 ……にしても暇だ。料理にはそれなりに時間がかかるのは知っている。が、暇だ。アドリアーナにちょっかいを出しに行っても怒られないだろうか。いや、包丁や火がある。俺ならいいが、アドリアーナが怪我をしたら大変だからダメだ。あいつは俺と違って皮膚も薄い。俺は一瞬炎に触れた程度では大した火傷もしないが、アドリアーナは違うだろう。


 俺はあまり家にいることがないから、暇を潰せるようなものは特に置いていない。もっとも、本のようなものがあったところで読まなかっただろうが。この精神状態で読書とか、不可能だ。


 結局俺は、ただ机につっぷしてぼんやりと待つのだった。






 ふと気配を感じて、俺は目を開いた。


「あ、起こしちゃった?」


「……俺、寝てたのか。悪い」


「ううん。ていうか、近付いたらすぐ起きちゃったよ。残念」


 残念って。俺は人に近付かれれば起きるぞ。


「どのみち起きないと、料理が冷めるだろ」


 キッチンの方からいい匂いがしている。聴覚ほどではないが、嗅覚も人間よりは鋭いのだ。


「うーん、まあそうなんだけど。ちょっと寝顔を堪能してから起こそうと思ったのに」


「俺の寝顔って。それこそ残念なシロモノなんじゃないか?」


「あはは、さすがラーシュ。全然わかってないなぁ」


 なんか今貶されなかったか? 笑顔が可愛いからいいか。俺は立ち上がった。


「料理、運ぶなら手伝うぞ」


「あ、ほんと? ありがとう」


 アドリアーナが作ってくれたのは、野菜のスープとグラタンとかいう創作料理だった。ひょっとして猫舌だったか、と耳を見ながら聞かれたが、別にそんなことはない。ネコ科獣人が全て猫舌だと思うなよ。


 味は非常に美味しかった。というか、アドリアーナに作ってもらえたらよほどなもの以外なんでも美味しく感じそうだが。とにかく美味しかった。俺が肉好きなことはしっかりばれているようで、ちゃんと肉が入っていて嬉しい。デザートにプリンが準備されているらしいが、まだ冷えていないので後で出すと言っていた。至れり尽くせりだ。……実は甘いものが苦手とか絶対言わねぇ。全力で隠し通す。






 片付けは俺も多少手伝って、一息ついた頃。アドリアーナが、おもむろに切り出した。


「ね、ラーシュ?」


 来たか。さっきからチラチラと尻尾を見ているのは気付いていたんだ。


「何もしちゃダメだからね?」


「わかってる。約束だ、好きにしろよ」


 修行僧タイムの始まりだ。


 アドリアーナがにじり寄ってくる。


「触るからね?」


 柔らかい手がそっと尻尾の根元を掴んで、毛並みにそって撫でた。あーくそ、ゾクゾクする。尻尾から背骨って、多分直結してるんだろうな。そうに違いない。なんつーか、モロに響いてきやがる。尻尾の先端がピクピクと跳ねているのが見なくてもわかる。足や腹筋に無駄に力が入るが、気どられないように頑張った。それはもう頑張った。


「えへへへへ、しましま尻尾かわいい」


 おい、表情筋が緩み切っているぞ。アドリアーナだから可愛らしいが、俺がやったらそれはもう放送事故のような顔になることだろう。


「逆撫でとかしたら嫌?」


 聞きながら、俺の返事を待たずにアドリアーナは手を逆に動かした。尻尾の先端から、根元方向に。先ほどまでの快楽寄りのものではなく、不快なゾワゾワが背筋を走る。ブワッと尻尾の毛が逆立った。


「あ、ごめん」


「……もう逆撫ではやめてくれ」


「はーい。あーもう可愛いなあ」


 アドリアーナ曰く、触ると尻尾が逃げようとするのがまたいいらしい。顔に似合わずドSなのか⁉︎ 俺は戦々恐々としたが、今のところ尻尾と耳に関すること以外でその兆候は見えないので、とりあえず考えないことにしている。そうでなければいいと切に願う。


 と、撫でるだけだった柔らかい手に尻尾を軽く引っ張られる。つい肩が跳ねてしまった。……しまった。そっとアドリアーナを窺うと、非常にいい笑顔だった。


「ああもう、癖になりそう」


「勘弁してくれ……」


「というか、癖になったわ。よし、耳もいいよね?」


 聞いちゃいねぇ。


 アドリアーナは膝立ちになると、俺の頭を撫でてくる。バランスを取るためか、片手は俺の肩に置かれた。


 わしゃわしゃ。髪の毛がかき乱される。


「……そこは耳じゃないが?」


「まあまあ、いいじゃん。ん、やっぱり見た目通り、髪の毛かためなんだねー。よしよし」


「……」


 正直、悪い気分じゃない。というか、ぶっちゃけ撫でられて気持ちいい。だがアドリアーナは、俺を撫でて何が楽しいんだ。切実に疑問である。


 髪を乱していた手は満足したのか、そっと俺の耳をつまんできた。だが、今度はしっかり覚悟していた。間違ったって肩を跳ねさせたりはしない。表情も絶対変えない。ただ、何も感じていないかのようにやり過ごしてやる。アドリアーナの手が俺の耳を弄る。ゾクゾクする。


「ラーシュ? 痛くない?」


「ああ、大丈夫だ」


「……耳もちゃんと感覚あるんだよね?」


「そりゃな⁉︎ 体の一部だからな」


 的外れな質問過ぎて怖いわ。


「そっか、だよね。どんな感じ?」


「……感覚の説明って、難しくないか?」


「あ、確かに」


 アドリアーナは、何かを考えるように手を止めた。耳はつまんだままで。


「……人間の耳みたいな感じなのかな……」


 小声で呟くと、俺の耳に顔を近付ける。なんとなく嫌な予感はしたが、突然近付かれたことで甘い匂いがして、俺は動けなかった。


 そして、ふっ、と。何を思ったのか、アドリアーナは俺の耳に吐息を吹きかける。


「……っ!!?」


 俺の耳は、人間のそれよりずっと高性能だ。それはつまり、敏感だということでもある。アドリアーナの息が、呼吸音が、脳内で反響しているような気がした。


 目を白黒させる俺に気を良くしたのか、アドリアーナは再び俺の頭を撫でた。そして次の瞬間、耳が柔らかいものに挟まれた。俺は完全に硬直する。俺の、獣人の醜い耳が、アドリアーナの唇で、食まれていた。


 ……え? 今、俺、何をしてるんだったか。あれ、食まれていたとか言ったけど、これなんだっけか。どんな状況だっけか。みみみみ耳が暖かいというか柔らかいというかあれ、なんだこれちょっと待ってくれ待ってください待っていただきたいでござる。


 …………え⁉︎


「あ……ど、りあーな?」


 たどたどしく名を呼ぶと、アドリアーナはパッと俺から離れて悪戯に笑う。


「これは勝手にキスした罰なんだから、ラーシュは何もしちゃダメなんだよ?」


 その言葉に、半ば無意識に伸ばしかけていた腕が止まった。


「うん、楽しかった。非常に、すっごく、楽しかった。ありがと、ラーシュ」


 そう言うと、アドリアーナは満足げに俺から離れる。


「あ……ちょ、えっと、……あー……」


 俺の口から漏れるのは、意味のない音ばかり。いや、だって、そりゃこうなるだろ!


「あはは、真っ赤」


 クスクス笑うアドリアーナはとても可憐で、更に顔が熱くなるのがわかった。


 ……くそ。


 俺はアドリアーナが反応できないように、無駄に全力を出して距離を詰めると、右の耳を軽く咥えてやった。


 アドリアーナの笑い声がピタリと止む。嫌がられたら嫌なのですぐに離れて、機嫌を損ねていないか顔を見ようとすると、アドリアーナは口に手を当てて俯いてしまった。赤くなっているのがわかって、くっそ可愛い。機嫌が悪くなってはいないようだ、よかった。ニヤニヤ笑いが止められない。


「どうした? アドリアーナもやっただろ」


「……うー……。ラーシュ、何もしないって言ったのに……」


「少しくらいいいだろ」


 なにがいいのかは自分でも分からないが、強気に出れば今のアドリアーナは流せる気がした。って、最低だな。


「……ラーシュ」


「ん?」


「……うー! 何でもない!」


 今の『うー!』ってなんだ? 威嚇か? だとしたら可愛すぎるんだが、威嚇なのか?


 俺は頬を緩めた。微笑ましい気持ちになって、目を細める。


「あーはいはい。悪かった悪かった」


「……ずるい」


「うん?」


 ずるい? なにが?


「その顔で、そんな表情するの! ずるい! よくないと思います!」


「…………え、……」


 突然のその発言に。俺は、動けなくなった。何かを言おうと思っても、喉がはりついて上手くいかない。幸せな気分なんて一瞬で吹き飛んで、俺は青ざめる。嫌な汗が出てきた。


 アドリアーナは、俺の容姿を貶したり、からかったりすることはなかった。一度たりとも、だ。だから、特に二人きりの時は、釣り合わないという事実を忘れていられたのだ。でも、今のは。この不細工ヅラで緩んだ表情をしたら気持ち悪い、と。正面からそう言われた俺は、どうすればいい?


「……ラーシュ?」


 アドリアーナが不思議そうに俺を見ている。つまり、貶した自覚がない? 当たり前の事実すぎてってことか?


「……いや、何でもない、大丈夫だ」


 何とか笑顔のようなものを形作ろうとするが、どうやら上手くいっていなかったらしい。アドリアーナが眉をしかめた。


「ラーシュ。どうしたの、言って?」


「いや、ほんとに、何でもない」


 アドリアーナは困ったように少し考え、ハッとしたように目を見開いた。その可憐な口が開いて、鈴が転がるような声で、残酷な言葉をもう一度呟く。


「その顔でそんな表情をするのは、ずるい。よくないと思う」


 身を固くした俺に、アドリアーナは申し訳なさそうに眉尻を下げた。


「ごめん、ほんとに何気なく言っただけだったんだけど、……ラーシュはこれ、どういう意味だと思った?」


 言わせるのか。それを、俺に。


「……この不細工ヅラで緩んだ表情とか気持ち悪いからやめろって意味だろ」


 口から出たのは、アドリアーナに対しては使ったことがないほどぶっきらぼうで冷たい声だった。アドリアーナが泣きそうな顔になって、罪悪感を覚える。


「それ、違う……。逆!」


「は? ……なにが逆?」


「ラーシュかっこいいから、そんな優しい表情したら惚れ直しちゃうじゃんずるい! って意味だったの!」


 顔が引きつるのが分かった。


「傷付けないようにしてくれてんのは分かるんだがな、もう少しマシな嘘もあっただろ」


 こんな荒唐無稽なことを言い出さないとフォローできないレベルに本気の発言だったとか、逆に傷付くわ。


「違うって! 私は本気で……!」


「わかったわかった。ありがとな」


「ラーシュ……!」


 アドリアーナにとっても、俺の容姿は気持ち悪い。そんな当たり前のことさえ、俺は言われるまで気付かないふりをしていた。そう、当たり前のことなんだ。それでもアドリアーナは俺を好いてくれている。十分すぎる話じゃないか。理性はそれで納得するのに、感情はすぐにそれを受け入れてくれそうにはなかった。今日はもうアドリアーナを家に帰して、少し時間を貰おうか。俺だっていい大人だ、時間さえ貰えれば感情に折り合いくらいつけられる。つけられるはずだ。


 そんなことを考えていると、顔に何かが近付いてくるのを感知して。俺はいつもの癖で反射的に、それを避けてしまった。


「あ……」


 そして、今すぐ頭を壁に打ち付けて死んでしまいたい衝動にかられる。


 アドリアーナが、俺の方に手を伸ばした状態で固まっていた。絶望したような、青ざめた顔で。


「わ、悪い、これは違う、その、普段の癖で避けただけで、別に拒否したわけじゃない!」


「……」


 アドリアーナの手が、無言でもう一度俺の顔に伸ばされる。その手が少しだけ震えているように見えるのは、気のせいだろうか。俺を害すことなんてできるはずもないその手に若干怯えつつも、ここで動くような真似だけはできないので俺はじっとしていた。


 頬に手が添えられて、目を見開く俺の唇が、アドリアーナのそれで塞がれた。唇に、アドリアーナからキスされるのは初めてだ。すぐに離れたアドリアーナは、そのまま上にずれ……俺の耳元で、囁く。


「好きだよ」


 心臓の音がうるさい。


 アドリアーナは距離を空けて元通りに座り直すと、わざとらしくため息をついた。


「本気なの、わかってもらいたいんだけどなぁ」


「えっと……」


「てか、最初から私は本気だって言ってるのに! 勘違いしないでよもう!」


「え、ええ? 俺が悪いのか? えっと、すいません……?」


「よろしい!」


 わしゃわしゃと頭を撫でられる。


「……アドリアーナ」


「ん?」


「変わってるって、よく言われないか?」


「言われなくもないかなあ、隠してるけどね。美的感覚のズレは致命傷レベルだから、死ぬまで……いや死んでも治らないよ。ラーシュかっこいい」


 腑に落ちない。腑に落ちないが、そういうことで納得しておくしかないのだろうか。時間が経てば納得できる日が来るのか。


「ラーシュ」


「ん? ……っと」


 突然、アドリアーナが抱きついてきた。わけもわからずに受け止める。


「あはは。結構な勢いでいったのに、ふらつきもしないとか。力持ちだねラーシュ」


「ん、ああ、そりゃどうも?」


 あれ、なんで抱きつかれてるんだ俺? 俺の対応能力を超える事態が次から次へとやってきて、全てのことがよくわからなくなってきた。


「ねえ、ラーシュ」


「ん?」


「私のことさ、人を容姿で差別しない綺麗な人間だとか思ってない?」


「え?」


 思ってるもなにも、俺を好きとか言う時点で……。


「事実だろ?」


「ぶぶー、違います。心の中では差別しまくりです。いや、それを態度に出したりはしないつもりだけどさ。やっぱり好みの容姿の人といたいって思うよ? ……鏡は大っ嫌いだし」


「鏡?」


「いや、こっちの話。私が容姿で差別しないように見えるのはさ、偏に、私の美的感覚がズレてるせいなんだよ。ちょっとズレてるみたいな感じで伝えたかもしれないけど、実際はもうね、周りのみんなからしたら崩壊レベル。ラーシュみたいのが理想」


「……」


 ちょっとなにを言ってるのかよくわからないんだが大丈夫かこの子。


「元は一目惚れなんだよね。だからアタック頑張ってみたんだけど、ラーシュ勝手に勘違いしていくし」


「……いや、そりゃ、まあ……」


「というわけで、最初は見た目だったんだけど、さ。ラーシュ可愛いし気が利くしかっこいいし可愛いし優しいし、あと、可愛いので! 大好きなんだよね、本当だよ?」


「十九年ほど生きてきているが、可愛いなんて言われたのは初めてだな」


 まあ、他も限りなく初めてに近いけどな。唯一、気が利く、だけは言われたことがあったかもしれないがわからない。


「そりゃこれだけ精悍ならねぇ」


 クスクスとアドリアーナが笑う。


「つまり、私が言いたいのはさ。私もそんなに綺麗じゃない、見た目を気にしてるんだよってことが一つ。あと、その見た目を気にした結果、ラーシュは限りなく理想に近いんだよってことが一つ。でも見た目だけじゃなくて中身も、ラーシュ可愛すぎて大好きだよっていうのが、一つ。以上!」


 あれ。さっきから、ひょっとして俺、熱烈に告白されてるのか? ようやく気付いたんだが、これそうだよな。信じられない内容のくせに本気っぽくて逆に怖いんだが本気なのか?


 どこか靄がかかったようにクリアでない思考の中で、もしも本当ならこんなに俺にとって都合のいい話はないと、そう思った。






 その後。


 アドリアーナがそろそろ帰るという時間になってから、俺たちは彼女お手製のプリンの存在を思い出した。


 俺が送れば少しくらいは遅くなっても問題なかろうということで、一緒に食べてから帰ることになった。


 甘い物が好きらしく、幸せそうに食べるアドリアーナは非常に愛らしい。一方俺は、甘い物は苦手である。だがせっかく作ってくれたのにそれを言うのも憚られて(というか絶対言わねぇ)、食べることにする。無駄に甘ったるく作られてはいないので大丈夫だ。


 そう思っていたのに、半分いかないくらい食べたところでアドリアーナが怪訝な目を向けてきた。


「ラーシュ、ひょっとして……プリン嫌い?」


「え⁉︎」


「あー、やっぱり嫌いなんだ! ちゃんと言ってくれればいいのに」


「いやいやいや待て待て待て、なんでわかった? 普通に食ってただろ」


 そう聞くと、アドリアーナはキョトンとした顔をしてから苦笑した。


「うーん、ラーシュのことをよく見てるからっていう変態的な返答しかできないんだけど、それでいい?」


「へ?」


「プリンが苦手なの? それとも甘い物全般?」


「……その、全般だな」


「わかった、覚えとく。次からはちゃんと言ってね?」


 言いつつ、アドリアーナは俺のプリンを手に取る。そして、わざわざ自分のスプーンを置いて、俺のスプーンで食べ始めた。自分が赤くなるのがわかる。


「あはは、ラーシュだってやったんだからね?」


 あの時はわざとじゃないわ!


 今日もまた翻弄される俺は、心の中だけで突っ込みを入れた。

この話まで本編に組み込んで完結にすればよかったと少し後悔中です。


多くの方に読んでいただきまして、感激しております。ありがとうございます。


追記

自分でこの世界には米がないとか言っておきながら、アドリアーナがオムライスを作るシーンを盛り込んでしまったので、オムライスをグラタンに変更しました。ご迷惑をおかけしました。

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