1章/傀儡は踊る -3-
今回から闘いが始まるといったな、あれは嘘だ。
さて、長く開いてしまいましたが、やっと投稿できました!
これだけの文章にどんだけかけてるんだ自分…
「-----…ん…うん、そうか。あぁ、分かったよ。それについては私が対処しておこう。-----心配するな、こっちもプロだ。……じゃ、また。」
使い古された黒電話の受話器をそっと置き、短く溜息をつく。
「やれやれ…これはまた、とんでもないモンが来ちまったようだね」
黒のトレンチコートを羽織り、煙草をくわえる。
外に出るときはいつもこうしているのだ。
何時もと違うのは、鞄を持っていること。
こいつは仕事用。
大きく重量感のあるそれを、彼女は軽々と持ち上げ事務所を出る。
「 -----気怠いな。自ら仕事に赴くのは久し振りだ」
口からこぼれた言葉とは裏腹に、夭仔は胸の高鳴りを抑えることができず、小さく笑った。
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冷たい風が頬を撫でる。
屋根の上から見下ろしている金髪の女からは、鬼気とした威圧感が伝わってくる。
その目は暗く、鋭くそして、深い。
-----正直、逃げ出したい位だ。
だが幾数もの人形がそれを拒む。
ふと、女が笑った。
「久しぶりねぇ、ミーシャ。私の人形、よくも殺してくれたじゃない」
巳紗を知っている?
横目で彼女を見る。
彼女も同じ様に笑っていた。
「基礎魔法なんかで消し炭になるような安い玩具を使うからでしょ。人形師オリヴィエ・キャメロットの腕も落ちたものね。」
オリヴィエと呼ばれた女は明らかに癇に障った様子で、巳紗を睨みつける。
「あんたみたいな魔法使いがこの町にいるって知っていたら、もっと強い子を用意していたわ。ミーシャはてっきり、イタリアにいると思ってたんだけど」
「オリヴィエこそ、日本になんて来ないと思ってた。ドイツ辺りでせっせと小遣い稼ぎしてるんじゃなかったの?」
「----オーナーが変わったのよ。いろいろあって」
「変わったってまさか、あなた依頼主を殺して乗り換えたんじゃ---」
巳紗がそう言おうとするやいなや、オリヴィエは僕らを一層睨みつけた。
「------私が彼女を殺すわけないでしょ」
巳紗は安堵の溜息を漏らす。
「それは良かった。
でも、少し驚いたわ。あなたにまだ依頼主がいたなんて。
あなたの魔法は現代じゃ非効率な上に、法外な資金が必要だというのに」
オリヴィエは巳紗を一瞥し、
そうね
と漏らす。
「----私の専門は、マナのみに頼った人形操作-----つまりは古典黒魔法。
体内外魔力供給が主流の現代に於いて、私の魔法は確かに非効率。
「魔女狩り」の時に減ってしまったマナは、今尚200年前の1/1000にも満たない んだから。でも、私の人形ほど真理に近い物は現代にはない。私を必要としている輩は、つまりそういうことに使おうとしている人達。」
気のせいだろうか。
巳紗が、眉間にしわを寄せた様に見えた。
「成る程。そういう輩、ね…。
確かに、あなたの人形は誰にも真似できはしない。現代で、マナのみで動く人形の製造が可能なのはあなたと、〈童話語り〉くらいでしょうね。しかもあなたの人形の場合、マナ不足により人形の力が十分に発揮できないにも関わらず、最高級の完成度を保っている。流石は〈傀儡師〉の称号を持つ、世界最高の人形師といったところかしら。」
今のは巳紗の精一杯の賞賛だ。
だがオリヴィエは、そんなことは気にも止めない、という様子で
「…私をあんな紛い物と同列に扱わないで。あれは人形師とも呼べない出来損ないよ。全く、気分が悪い」
そう吐き捨てるように言った。
「--------紛い物、か」
巳紗は呟く。
まるで、自分もそうだと言いたげな様子で。
その瞳はどこか遠くを見つめているように、僕には思えた。
「------巳紗?」
不安になって、名前を呼んだ。
巳紗がどこか遠くへ行ってしまいそうな、そんな恐怖が湧いてきたから。
「?
どうした、 址故?」
巳紗は訝しそうに顔をしかめている。
「いや、何でもない…」
巳紗がいなくなってしまう。
何故そう思ったのかは分からないけれど、とても怖かった。
「址故、何をそんな心配そうな顔をしているんだ。私の顔、何か着いてる?」
「本当に何でもないよ、気にしないで…」
-----ふとオリヴィエを見ると、驚嘆の表情を浮かべてこちらを見ている。
「巳紗あんた、人語を話せる使い魔を使役できるようになったの?…少し、見直した。あんたの魔力構炉って、規模ばっかりで中身はお粗末な欠陥品だと思ってたんだけど。」
巳紗はきょとんとしている。
そりゃあそうだ。
巳紗には使い魔なんていない。
というか、そもそも使役出来ない。
それは何故か。
巳紗は確かに強大な魔力構炉を持っているが、精密さや複雑さ、つまり“質”という点に於いては、並の魔法使い以下なのだ。
それ故、巳紗は複雑な魔法が苦手だ。
〈降霊〉の魔法でも手に負えない巳紗が、さらに〈変性〉の発展である〈同調〉を使って霊体とのパスを繋ぐことなど不可能だろう。
「オリヴィエ、あんた何を言っているの?私は使い魔なんて呼んでないし、ていうかそもそもいないし。そんな事、あんたが一番良く分かってる事じゃない。」
「じゃあ、そいつは何なのよ。」
そう言ってオリヴィエは指指した。
………………僕を。
「は?」
「え?」
いや、ちょっと待って欲しい。
確かにこの場に普通の人間がいるとは考えにくいのかもしれないが、それは無いだろう。
酷い。これは酷い。
何という冒涜だ。
「僕が、こんな奴の下僕だなんて…」
「址故、今私のことこんな奴って言った?」
しまった。
余りのショックで、つい本音が口を突いて出てしまった。
「いや、気のせいじゃないの?」
そう言って笑って見せたが、巳紗は明らかに顔を歪めている。
「あぁ、いや悪い。……ごめんなさい。」
「…………うむ。」
危なかった。
もしも彼女を怒らせていたら、1時間を優に越える説教をお見舞いされるところだった。
巳紗は一息ついてオリヴィエに向き直る。
「で、馬鹿騒ぎは終わった?」
「ごめんなさいね。うちの連れがうるさくて」
あの魔女…………。
「じゃあ、紹介するわね。こいつは真榊 址故。人間よ。使い魔でも何でもないわ。訳あって私の仕事の手伝いをしてる。」
「人間……?魔力を感じないと思ってたけど、本当に、只の人間だっていうの?」
「ええ。」
オリヴィエはその顔を掌で覆った。
「そうか……つまりあんたは、そんな奴に魔法の神秘を晒したのか……」
こちらを睨む目は、先程とは比べ物にならないほどの怒りに満ちていた。
「今ならまだ間に合う…。そいつを殺してやるから、こっちへよこせ…」
オリヴィエは静かに、しかしはっきりとそう言った。
「嫌よ。なんであんたなんかに。」
それを聞くやいなや、オリヴィエは怒りに満ちた声で喚呼した。
「白蛇と呼ばれ恐れられたあんたが、堕落したものだ。それ以上その醜態を晒すというのなら、今ここで貴様を殺す!!」
巳紗もオリヴィエを睨み返し吐き捨てる。
「はっ、あんたの人形を壊した時点で、私達を無事に帰す気も無かったくせに。」
その声とほぼ同時に、僕達の周囲に待機していた人形達が動き出す。
「走るよ!」
巳紗は僕の手を引いて駆けだした。そして、
「さてさて址故クン、死なないように気をつけな!」
舞踏会の始まりを告げた。
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------港に着いた。
杷戯浪 夭仔は車を降りて、辺りを見回す。
1、2、3…4
あった、四番倉庫。
知り合いの依頼主によれば、ここには毎夜、真っ黒い格好をした盲目の男がやってくるらしい。
先日地元の漁師達が正体を探りに行ったが、彼らは3日以上たっても帰ってこなかったという。
その漁師達の1人に依頼主の友人がいたため、彼は夭子に友人の捜索を頼んだのだ。
しかし夭子の見立てでは、友人は既にこの世にはいない
なぜなら男の正体はきっと………
いや、余計な事は考えなくていい。
私の仕事はあくまで人探しだ。
そう自分に言い聞かせ、夭子は倉庫へ向かった。
倉庫の前まで来ると、鍵が開いていた。
「開けっ放しか----全く、誰だか知らないが、使ったのなら鍵くらい掛けておけ。」
悪態を吐きながら、扉に手を掛けたときだった。
突然、背後から声を掛けられた。
「いやぁ、すみません。つい先程まで留守にしていたもので。--------
----------------------------------------------今戻りました。」
嗄れた老人の声。暗い夜の世界に響きわたるソレは、どこか異様さを感じさせた。
「----------!!!」
夭子は咄嗟に倉庫の扉を開け、中へ転がり込んだ。
---扉を睨む。
黄色い目がこちらを凝視している。
何て事だ。
私が背後を取られるなんて---
「貴女も、私に捧げに来てくれたのですか?」
暗闇の中、その男は確かに笑った。
何だか今回は巻いた感じがするなぁ…
もうちょっと上手く纏めたかったです(´д`)
次でこの章は終わりです。
多分終わりです。多分ね。
次回、オリヴィエの目的と男の正体!さらに…!?
乞うご期待下さい!!