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第二章 探検

 「うっわー凄い!」

「これ全部、由良と紅陽がつくったのか!?」

 外観は古城と言っても、中身はハイテク。キッチンもリビングも真新しく、豪邸となんら変わりない。だが、窓だけはやっぱり開かなかった。

「うまい!」

 二人の料理に舌鼓をうちつつ、パーティーは和やかに進行していく。

「こうやってリビングとかにいると城って感じしねえのに、廊下に出るとまるっきり城だからなあ。よく作ったもんだ」

「いや、作ったんじゃないみたいだよ」

 レイがピラフを食べながら言った。

「もともとあったらしいんだ、この城は。でも城主が亡くなって……。壊すのももったいないし、想い出もあるから、もしよかったらお子さんたちで使ってくださいって譲り受けたのを僕たちにってことみたい」

 多少の手直しは加えたみたいだけどね、と付け加えてまたピラフを口に運ぶ。

「へ、ふぇんふぇんひりゃなかったぜ」

「もー口に物入れて喋らないでよ駿」

「悪い悪い」

 上手いからつい詰め込んじまうんだよな、と褒められた由良と紅陽はそれ以上はなにも言わず、苦笑しただけだった。

 一通り食べ終わると、男性陣が食器を洗ってくれた。食事を作ってくれたお礼らしい。その言葉に甘えて女性陣はテレビを見ながら寛ぐ。大きめのプラズマテレビを見てのんびりソファに腰かける。

『えー、ただいま事件現場に来ております。今月だけでもう三件目になります強盗は、同一犯とみられており、警察は引き続き捜査を続けています』

 テレビにはお洒落な外装のお店が映し出されている。高級な店が犇めく通りでは夕方といえど人通りは少なくない。警備の目だってゆるくないはずなのに、白昼堂々この働き。そこで強盗に及ぶなんて勝算があったのか、ただの馬鹿なのか、とは二人の率直な感想だ。

「あら、よく見たら最近ようやく日本に出店したブランド店だわ。なかなかいいデザインよね」

「あぁ、凄い高値がついてるやつ。売り飛ばせばいい額になるんだろうな」

「おいおい二人とも、着眼点はそこか?」

 食器を洗い終わったらしい駿が紅茶を入れてくれていた。苦笑いでそれを差し出す彼は物騒な感想の数々を聞いていたらしい。

「随分と素敵な感想だな」

 それを聞いた二人はころりと意見を変える。

「強盗なんてこわいわ、紅陽」

「大丈夫だよ由良。二人を盾にして私たちは一緒に逃げようね」

「ちょっと、僕まで盾?」

 駿くんだけでいいでしょ、と笑うレイは意外に腹黒いのかもしれない。

「おい、まさか俺を見捨てないよなあ、男の友情だろ?」

「紳士としてはやはり女性の意見を尊重しちゃうんだよね。ごめん駿くん」

 何故か一人だけ窮地に立たされた駿。にやりと笑う三人。

「あー、もう降参だ降参!」

 駿は両手を上げてオーバーに抵抗の意思がないことを表現した。

「やれやれ、お姫さまたちにはかなわねえな」

「至極現実的に見た素晴らしい意見だったでしょう?」

 由良の言葉に、駿はなにも返さなかった。返したところで、負けると分かっていたのだろう。

「ねえ、食後の一服も済んだことだしさ、探検しない?」

「探検?」

「だって、この城、広いしさ」

 どこになにがあるか、さっぱりわからないしと言われれば反対する理由はない。事実、彼らが把握しているのは談話室とトイレ、そして食堂兼リビングのここのみ。城で迷子になりました、という話もないではないのだ。城(自宅)で迷子になって、警察に通報。嫌だそんなの。笑い話にもならない。

 そんなのりで探検を始めた四人。正直言って、城というものを舐めていた。とにかく、広かったのだ。立派なビリヤードのある遊戯室はゲームソフトも充実していた。そして四人に与えられた個室にシアタールーム。見つけたのは部屋だけではない。廊下に飾られる絵画。立派な扇に、もとは船と思われる木片。

「なんか曰くつきっぽいものがたくさんあるけど、兄ちゃんはどんな人からこれを買ったんだろう?」

「ちょっとした博物館みたいだよねえ」

「プレゼントは博物館も兼ねてるってか?全く豪華すぎて笑えやしねえ」

「そう?なかなか面白い趣向じゃない?あら……」

 次にたどり着いた扉はどこか不気味だった。扉が、というより隣に置いてある甲冑が、だ。

「そういえば、玄関入ってすぐのところにもあったよねえ、甲冑」

 レイはさほど気にした様子もなくじろじろと甲冑を眺める。

「見られてる気がして不気味」

 それに引き替え紅陽の評価はよろしくない。確かに薄暗い廊下の光をあびて鈍色に光る甲冑にいい印象を抱けという方が難しいだろう。

「まさか動いたりしないよね」

「おいおい、どこのホラーだ、それは」

「動けば音がするからすぐ逃げられるし、大丈夫だよ駿くん」

「……そういう問題じゃない気がするのは俺だけか?俺だけなのか?」

「それより私はなんの部屋なのか気になるわ」

「甲冑が守るくらいの部屋だからなあ。まさか、拷問部屋?」

 明るい声で放たれたレイの言葉に三人は固まった。そんな、物々しい部屋はいらない。まさかお城の再現で造りました、とかはないよな。やめてくれよ、そんな気遣いいらない。三人の顔がさっと青ざめるのを見て、今度はレイのほうが慌てた。

「え、嫌だなあ、冗談だよ冗談。っていうか、皆怖がると僕も怖くなっちゃうんだけど!お願いだから黙ってないでなんとか言って!」

 結局その扉は怖がらせた責任としてレイが開けることになった。

「うぅ、口は災いの元って本当だ……」

 覚悟を決め、一気に開け放つ。そこに広がっていたのは血なまぐさい拷問器具……ではなく、

「うわあ」

 部屋に並ぶのは、瓶、瓶、瓶。レンガ造りの部屋いっぱいに収まる瓶の中には深紅の液体。ワインセラーだった。

「おお!いっぱいあるよ!」

「飲んでいいのかしら?」

 途端に目が輝くレイと由良に、冷静な咳ばらいが一つ飛ぶ。

「未成年だぞ」

「未成年の城に酒おいとく方が悪いよ」

「未成年の城にお酒置いておく方が悪いのよ」

「……紅陽、助けてくれ」

「そうだよ二人とも。飲むのはちょっと……。いつの物かもわからないし、確認してからじゃないと」

「おい」

「まあまあ、もう大学生なんだし駿くん!」

「そうよ、今月で私たち、全員二十歳になるのよ?」

「駿はお酒嫌い?」

「……大好きだ」

 くそぅ、うまそうな格好しやがって!と呟く駿に、レイが腹を抱えて笑った。四人にとって、思わぬ収穫。惹かれる気持ちは強いが、今日はとりあえず置いておいて、それぞれの誕生日に一本ずつ開けることになった。

「いい発見したね」

「本当。でもたくさん歩いたから少し疲れたわ……」

「じゃあ、この部屋見たらリビング戻ってゲームでもしようぜ」

 駿がそう言って開けたその部屋は、溢れんばかりの本。

「書斎、か?ここは」

「本当にお城の中にあるような書斎だわ……」

 西洋的な造り。豪華な本棚。絵でしか見たことのないような光景が目の前に広がっていた。

「目的の本探すだけでも大変そう」

 近くの本棚にレイが近づく。

「えーと、なになに?実録世界の秘宝?なにそれ面白そう」

「こっちのは、ノアの方舟に迫る、不老不死を解明する……。伝説物が好きだったのかな、前の城主」

「八尾比丘尼に関する考察、長い人生を楽しむ生き方って書いてあるぜ。哲学かなにかか?」

 探せばまだまだ面白いタイトルがありそうだったが、これらの書籍を読み切るには莫大な時間がかかるだろう。それこそ、何年もかけて。

「何年も、ここで付き合っていければいいわね」

 由良の言葉に、三人は当然だと言わんばかりの笑顔で頷いたのだった。


「うわっ、負ける負ける!」

「最後の一撃!くらえ!」

 カンカンカン!という音とともに、紅陽の使っていたキャラが嬉しそうに飛び跳ねた、一方の駿操作キャラは倒れたまま動かない。

「また負けた……」

「やっぱり大画面でやるゲームはまた格別!」

 先ほどから連戦連勝の紅陽は勝利の美酒ならぬ、美茶を味わう。それに引き替え負け続ける駿。レイと由良もこてんぱにされて休憩中だ。

「紅陽!少しは手加減しろよ!」

「してるでしょ、十分。裏コマンド使ってないし」

「嫌だわ駿、負けた相手に絡むなんて……」

 ぐ、と駿が言葉に詰まった。手加減だなんだと言う時点で自身でも潔くないという自覚はあるらしい。

「スミマセン、モウヒトショウブオネガイシマスユウヒサン」

「駿くん、なんか発音がぎこちないよ」

 この際冷静なつっこみもスルーして。再戦の申し込みが無事受諾された駿は次こそはと意気込み、レイと由良は

「どっちが勝つか、お茶菓子でもかけましょうか?」

「嫌だなあ、失礼だよ由良くん。紅陽くんに対して」

「んとに失礼だよなあ、お二人さんよぉ……!」

 見てろよ、次こそは……!と挑発に乗ってしまう時点で負けの確立が高くなっていると、駿自身は気が付かない。

「……?」

「あれ、どうしたの由良くん?」

 見ないの?と促すレイに頷きつつ、由良は問いかける。

「レイの携帯、見せてもらっても?」

「携帯?はい」

 あ、そうか、メアド交換してないもんね、と取り出した携帯はターコイズブルーのいわゆるガラケーだった。

「紅陽!今大丈夫?」

「んー?どうしたの?」

 画面から目を離し振り向く紅陽だが、その間も指が止まらない。そして始まる連続攻撃。

「げっ」

「紅陽の携帯ってどんなの?」

「黒に金の王冠シールが貼ってあるガラケーだよ。今だそうか?」

「いえ、いいの。……駿」

「ちょっと待てえ!」

 入る右パンチ。ガード。足払い。必殺技。反撃。応じられて必殺コンボ。

「やったあ!私の勝ち!」

「……。で、携帯か?」

 駿が出したのは、赤に黒の縁取りがしてある携帯。

「そう、駿もガラケーなのね」

「由良くんはどんな携帯?もしかしてスマフォ?」

 無言の由良が取り出したのはシャンパンゴールドのガラケー。

「あれ、みんなガラケーなんだ」

「意外とガラケー多いよな。俺の周りもスマフォはほとんどいないぜ」

「皆、ガラケーなのね。もう一台持ってたりしない?」

 答えは全員否。

「由良くん、それがどうかしたの?」

 由良は何も言わない。ただ眉間に深い皺を刻んで。皆が不思議そうにする中、彼女はやっと口を開いて言った。

「じゃあ、廊下でなってたあのスマフォ、一体誰の?」

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