跪拝せしは絶対紳士の君
貴方はとても、つまらなくて、くだらない。
どうして私が嘆息するのか、わからないのでしょう?
苛立ち紛れに人差し指でテーブルを叩く。それは、カツカツと、まるで嬌声のような高い音を上げて、折角整えたオーバルネイルがスクエアになってしまうんじゃないかと、私は時折、不安を覚えることすらある。そのような事態に陥ったことは、幸いにして一度もないのだけれど、つまり、それは、そのくらい腹立たしく思う心境の証左であったりもするのだ。
私は気怠げな仕草で頬杖をつき、そうして、貴方の、低く、抑揚の乏しい、甘やかなバリトンに胸を震わせ、けれど、そんな私を貴方は、まるで、虫ピンに縫いとめられた哀れなモルフォ蝶を眺めるような、ひどく、つまらない、熱のない、興が醒めたような視線で見るのだ。私が貴方を一方的に見つめるときには、とても幸福で、戦慄めいた歓喜に満たされているのに、それが、視線が交わった途端、雲散霧消し、虚勢に塗れた、孤独に苛まれた、哀れな私の真の姿を暴き立てる。その度に私は笑顔の仮面を被り繕う。
私を壊した貴方は、決して欠片を拾い上げてはくれない。それすら積み上げて、貴方は高みへ登ってしまう。高くて、遠くなる。
「それは、おかしな話ね。約束を破ったのは貴方のほうなのに」
「約束した覚えはない」
「拒否しなかったわ」
「肯定もしてないはずだが」
「私が誘ったのよ。それを貴方は拒否しなかったんだから、約束は履行されるものと仮定すべきでしょう?」
「…………」
貴方の嘆息が、私の内部を凍えさせる。けれど、私にはこの生き方しか与えられなかった。
フリルの裾を手繰り寄せ、襟元から覗く貴方の精悍な胸元に指先を這わせ、擦り寄ってみせる。
貴方の視線が、私の胎内を這い回る。けれど、私にはこの愛し方しか与えられなかった。
さあどうぞ、指先をとってみて。跪いて頭を垂れて。仮面を剥がし、私に真の愛を――――