カチコミの宵
丁寧に貼られた障子が勢いよく開いた。
「あ、ヤスさん、いや、これは、その。」
俺は笛をとっさにポケットにしまいながら言った。
「は、なんの話ですかい。それより、早く、あっしについてきてくだせぃ。」
久地組には地下室があった。大型のパソコンがあり、デイさんが向かっていた。
「やつらが来とります。」
デイさんはディスプレイから目を離さずに言った。
「いや、ちょっと待ってください。やつらって。てか、まゆこさんは。」
とまどっている俺に、ヤスさんが対応した。
「お嬢はカオルが先に安全な場所へ連れて行きやした。」
「いやいやヤスさん、そういわれましても。」
次に口を開いたのはユウちゃんさんだった。
「とにかく、今は岳殿の安全も確保しなくてはなりません。」
そう言ってユウちゃんさんは俺に一枚メモを渡した。そのとき俺は初めてユウちゃんさんの字を見た。はずだ。多分。しっかりメモを読もうとしたが、その間を与えずデイさんが叫んだ。
「やつら、地下室に気付きましたっ。」
タクミさんが木刀を抜きながら、
「ここはおれが時間を稼ぎまっすー。」
ほぼ同時にヤスさんが俺を担いで走りだした。
「デイ、裏道はぁ。」
「開けときやしたぁ。」
ヤスさんは俺を担いだまま裏道へ向かった。後ろにはユウちゃんさんと、なぜかマウスを持ったままのデイさんが続いた。
「ここは。」
裏道を抜けた先には見慣れた校門があった。連続放火魔注意のポスターと未逮捕の強姦殺人犯のポスターが貼られている。
「もともとは、お嬢が遅刻しないために造ったんだけど。」
「てやんでい、デイ、いらんこと言うんじゃねぇ。」
校門は夜だからか、いつもとは違う、はじめて見る鉄のかたまりのように見えた。冷めた風が俺の目を乾かす。
「まゆこさんは。」
ひとりごとのつもりだったが、ヤスさんは返事をしてくれた。
「今は言えやせん。それより、かかわっちまった以上、岳さん、あんたも狙われます。ここは逃げるのが先決です。お嬢は大丈夫。カオルはああ見えて空手の有段者です。しかも、元ベーシストです。心配ねぇでしょう。」
ヤスさんとユウちゃんさんが門を開けた。そのとき、後ろから人影が。
「いけねぇ。もうこの場所がばれたか。デイここは任せた。」
デイさんは真剣な面持ちでカメラを取り出した。俺は再びヤスさんに担がれて、校内へと進んだ。