五人の男
「松の木ある家とか、俺はじめて見たわ。」
「どうぞ、上がっていって。」
予期せぬチャンスだが、今は話が変わった。
「いや、俺は、ここで。」
「遠慮なさらないで。」
まゆこの目は無邪気だ。
「ただいま」まゆこの一言で門が開いた。中には強面の男が五人。
「おかえりなせぃ、お嬢。」
全員が同時に頭をさげる。松にとまっていた雀はすべてどこかへ飛んで行った。
「お、お嬢、その方は。」
一番年上であろう三十代くらいの男が叫んだかと思うと、今度は一番年下の十代であろうスキンヘッドの兄さんが掴みかかってきた。
「てめぇ、お嬢に手ぇ出すたぁ!」
俺はちびりそうだった。というよりちびった。
「やめんか、デイ。」
まゆこが一喝すると、俺の胸元を掴んでいた手はためらい気味に離れた。
「ヤスも失礼だろう、いきなり。」
三十代くらいの男も「へい」と俺に頭をさげた。
「いや、い、あの。全然そんなあれじゃないんで。あの。」
俺の必死の言葉を右手で遮り、
「いいから。今日は親分もいませんし、ゆっくりしていってくだせぃ。」
と、三十代くらいの男はドヤ顔で言った。
「いや、ほんとにそんなんじゃ。」
しかし、今度はまゆこに遮られた。
「おめぇら、客が来てんだぞ。おい。自己紹介のひとつもしねぇで、なぁに突っ立っていやがんだ。」
松には雀どころでなく、針葉の一本も残っていないだろうと、俺は確信した。
「失礼しやした。」
最初に口を開いたのは三十代くらいの男だった。
「あっしはヤスといいやす。」
膝に手を当て中腰で頭をさげた。
「私はカオル。」
金髪を盛った、二十代後半くらいの男。宝塚の男役を思わせる、整った顔立ちだ。
「おれはタクミ、んで、こっちがユウちゃん。よろしくねーぃ。」
二十歳くらい木刀を帯刀した男が、となりの同い年くらいの静かそうな男を紹介しながら、握手を求めてきた。そして、最後に
「デイです。先ほどは失礼いたしやした。」
と、十代くらいの男。
「あ、お、俺は、松木岳です。」
「ほう、岳さんね。さ、入った入った。」
客間は畳づくりで、なにやら高そうな鳥の剥製があった。
「どうぞ。」
お茶を出してくれたのはユウちゃんさんだ。
「あ、あの、お構いなくして下さい。」
ユウちゃんさんはにっこり微笑んでどこかへ行ってしまった。あの五人のなかでユウちゃんさんは唯一恐そうでない。
「せっかくなんだけど、まゆこさん。俺やっぱそろそろ。」
「あ、それならちょっと待って。」
立とうとする俺を制しながら、まゆこが立ちあがり部屋を出た。
まゆこが席を外した、その座布団の上に笛が落ちていた。
(まゆこの、まゆこの笛。まゆこの。)
ヤスさんも見ていない、誰も見ていない。こんなに恐い思いをさせられたんだ。このくらい、罪にならないだろう。