初めてのライブと初めての心
一通り、終わった。ナナジョは歌もダンスも完璧で、演奏者は本当にうまかった。しかし。
「それで終わりか。おれの心はどーかなー。」
院長は冷淡に笑う。こんどこそ、本当に終わった。
だが、その声は私の方に近づきながら響いた。
「あーぁ。やっぱり、ナナジョは七人じゃないとね。」
みゆきさんが私のヘルメットを奪う。
「こころ。」
みゆきさんが右手を差し出す。
「早乙女ちゃん。」
ナナジョのセンターも右手を差し出す。
「さぁ、気を取り直して、もう一回いくよぉ!」
もう一度演奏が始まる。
演奏が始まって五分。諦めずに二曲目に入っていたが、院長の表情は依然として変わらない。しかし、デイが反応したのは、三曲目に入ったあたりだ。
「みなさん、これ、見てください。」
714名無しのセンター
ナナジョがシークレットライブやってるらしい
715名無しのセンター
>>714 kwsk
716名無しのセンター
>>715 波止場の第三倉庫で今ライブ中だとか。しかも、みゆき復活らしい。
717名無しのセンター
うそくせ
718名無しのセンター
みゆき復活は流石にない。
719名無しのセンター
うち、ちかいわw
行ってみるwww
720名無しのセンター
釣り宣言マダー??
721名無しのセンター
見てきたわwマジみたいww
722名無しのセンター
720なら見に行く
723名無しのセンター
でも、おまいら、行くだろ
724名無しのセンター
みゆき卒業以来、引きこもり中の俺はどうするべきか…
725名無しのセンター
行ってみるかwww
726名無しのセンター
釣りでした
727
>>724 おまえこそいけww
「ヤバいです。このままじゃ。」
「デイさん、気づくの遅かったみたいです。あなる。」
若の視線の先には、おびただしい数の、ライト、ライト、ライト。マツダもこれじゃ撃ちきれないという数のライトが迫ってくる。
「ナナジョー!」
「ここちゃーん!」
「みゆきー!」
広いはずの倉庫があっという間にいっぱいになった。バンドも、ナナジョも、倉庫中の盛り上がりに応じてヒートアップする。ちょうど、朝日が昇ってくる。と、倉庫は、いや、会場は一体となり、一つの生き物となり、燃え盛った。高校の文化祭、いや、その後夜祭以来のはじけた楽しさ、それに加えて、初恋の告白のとき以来のドキドキ感、反面、失恋のドキドキ感すら感じられる、そんなライブだ。演奏のうまい、下手とか、ダンス、歌を間違えないとか、そんなちっぽけなどうでもいい次元の話。音がどうこうではなく、もっと高度で、それでいて原始的な、「ライヴ」を楽しめるライブだった。生まれてこのかた、ライブに行ったことがないわけではない。しっかり、ロックのライブも行ったことがある。しかし、今まで行っていたライブというものが、どれだけ低レベルなものだったか思い知らされる、また、そんなことどうでもよくなるような、頭でなく、身体でもなく、心で魂で、しかもその奥底の、つきつめれば頭で感じる、あれ、何を言ってるんだか。とにかく、そういうライブだった。
その後、ライブは一時間以上続いた。ライトどもが帰ると、そこにはひとりポツンと、院長だけが残った。
「なんて、心全開の連中なんだ。あんなの初めてだ。」
院長はコンクリートをゲシゲシと叩く。塩沢さんが前へ出る。
「院長、もうよろしいですね。」
院長は濡れたコンクリートを指でなぞった。




