ロックンローラー
「何をしたいかって?今のようにお前ら、殺し合わせるつもりさ。そのための案はすでに百通り以上考えている。」
樋口が前へ出る。
「社長どうし、ビジネスで解決しませんか。」
しかし、院長は聞く耳を持たない。
「だから!金には興味ないんだよ。」
院長は続けてしゃべる。
「この船には火薬が積んである。へたなことすれば全員ドーンだ。」
誰も動かなくなった。鳥一匹いない海は初めてかもしれない。
塩沢さんが突然、私たちに囁く。
「あのぉ、院長はおそらく、自らの人間的な心を閉じ込めています。精神科の優秀医なら可能なはずです。」
なるほど。
「その心を解放すればいいんです。」
ヤスが問う。
「どうやって。」
「呼んであります。」
突然倉庫の裏から色眼鏡をかけたガリガリの男が現れた。
「いぇーいぃ、あぅ、こんばんはあの、ぼくは河津です。」
「こんなことして爆破されたらどうするんだ」と女が塩沢さんに言ったが、カオルが「爆破は切り札だ。そう簡単に使えない」と冷静に反論した。
「元、みかんのボーカル兼ギターの河津さんです。」
塩沢さんが紹介する。河津はよく見るとギターをかけているが、右手がなかった。
「さっき、エージェントさんたちにやられて、みぎてなくしちゃいましたっ。」
「えぇ、ちょ、大丈夫ですか。」
「ロックンローラーのあつい魂で心を解き放つとでも?ふぉっふぉ。」
慌てる塩沢さんに樋口が言う。しかし、塩沢さんはいきなり冷静な顔になる。
「まさか。そんなんじゃないですよ。」
それにもかかわらず女が言う。
「いや、ロック魂で心開くだろ。」
頼むからあんたは黙っててくれ。
「そうだよな。あなる。」
若も。
「いぇあぅ、おい、しおざわさん。ぼくは、めんばーのさとちゃんすくえ、すくえるっていうからよ、しおざわさんいうからきたわけなんすよ。」
塩沢さんはやっぱり慌て気味に言う。
「あぁ、ご尤もです。河津さん、では、お願いします。」
河津が一歩前へ出る。
「えぇい、せんじつですが、けっこんしまして、そ、つまのなかよくさせてもらぁってます、かたがたよんできましたぁ。」
またまた倉庫の裏からなにか現れた。ヘルメットを被った女の子たちだ。
「私たち、いま、会いにゆきます、なアイドル、ひとり脱退して六人になっても、ナナジョでーす。」
どこにあったのか空き缶が倒れる。さっき投げた樋口の名刺が風で舞い上がった。ドヤ顔で塩沢さんが院長を見るが、院長は冷静な面持ちだ。
「おい、それがなんだよ。塩沢、それだけか、だったらとっとと……。」
院長の言葉を遮る。
「ちょっと待って、待て、まだだ。」
ここで小声になる。
「ねぇ、ナナジョさん、歌ってくれない?」
しかし、河津が入ってくる。
「えぇぃ、しおざわさん、あいどるさんあいてにあかぺらですか。」
塩沢さんがうつむく。
「いっそ、俺があいつ撃ち落とすよ。あなる。」
エスパーとヤスが必死で若を取り押さえる。
「そのギター、使えんのか?」
と、女。無表情だ。
「これは、ぼくの、ギターは。」
「右手なきゃ弾けねぇだろ、貸しな。」
女、ロックンローラーからギターを取り上げた。




