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波止場の第三倉庫

 ヤスさんの趣味は変わってしまったようだが、それ以外みんな変わりなかった。

「お嬢、岳さん、無事でしたか。いやぁ、よかった。」

ヤスさんはカオルさんんのもとへ向かう。

「大丈夫か。よく頑張ったな。ありがとう。」

ヤスさんの手を借りてカオルさんが立ち上がる。

「別にヤスに感謝される筋合いはないさ。」

ここでまゆこが口をはさむ。

「ねぇ、ヤス、北進ハイスクールはやっぱり敵についたの?」

ヤスがまゆこに向き直る。

「そうらしいです。それだけじゃなく、相手には柊エージェントや石原病院もついています。」

ただでさえふらふらのカオルさんがふらつく。

「柊、だと。」

そんなに驚くことだったのか。

 それから、ヤスさんが今の状況を俺らに説明してくれた。俺はくしゃみをしながらも説明を聞き、できる範囲で理解した。

「そんで、石原病院はみゆきさんが潜入してる。」

カオルさんが手を挙げる。

「とりあえず、私らはどうすればいい?」

ヤスさんが携帯電話を取り出す。この話に携帯なんて概念あったのか。どちらにしろ、俺は持ってないのだが。

「みゆきさんから連絡があった。波止場の第三倉庫だと。」

波止場の第三倉庫か。トニーがしくじったのか。

「じゃ、行きましょ。」

まゆこが言う。

「いや、お嬢はここで。」

「何言ってんの、ヤス、ほれ、とっとと案内しなさい。ふたりも行くよ。」

男三人は「へい」と、まゆこについた。


~波止場の第三倉庫~

 なんだよ、この状況。え、絶体絶命、窮途末路、糸井重里。若のバイクの後ろに乗って来たはいいけれど、あぁ、もちろんヘルメットもしましたよ。ともあれ、なんじゃこりゃ。

「これ、全部……。」

「あぁ、柊エージェントだ。あなる。」

若がこちらを向く。死んだ、終わった。この広い倉庫に所せましと並ぶエージェント、エージェント、エージェント。この空間でこちら側の人間はおそらく、まず、目の前の若、その隣のみゆきさん、そのまた隣のエスパー十四郎と猫、少し離れてガクガク震えているいかにも弱そうな男。

「塩沢です。」

あぁ、塩沢さん。それから、後から、自ら、なぜかエージェントの輪の中という絶望的な空間に食い込んできた女がひとり。こりゃ、勝ち目あるのか。

「おいおい、ディドロ、諦めちゃいけねぇよ。あなる。」

「しかし、若、この人数。」

女がこちらを向く。

「あなた、石原組の小太郎ね。」

女、この業界に詳しいのか。

「ちょ、放火魔の人……。」

塩沢さんは女に詳しいのか。

「そうよ。まぁ、こいつらに仕立て上げられてるだけだけど。」

女は三百六十度を指さしながら言う。

「で、なにが言いたい。あなる。」

女はさらに三百六十度指さす。

「この広い倉庫、これは高橋工場ってとこのものよ。」

女は若の方を向き、続ける。

「今、あなたは人数こそ負けていても、質では負けていない、そう思っているでしょう。」

「まぁ。あなる。」

若、思ってんですか。

「それが結構そうでもないのよ。」

そこでエージェントたちの奥から声が響く。

「よく分かってるみたいじゃぁなーいの。」

奥からやってきたのは、間違いない、柊エージェント、ボスのジュリアン千春だ。

「どう、どういうことだよ。」

エスパーが私の気持ちを代弁した。足元で猫がシャーシャー言っている。

「ここは高橋工場の倉庫よーお。で、工場はアタシたちの言いなりぃ。」

倉庫の扉がガラガラと開く。

「工場ではちょっとデンジャラースなものもつくっていてねぇーえ。あんたたち、覚悟しなさーいよ。」

工場の武器が近付いてくる。もうダメだ。洗濯物、干しときゃよかった。


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