木曾組のふたり
病院の出口に立っていた。
「あっしらは北進ハイスクール本部へ急がねばなりやせん。しかし、敵の黒幕は石原病院。」
うんうん、と頷くみゆきにヤスが言う。
「みゆきさんは病院に残ってくだせい。情報集めをおねがいしやす。」
みゆきは大きな胸をゆらして驚いた。
「僕も、それがいいと思います。」
エスパーが口を開く。
「みゆきさんは病院内こともお詳しいでしょうし。」
みゆきは石原病院内へ、ヤスとエスパーは北進ハイスクールへと走った。
「義靖さん、そう簡単には北進ハイスクールへは行けないみたいですよ。」
エスパーが言ったのは病院を出てすぐだった。立ちはだかっていたのは一匹のスコティッシュフォールド。かなり大きい。
「猫か。」
ヤスはスコティッシュの前にかがんだ。
「おい、猫、確かにこいつはひでぇことをした。でも、こうして、今まさに償ってるんでぃ。」
スコティはヤスの膝に頬を擦らせた。
「許してやってくれ。」
スコに話し終わると、ヤスはエスパーに向きなおった。
「ユウちゃんは猫好きでさ。このあたりの猫はみんな懐いてたわけよ。あぁ、やめ、いい、いい。おまえは謝るな。行動で償え。」
エスパーはスに向かって言った。
「すみませんでした。ケダマ様。」
ヤスがエスパーを見上げる。
「ケダマ?」
エスパーはにんまり笑う。
「はい、毛ぇ長いから、ケダマ様っす。」
ヤスとケダマは古い草のように笑った。しかし、エスパーは突然真剣な顔になる。
「義靖さん、今度は本当にヤバいみたいです。」
~石原病院内~
こうやって改めて探索すると、この病院も知らないことだらけだわ。夜の病院をひとりでうろうろなんてあんまりしたくないけど、緊急事態だものね。とりあえず、単刀直入に院長室を目指しましょう。
「そぉれはそれは、むか~しむかしの出来事でございます。」
ビクッと飛び跳ねてしまった。いきなり大声で何だぁ?
「キコキコキコと、寂びついた音がこちらに迫ってては遠ざかり、迫っては遠ざかり。」
患者かな。でも、こんなところに病室はないはず。ここは地下の関係者以外立ち入り禁止区域だし。
「今度は鈍い音がコーン、コーンと暗い部屋に響くのであります。」
おまえの声が響いとるわい。その場にあった懐中電灯を点け、男の顔を照らす。
「部屋には何もない。ただ背びれのない魚がゆっくりと泳いでいるだけ。」
この人は。たしかロックバンドでキーボードを弾いていた、えぇと、みかんのメンバーだ。
~石原病院前~
ヤスたちの前に立ちはだかるのは、筋骨たくましい男。ヤスと同い年くらいだ。上半身裸で、腹筋は割れすぎて逆に割れていないように見るほど。しかし、両足義足で、しかも義足の長さが違うものだから、常に傾いている。
「おぉ、巨城ちゃん。久しぶり。」
ヤスの言葉にエスパーの目が飛び出る。
「巨城って、あの、石原組ナンバー2の荒木田巨城っすか。」
巨城は傾いた体を震わせ、不気味に笑った。
「クヘヘヘ。久しぶり、ヤス。またこうしてお前と戦えるなんてうれしいぃよぉう。」
エスパーは動じることなく、一歩前へ出た。
「なんだよ、そのアニメ化するなら完全に若本規夫って感じのしゃべり方は。」
そしてヤスへ向き直る。
「義靖さん、ここは僕に任せて。まゆこさんの元へ急いでください。」
しかし、巨城がヤスを指さす。
「おい、お前じゃあないのかよ。なんでアヒルを相手にしなきゃあいけないのさ。」
ヤスは一度前へ出ようとしたが、エスパーと視線が合うと背を向けた。
「おいおい、いやだぜ、あっさりやられちゃうようじゃ。」
巨城の言葉を、背中のままヤスが遮る。
「うちの組を甘くみてもらっちゃ、困りやすよ。四郎、あとはよろしく。」
走り出すヤスへ巨城が叫ぶ。
「待てよ、ヤスぅ。」
「待たねえよ。」
「そうじゃあねえよ。」
巨城がヤスの全身を目でなぞる。
「お前、そんな趣味だった?」




