父さんのためにできること
「前脇田先生、御時間、よろしいでしょうか。」
ノックをし、ドア越しに言った。
「早乙女か。入れ。」
早乙女は「失礼します」と一言かけ、入室した。
「先ほどのお話の件ですが。」
前脇田は呆れたように持っていたペンをくるっと回し、口をはさんだ。
「それなら百山にも訊かれたよ。」
しかし、早乙女はまつ毛一本動かさず話し続けた。
「物品の売上ですが、予想売上の半分以下でしたね。」
前脇田が背筋を伸ばす。
「さらに、お気に入りが病にかかることで、先生はお楽しみがなかなか最近できなかった。」
前脇田はメガネをかけた。
「金と女。それがうまくいかないくらいで、若い女の子を落胆させますか。」
ふたりの目が合う。
「何か。俺に逆らおうってのか。」
前脇田はまたまたペンを回す。
「第一、女の子を落胆って、重すぎんだよ。」
早乙女は懐から冷蔵庫を取り出した。
「みらのは全員分の冷蔵庫をつくってきてくれました。あやこは遅くまで、寝坊するほど歌詞の復習をしていました。こころはいつもみんなに気を配り、励ましていました。ちさともそうです。他のメンバーだって全力でした。私じゃマネできないほど、全力でした。」
回していたペンが机上に落ちる。
「おまえ、ほんといい加減にしろよ。」
早乙女は冷蔵庫をしまいながら反論する。
「私をクビにできますか。売上、相当落ちますよ。」
前脇田はメガネを外す。
「あぁ、してやるさ。クビだよ、クビ。」
早乙女は勝ち誇ったような目だ。
「あら、とうとう壊れましたか。もうちょっとキレる大人だと期待していたのですが、残念です。」
早乙女は辞表を残し、部屋を出た。
早乙女が百山の肩を叩く。初めてかもしれない。
「ナナジョ、辞めてきたわ。」
「え……。」
百山は裂きイカから手を放す。
「一緒に辞めて、前脇田を見返してやりましょう。私とあなたが抜ければ、売上はドーンと下がる。」
百山は早乙女の肩をつかむ。
「でも、早乙女ちゃん、他のメンバーは。」
「それは、後から私たちが引き抜けばいいわ。独立よ。」
「私には、ナナジョを見捨ててるようにしか聞こえないわ。」
何かをつぶやいて、早乙女はゆっくりとヘルメットを置いた。
この早乙女さんを見つけ出せれば、石原病院倒産を狙えるかも!
こんにちは。あぁ、これは信裕の文書ではないです。僕は信裕の息子、雅志です。いや、父の遺品を整理してたらですよ。先ほどのメモを見つけちゃったわけですよ。
僕、どうすりゃいいんだろう。




