09.強き者は生き、弱き者もあがく
「おい、いつまで寝てんだ。もう再生も終わってんだろ。起きろ起きろ」
そんな声と共に、泡照は最悪な気分で目を覚ました。
ぼんやりとしながら周囲を見渡す。
そこは、一言で言えば、焦土だった。
建物の残骸。炭状になった何か。抉れた地面。ニュースで見た、内戦が続く、遠いどこかの国を思い出す風景。
「ああ、先に言っておくが、ここは日本だ。夢とか幻とかゲームの世界とかじゃなく、現実の、日本だからな」
泡照の思考を先回りするかのように、男は説明を続ける。
「……おいおい、頭でもやられたか? 俺だよ俺。灰江田。覚えてるか~?」
「あんた、吹っ飛ばされて死んだんじゃ……!?」
「あん? あんなの上手に衝撃を殺して受け身を取れば、なんてことねーんだよ」
いや、受け身でどうこうできるもんじゃなかっただろ。
泡照は喉まで出かかった言葉を飲み込む。自分の身体も含めて、何もかも馬鹿げたことばかりだ。いい加減、麻痺してきた。
「なあ、一体、何がどうなっているんだ?」
「曖昧な聞き方をしやがるなあ。そうだな……強いて言うなら、そこにいる宇宙人と愉快な下僕たちがちょっとヤル気出し始めたってとこかな」
灰江田の視線の先には、軽薄そうな男が立っていた。真っ白なスーツにサングラス、オールバックになであげた黒髪。いつだったか、泡照に謎の力を植え付けた男。
男は出来のよい生徒を自慢する教師のように得意気に語り出す。
「やあ、泡照君、だったかな。お久しぶり。いや~君のクラスメートは君と違って実に優秀だね。力のついでに何人か兵隊をプレゼントしたらもう暴れる暴れる! よっぽど嫌なことがあったんだろうね~。お陰でこっちは今月のノルマが何とかなりそうだよ。この分だと近いうちにこの日本とか言う国も終わるんじゃないかな。君も彼女に振り向いてほしかったら、同じくらい頑張ってくれよ。……ああ、いけない。そろそろ昼寝の時間だ。それじゃ~」
言いたいことを言いたいだけ言うと、男は姿を消した。
「今の状況、理解できたか?」
どこから取り出したのか煙草を吹かしながら、気怠げに灰江田は尋ねる。
「えっと、よくわからないけど」
ほんの少し前だったら、自分の脳みそが心配になるような答えを口にする。
「……世界滅亡の危機?」
「大体合ってる」
「……そりゃ大変だ」
「なんだあ? 随分と落ち着いていやがるな。つまらん。少し前とは別人みたいだぜ。可愛い女の子に下半身消し飛ばされて、イッちまったか? 賢者になっちまったか?」
「そういう下ネタは、職場の飲み会でやってくれよ」
「ははっ。その職場がまだ残っていればそうしたいとこなんだがな。まあ、その分だと頭も随分冷えたみたいだな。もう、お前はいいや。帰ってクソして寝てろ。帰る所がまだあるなら、だがな」
じゃり、じゃり、とそのまま歩き去って行く。泡照は思わず呼び止めた。
「あんたは、どこ行くんだよ?」
灰江田はそれには答えず、独り言のようにつぶやく。
「俺はよ、こういう状況が生み出されないようにするために、これまでずっと、お前らみたいな力の使いどころを知らない馬鹿どもをぶちのめしてきたんだ」
「……」
「そしてこれからも、生きている限りは、きっとそうする」
「……」
「お前は、どうする?」
「あんた」
「あん?」
「本当に……正義の味方だったんだな」
「はっ! どちらでもいいさ。正義でも悪でもよ。あいつらが気に入らないことには変わりねえ」
「……色々と、よくわからないことだらけだけど、とりあえず僕は、あの子を、和灸利亜を、止めたいよ」
「へっ、今時の若いもんらしい、手前勝手な台詞だな。あの子をどうしようが、お前がやったことが無かったことになるわけじゃねえぞ」
「わかってるよ。全部終わったら、捕まえるなり何なり好きにしてくれ」
「殊勝なこって。まあ、とりあえずはその辺に転がってるのから剥ぎ取って、下を穿けや。その身体も服までは再生してくれねえんだからよ。汚えもんいつまでもブラブラさせてんじゃねえぞ」
にっと笑うと、灰江田は再び歩き出した。
まだ少しふらつく足を強引に動かしながら慌てて支度を調え、泡照もその後に続いた。
(完)
つっこみどころは多々あったかと思いますが、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
「俺たちの戦いはこれからだ!」な、投げっぱなしエンドで恐縮ですが、このしょーもない話は、ひとまずここで終わりです。
この先、また何か性懲りも無く書くことがありましたら、その時はまたどうぞよろしくお願い致します。