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正偽の味方  作者: koyak
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01.侵略者はサラリーマン

 一人の男が、密かに抱える悩み苦しみを誰かにわかってもらえたかのような表情で、微妙に伸びたカップラーメンをすすりつつ映画のDVDを観ていた。


 男は真っ白なスーツにサングラス、オールバックになであげた黒髪。B級近未来映画に出てくるエージェントか何かのような、変わった格好をしている。彼がいる部屋はブラインドが降ろされ、主な光源は、テレビが発するざらついた光くらい。


 観ているのは数年前に公開され、その年のゴールデン・ラズベリー賞にノミネートされたハリウッド映画だった。内容は宇宙からの侵略者に対して地球人が力を合わせて立ち向かう、といった良く言っても陳腐なもの。エンディングのテロップが流れ始めたあたりで、男はため息をつきつつ呟いた。

「うん、やっぱ他星の侵略ってのはこうあるべきだよな。でっかい宇宙船とか兵器とか持ち出してさ。兵隊も沢山連れてさ」

 ぼろぼろのリクライニングチェアを大きく後ろに倒し、男の愚痴は続く。

「なのに予算つかないからって人員一人、事前情報なし。装備は一人用携帯ワープ装置一機。他、現地人なりきりセット☆と担当者チョイスの資材少々。おやつは300円までって何なんだよ! ゲームじゃないんだから。お偉いさんの給料とか何に使ってるのかよくわからん裏経費とか、削れるもんは他にも腐るほどあるだろっての。全く、未開惑星だからってナめ過ぎじゃね? この映像みたいに群れでフクロにされたら、いくら相手が原始人だといっても疲れるっての。せめて特別手当とか出してもらわんとやってられないっての」

 そこで男はハッと我に返り、視界の端に浮かぶディスプレイを確認した。

「……通信状態は今日もOFFにして……いるな。よし。こんな愚痴、部長に聞かれていたら減給もんだぜ」


 男がこの地に降りたって数週間。現地にとけ込むことには成功したものの、生来の怠け癖が出てしまい、彼が与えられた使命は何の進展もない。

 ここ数日は進捗具合の報告を催促する上司からの通信から耳をふさぐため、端末の通信機能は全て切ってしまっていた。

「とはいえ、そろそろ仕事しないと帰ったら自分の席がないってことになりそうだし。いい加減動くか~。……あ~、どうすっかな~。色々道具は持ってきてるけど、一人でこの星シメんのはやっぱちょっとキツそうだわ~。無駄に人多いし。広いし」

 男はしばらく頭をバリボリ掻いていたが、そのうちふと思い出したように床に投げ出してあった荷物の中の一つをガサゴソと漁り、中からダーツと注射器を足して二で割ったような形状の物を取り出した。

「『お前は一人じゃない。困ったときは素直に周りの人に力を貸してもらいなさい』って去年逝っちまったじっちゃんが言ってたっけな」


 取り出した物を片手に、ブラインドを半分ほど開け、部屋の窓を開ける。

 男がいる建物は細い路地があちこちに延びる繁華街の一角に建っており、あと一時間もすれば日付が変わるこの時間になっても多くの人が行き交っているのが見えた。


「こんだけいりゃ、適当に投げても誰かには当たるだろ。……えいっと」


 男が投げた何かは、頼りない放物線を描き、人混みの中へと吸い込まれていった。


(続く)

 一話目では登場していませんが、端から見れば言動がちょっと見苦しい、偽善的でお馬鹿で、色々なり損なっている少年が主人公の物語です。


 今のところ全部で10話いくかいかないか程度の予定です。

 失敗や道化役を積み重ねることになる残念な少年に、どうかお付き合い下さい。

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