ep1-3
「世界征服するにあたって。まずは拠点を得なくてはなるまいよ」
電車を乗り継ぎ一旦自宅に帰ってきた俺達
「……うん」
「だから。まずはここ、ネーヴェックを支配したいと思う」
「そうだね」
「なにより、ここは元々俺達の物だったんだしな。よし、作戦を考えてみよう」
自慢話にもならないが俺、蒼井ノエルは元王族である。8年前、想人という思術を扱う奴等の大規模なクーデターにより王であった俺の親父は幽閉され、俺達は王族としての姓を奪われた
その当時、ここネーヴェックはヴェネットの王都で、俺達の国だったという話なんだけど、まぁあんまり楽しい話ではないから追々話していこうと思う
そんなこんなで結局作戦は正面突破という事になった。考えるのが面倒になったわけではなくアドライバーの実力が未知数だから試してみようということになったのだ
「はいノエルちゃん。ノアちゃん。これ私が焼いたクッキーよー。おやつにどうぞ」
「……あ、お邪魔してます」
「ありがとうかーさん」
「いえいえ。頑張ってね世界征服」
「任せときな」
元王妃であった母さんも今ではお菓子作りの得意な普通のおばさんになっている
まぁ別にそこに想人達に対する恨みとかは無い。俺達人間が弱かっただけの話。思術の方が技術よりも優れていただけの話だ
だが、今の想人優先のこの世界は気にいらない。だから、世界征服するのだ
いまだかつてこんな薄っぺらい理由で世界征服を企んだ奴はいないだろうってレベルだ
「元老院ネーヴェック支部である! 今日こそ税金を払って貰おう! 」ドンドン
「さすが先輩! 遠慮ないノックだぜ! 」
噂をすれば影
「……この声はガウェインだね」
「あー。またあいつか」
ガウェインとはこの町の元老院支部の徴収官で、俺の事を相当嫌っている想人である
「この家の人間は2人。つまり、毎週500wenの納税義務があるのを忘れたとは言わせない」
「さすが先輩! 本当は毎月なのにさりげなく毎週に変えちゃってるあたりがすげーカッコいいぜ! 」
(どうしようノエルちゃん)
(居留守だ居留守)
母さんとアイコンタクトで会話する
「おい! さっさと出て来い」
「出てこーい! 」
「る、留守ですー」
自分の母親に言うのもどうかと思うが、多分この人はアホだろう
「そうか留守か。っておーい! 返事しちゃってるよ! 」
「……」
やだなんかすげー下手なノリツッコミしてる
「……とてつもなくすべったぞ! ふざけやがってー! こうなったらドアを吹き飛ばしてやる」
チュボオオオン
理不尽な理由で吹き飛んだ家のドア
「うひょー! さすが先輩の思術は最強だ! 」
「おい貴様等。人間の分際でよくも恥をかかせてくれたな」
ずかずかと土足で上がってくる徴収官の2人
「……ガウェイン。今すぐノエルに謝って」
「?! ノノノノノ、ノアちゃん!? またこんな人間の所にいたのか! いい加減にしないと本部の連中が……」
ノアの事を見た途端に顔を真っ赤にするガウェイン。分かりやすい奴だな
「……いいから謝って」
「あー? てめー人間の分際で先輩になめた口きいてんじゃ」
「ばか! ノアちゃん。じゃなくて、こちらのノア・ウィンター殿は史上最年少で癒し屋の資格を取得した天才想人だぞ! 」
「え!? 癒し屋って、思術によって人を治療する事を元老院から許された? 」
「そうだよ。お前達とは月とスッポンな超エリートだ」キリッ
「なんでてめーが偉そうなんだよ! 」
「ふっ。俺とノアはニコイチな関係だからな」
「……イェイ」
2人で肩を組んでピースする。主にガウェインに向けて
「貴っ様ああああああああ! ノアちゃんから離れろ! 」シャン
腰に下げていた剣を抜くガウェイン
「お前、思術じゃなくていいのか? 剣で俺に勝てた事あったか? 」
「ふはは。強がるなよ。思術を使ったらこの前のように死にかけてしまうだろう? お前」
「やったれやったれ先輩! 」
そう、いくら俺がこいつの80倍近く強くても、思術を使われたら手も足も出ないのである
「……ガウェイン。やめて」
ノアが俺とガウェインの間に立つ
「うっ。し、しかし、こいつら人間には納税の義務が」
「……ノエルにまた怪我をさせるようなら私も容赦できない」
淡々と言いながら手の平に炎と電撃を混ぜた球体を出現させるノア
「……くっ! あ、愛のばかやろおおおおおおおおお!!!! 」
剣を仕舞って目から輝く粒を零しながら走り去るガウェイン
「え? えーっと。おぼえとけよ! 」
「あ、その前にドア直してけよお前」
「やなこった! バーカバーカ! 」
うざっ
「助かったぜノア。まぁ俺1人でも余裕だったけどな」
「……またあんな事になったら私が死んでしまう」
ノアが思い出しているのは先週、ガウェインが来た時、いつものように喧嘩を売った俺が奴の思術を思いっきり食らって死に掛けた事だろう
「ノエルちゃんのお腹に穴が開いた時はびっくりしたわねー」
ちなみにやった張本人も「ま、まさかこんな事になるとは……あわわわー! 」って言って逃げ出していた
「ノアちゃんがいなかったら死んじゃってたわねー」
今めちゃくちゃ笑っている母さんは泡を吹いて倒れてたけどな
「まぁでも、せっかくだしコレ、使ってみたかったな」
アドライバーを手に取る
「……まぁまぁ。どうせ後で思いっきり使える」
「それもそうか」
作戦の決行は明日の朝だ




