悪役霊ジョー パート2 ~キヨフ学園に到来した断罪・婚約破棄ブームに、セイ・レイ・ジョーの除霊憑依幽霊トリオが果敢に立ち向かっちゃいます~
ここはシンレイン王国内にあるキヨフ学園。
その中にあるカフェで二人の女子生徒と、何故か小学生くらいの少女がお茶を楽しんでいた。女子生徒の一人は公爵令嬢のレイ=アックヤール、そしてもう一人は聖女セイ=ダンチャックである。
三か月前の期末パーティーで、レイは婚約者の王太子アトトゥーリ=オウケンジットから婚約解消を言い渡された。レイに憑りついた悪霊を、聖女セイが守護神ヒャーク=パウロと共に悪霊を浄化したのであるが、その時取り残されたのが悪霊の元の姿であるジョー=アークレー、通称オバケのジョーちゃんである。
今では三人仲良くカフェでお茶をする関係になっている、というわけだ。
そしてこの場にもう一人、レイとの婚約を破棄し、今はセイと婚約しているクズ男、王太子のアトトゥーリもいる。
人間でいえばおそらく10歳程度のジョーが、五杯目のパフェに手を伸ばす。
セイの浄化の後、どこかのオバケの性格が乗り移ったのか、ジョーは犬を怖がる食いしん坊キャラになっていた。
「ちょっと、ジョーちゃん。もうパフェ5杯目よ」
「だって、美味しいんだもん。レイちゃん」
「じゃあ、晩ご飯はお茶碗5杯までね」
「いやーん、もうこれで終わるからー」
「はいはい」
レイとジョーのいつもの光景。仲睦まじそうな二人の様子を見ているセイの表情も自然に緩む。
「フフ……そうしていると本当の姉妹みたいよ、レイ」
「まあ、妹の相手は慣れてるからね」
そんな二人を見るアトトゥーリの胸中は複雑だ。何しろこの二人に殺されかけたのだから。なるべく目を合わせないようにしていたのだが、その思いは伝わらず目の前にジョーが、トトト、と小走りでやってきた。
「アトテ……アトツー……」
(噛みすぎだわ、こいつ……)
「あちょちょ様……この間はごめんなさい!!」
(結局適当な名前にしやがった!)
「い……いや、こちらこそ先祖が迷惑をかけた。済まぬ」
少女相手に殊勝に謝罪するアトトゥーリをセイがふざけた調子で褒める。
「おーダーリン、偉い偉い」
「そ……そう?」
普段塩対応のセイに褒められたのがよっぽど嬉しいらしい。そんなアトトゥーリにレイの嫌みが炸裂する。
「まあ、相当ひどいことしたけどね……主に私に」
「まあまあ、もう水に流しましょう! ほらジョー、アトトゥーリがお詫びに何でも食べていいって」
「わーい! あちょちょ様、ありがとう!」
「もう、一つだけよ」
なんだかんだ言って、レイもようやく吹っ切れたようだ。
「それよりレイ、あなたにはまだいないの? 誰かいい人?」
「ななな! い、いないわよ!」
「へえー?」
疑いの目をかけるセイに、レイは慌てて話題を変えようとする。
「そ、それより!! 最近また来るようになったのよ、恐怖春秋」
レイは子供のころから霊感が強く、憑依体質であった。そのレイのもとへ週1回どこからともなく届けられていたのが「週刊 恐怖春秋」。三か月前の婚約破棄の騒動の前に届けられた「週刊 恐怖春秋」に、その婚約破棄を予言する記事が載っていたのだ。
そして、セイは既にレイから「週刊 恐怖春秋」のことを聞いていたのである。
「あー、あのくだらないタブロイド紙。で、今度はなんて書いてたの?」
「うん、『幼女が抱くぬいぐるみ…『あ、クマのぬいぐるみ(悪魔のぬいぐるみ)』』とか、『ウラノ文具店長期休暇終了か? 『開くの今日かい(悪の教会)』』とか……」
「駄洒落ね」
記事の内容を聞いたセイがつまらなそうに吐き捨てる。
とは言え、前回はレイの婚約破棄を予言したのだ。今回も何かが起きるかもしれない。そんな彼女たちの気持ちを察したかのように、秋の風が通り過ぎるのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
セイとアトトゥーリと別れ女子寮に戻ってたレイは、ご飯を食べ終えたジョーをベッドに寝かしつけた後、こっそりと寮を抜け出してゆく。出向いた先は学園の部活等の一角、魔道具クラブの部室だ。ノックをして出迎えたのはクラブの顧問で魔道具科教師のコニャック=カイショーン。
「や、やあ……こんばんは」
「こんばんは」
はにかみながら出迎えてくれたコニャックに、レイが笑顔で応える。二か月前、コニャックと出会ったのはほんの偶然だったが、アトトゥーリとは180度違う控えめな性格に好意を持つようになったのである。それ以来、こうしてたまの逢瀬を重ねていったのだ。
コニャックはレイの持って来た差し入れのマドレーヌを、嬉しそうに食べ始める。童顔の彼はレイより年上なのに、その背の低さも相まって、まるで弟のようにも見える。コニャックの仕草に母性本能をくすぐられるレイだが、実家でも長女として弟妹の面倒を見ていた。コニャックが長女気質のレイの琴線に触れるわけである。
(まあ、セイには教えてもいいんだけど……王太子と別れてすぐにっていうのも恥ずかしくて……)
コニャックのことはそのうち言えばいいか、と思っていたレイだが、すぐにそんな事態ではなくなるとは、この時は知る由もなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
コニャックとの逢瀬の翌日。
「キャアーー!!」
「うわっ! どうしたの、レイちゃん!?」
今日は週1回の「週刊 恐怖春秋」が来る日。
いつものお気楽情報かと思って気を抜いていたレイの目に、衝撃的な文字が映っていた。
「聖女セイ、王太子断罪を受け婚約解消!!」
(な、なんで……)
素早く身支度を整えると、「週刊 恐怖春秋」を持ってセイの元へと駆け付ける。レイから「週刊 恐怖春秋」を受け取ったセイは何やら魔法陣を展開していろいろと調べ始めた。
「ねぇ、セイ……その、大丈夫?」
「ん、ああ……大丈夫よ。それよりレイ、あなたも気を付けて。この『週刊 恐怖春秋』、出元はかなりやばいかも……」
恐怖に凍るレイを尻目に、セイは考えをめぐらす。
実は最近キヨフ学園ではある噂が広まっていた。学園内の数組のカップルが、立て続けに婚約解消されたという噂のことである。どうやら、男に一方的に婚約破棄を言い渡されたとのこと。そして、その男たちはとある女子生徒に夢中になっていたらしいのだ。
(これは調べてみないとね……)
「週刊 恐怖春秋」を握りしめながら、セイは一人決意するのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「あれ……? あちょちょ様」
学園の放課後、校門の近くでレイを待っていたジョーだが、遠くにアトトゥーリの姿を見つける。
また美味しいものをご馳走してくれるかもしれない。そう思ったジョーは、ぱっと姿を消す。オバケのジョーは姿を消すことが出来るのだ。そのままアトトゥーリの後をつけていくジョー。10分ほど歩いて、喫茶店のような場所にたどり着く。
アトトゥーリは躊躇することなく階段を上り、二階にある部屋のドアを開ける。
途端に響く黄色い声。
「「「お帰りなさいませ! ご主人様♡」」」
「ふむ」
なんと、ここは知る人ぞ知る王都のメイド喫茶「メイド・イン・王都」。メイド服を着た少女たちが、客をご主人に見立ててサービスをしてくれる。
客のほとんどは普段はメイドに縁のない平民なのだが、モノホンのメイドに何か思うところがあるのか、アトトゥーリはここに足しげく通っていたようだ。
席につき、慣れた仕草でご指名のメイドを呼ぶアトトゥーリ。
すると一人のメイドが、アトトゥーリの席にやってくる。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「うむ、相変わらず愛い奴よ。サレージョ」
アトトゥーリがサレージョと呼んだのは、清楚で小さな少女であった。垂れ気味の目にふわふわの栗毛、まだ慣れていないのかはにかむ姿が可愛らしい。アトトゥーリのみならず、多くの男子の推しであるサレージョは、このメイド喫茶で人気ナンバーワンのメイドであった。
「今日は何かお食べになりますか?」
「ふむ……では、いつものを」
「はーい♡」
しばらく後、両手にオムライスの乗った皿を持って、サレージョが戻ってきた。テーブルに置いたオムライスに、スプーンを使って器用にケチャップでハートを描いていく。
「さあ、召し上がれ♡」
サレージョが言った瞬間、オムライスの上の空中から滝のような水が流れ落ちる。
「え、えっ? なに!?」
小動物のように慌てふためくサレージョの前に大量の涎を垂らしたジョーが姿を現す。
今度はアトトゥーリが慌てふためく。
「お、お前はジョー!?」
「ねえ、あちょちょ様! これ、食べてもいい?」
もはやジョーの目にはオムライスしか映っていない。
「お前は何を言ってるのだ!? これはサレージョが私のために……」
「まあ! なんて可愛い子!!」
激おこのアトトゥーリを制したのはサレージョだった。可愛いものが好きらしいサレージョが、ジョーを抱きしめると、ジョーの鼻をサレージョの甘い香りが刺激する。
「えへへ――」
「オムライスが食べたいの? いいですわよね、ご主人様?」
「うむ……まあ、仕方があるまい」
「さすがご主人様!」
「まあな」
喜んだサレージョに手を握られにやけるアトトゥーリだが、この後ジョーの口止めのため、オムライス5杯の料金を払わされたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
アトトゥーリの言いつけ通り、メイド喫茶のことはすっかり忘れたジョー。
今はレイと一緒に学園の中庭でお弁当に舌鼓を打っていた。寮のオバちゃんが作ってくれたおにぎり10個を平らげて満足なジョーであったが、その静かな至福の時間をぶち壊す金切り声が聞こえてくる。
「どういうことですか! 婚約破棄なんて!?」
レイとジョーには目もくれず、興奮に目のつり上がった女生徒が男を糾弾しているのだが、男は全く悪びれずに告げる。
「どうもこうもない、私は真実の愛を見つけたのだ!」
「何をバカな……!?」
「バカはお前だ! 私と推しとの甘い生活を邪魔するな!!」
男は一方的にそう言い残して去っていった。取り残された女子がその場に泣き崩れる。
自分の身の上を思い出し、いたたまれない気持ちになったレイは女子の元へと駆け寄っていく。レイの後を追っていくジョーだったが、遠くからこちらを見つめる気配を察知する。壁の陰に佇む小さな男、その白い歯が暗闇に浮かびニヤニヤと嗤っている。オバケのくせに怖くなったジョーは、レイを追いかけようとするのだが…、先ほどの小さな男に見覚えがあるような気がする。
「どこかで見たことがあるような、ないような……」
しばらく考えたが思い出せない。
「ま、いっか」
自分を納得させ、レイのもとへと走って行くのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
秋の空は晴れ渡り、暑くもなく寒くもない、心地よい空気。キヨフ学園では収穫祭が開催されていた。肉の加工品や野菜のジュースなど、この秋に収穫された食材から作られた加工品が販売され、祭りは多くの観客で賑わっていた。
セイが婚約破棄を言い渡されるのであれば、おそらくこの日だろうとレイは当たりを付けていた。レイの元へ、コニャックが近寄ってくる。こんなことがなければセイに紹介しようと思っていたのだ。レイはその場にいるジョーにコニャックを紹介する。
「ねえ、ジョー。こちらはコニャック先生。私がとてもお世話になっている方なの」
「へー」
両手に持っていたパンを皿の上において、顔を上げたジョーはコニャックの顔を見て大きな目をさらに見開く。
「君がジョー君だね、レイから聞いているよ。また後でゆっくり話そうか」
コニャックも忙しいようで、そう言い残して人ごみの中に消えていった。
「ん、ジョーちゃん。どうしたの? 黙り込んじゃって」
「レイちゃん、レイちゃん! 実はね……」
◇◇◇◇◇◇◇◇
祭はしばらく何事もなく進んでいったのだが、しばらくして会場のいたるところで男子の怒声と女子の悲鳴が響き渡る。
「貴様とは婚約解消だ!!」
「捨てないでー!!」
どうやら、至るところで婚約解消劇が行われているようだ。
騒然となる会場だったが、メインの舞台を目掛けて黒服の集団が近づいてくる。数人の男は肩に輿を担いでおり、メイド服を着た女性が立っている。メイド喫茶の人気ナンバーワン、サレージョである。普段の清楚で控えめな様子とは180度異なる妖艶な姿。メイド服を着崩してスカートも短くなり、ピンヒールを履いている。
黒服集団の先頭はアトトゥーリだ。そのアトトゥーリがセイの目の前まで来て止まる。ニヤニヤと笑い、嫌らしい目をセイへ向けるアトトゥーリ。その瞳孔には白いハートが光っていた。
サレージョが大声で話し出す。
「私の名前は、サレージョ=ダンザイン! 王太子と聖女にはめられて断罪された王室付きの元メイド!」
今から50年前、ダンザイン子爵の一人娘サレージョは、花嫁修業のため王城侍女として働いていたが、当時の王太子のお手付きとなった。嫉妬に狂った王太子の婚約者の聖女の企みで、王太子を誑かした悪女として断罪され死罪となる。
「お前たち貴族の女から男を奪い取ってやるのが私の復讐よ!」
「「「「サーレージョ! サーレージョ!!」」」」
サレージョの魅力に心を奪われた男たちがサレージョコールを上げる。
「さあ! 王太子アトトゥーリよ!! 聖女に婚約破棄を突き付けなさい!!」
アトトゥーリがセイへ向かって吠え始める。
「セイ、お前は聖女の皮をかぶった狼だ! よくも今まで私を騙してくれたな!! 私はここにいるサレージョ=ダンザインと婚約を結ぶことに決めたぞ!! お前とは婚約破棄だ!」
セイは大きなため息をつくと、キッとアトトゥーリを睨みつける。
「あんたって、ほんとお馬鹿よね。いいの? 私にそんな口をきいていいと思っているの?」
「いいに決まっておろう!!」
「ふーん……いいんだ?」
腹黒い笑みを浮かべたセイが呪文を唱えると、巨大な魔法陣が出現し、その中にセイとアトトゥーリが映し出される。
「上級魔法、記憶の顕現。私の記憶が画像として映し出されるわ」
セイに抱き着いているアトトゥーリの姿。音声が再生される。
『ママ―、ママー!!』
「なっ!?」
『バブ、バブゥー』
「や、やめろーー!!」
アトトゥーリの制止にセイは不満顔だ。
「えー! これからが面白くなるんだけどなぁー」
「やめ、やめてください! お願い!!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにして懇願するアトトゥーリ。
実はアトトゥーリは何か嫌なことがあるたびに、セイに赤ちゃん言葉で甘えるという、妙な性癖を持っていたのだ。そんなアトトゥーリの脳天に、セイは思いっきりチョップを決める。
「あなた、洗脳されてたのよ。そこの連中もね」
セイのきっつい一言でアトトゥーリの洗脳が解けたのだ。己の企みを破られて怒り狂うサレージョ。
「おのれ、聖女め!! だが、数多の女性の恨みを背負った私が、お前に倒せるかな?」
サレージョの闇のオーラが膨れ上がる。
「く……(確かにものすごい霊力を感じるわ……どうすれば?)」
「待ちなさい!!」
セイのピンチに現れたレイ。
普段は出さない大声でサレージョに反論する。
「あなたに女性の気持ちはわからないわ!!」
「なんだと! 誰だ!!」
レイの方を向くサレージョの頭の上に、なぜか水の入ったバケツが浮かんでいる。そのバケツがひっくり返って大量の水をかぶるサレージョ。するとバケツを持って空を飛んでいるジョーが姿を現した。
水をかけられて、サレージョのカツラと化粧が落ちてしまう。
「なぜなら、あなたは男だから! ねえ、コニャック先生!!」
水をかぶった短髪の男がレイを睨んでいる。サレージョの正体は女装したコニャックだったのだ。
サレージョの霊に憑依されたコニャックが女装してメイド喫茶で男をたぶらかし、魅了の魔法をかけて操っていたのだ。
この隙にセイが守護神を呼び出す。
「今よ! 出てこい私の守護神、後ろのヒャーク=パウロ!!」
黄金の魔法陣とともに姿を現したヒャーク=パウロ。
その両手から光が放たれると、コニャックの頭上にメイド服を着た女の霊、サレージョ=ダンザインが姿を現す。
「ヒャーク!! 浄化の光よ!!」
光がサレージョを包み込むが、一瞬にして霧散してしまう。
「無駄よ! 数多の女子の恨みは簡単なことでは晴れないわ!!」
この言葉にレイが再び反論する。
「いいえ、それは違うわ! 私は束縛から解放されたことで、前に進むことが出来た。みんなもそうよ、女はそんなにヤワじゃないわ!!」
「な……ん、だと……」
「みんなで前に進みましょう!!」
レイの言葉に怒り狂ったサレージョが、闇の瘴気をレイに向けて発射する。
「くそ! 食らえ!!」
「ヒャーク!!」
セイがヒャークに命じると、レイの体を光が包み込む。
その光はいつもより輝きを増しており、サレージョの瘴気をいとも簡単に弾き飛ばすのだった。レイの憑依の力によってヒャークの光が増幅されたのだ。
「レイ! そのまま手を伸ばして、浄化の光をサレージョに食らわせるのよ!!」
「ジョーカッ!!」
レイの両手から放たれた二筋の光がサレージョの胸を貫く。
「これで最後よ! お逝きなさい!!」
セイの聖なる祝詞が祭り会場全体に響き渡ると、サレージョが苦悶の表情となり、両手で胸を押さえつける。
「やめろー!! 恨みが、恨みがーー!!」
最後の言葉を残してサレージョは消え去った。
あとにはずぶ濡れのコニャックが残されている。
レイがコニャックに近づく。
「コニャック先生……どうして……?」
重い口を開いてコニャックが語り始める。
5人兄弟の末っ子だったコニャックは、4人の姉にいじられて育ってきた。幼少期はほとんど女装して過ごしていたらしい。体格もひ弱で見た目の女子そのもの。せめて髪は短くしようと短髪にしていた。
そんなコニャックだったが、レイの断罪、婚約破棄を見た時に妙な興奮を覚えたのだという。女性を従わせることのできる婚約解消に惹かれていくコニャック。そんな彼の弱い心にサレージョがつけこんだ。自分の恨みを晴らすために、女装したコニャックをメイド喫茶で働かせ、魅了魔法をかけて従わせる行為を繰り返したのだ。
「そうだったのね……」
セイが悲しそうな声で呟く。言うなればコニャックもまた婚約破棄の犠牲者だったのだろう。
「それにしても……」
セイが呆れた顔でアトトゥーリを見る。
「あんた達オウケンジット家って、婚約破棄しすぎでしょうに……」
「なんとも言い訳のしようがない……」
「ま、これから女性が悲しまない社会を作るのよ! 頑張ってね、未来の王様」
◇◇◇◇◇◇◇◇
事件から半月が経過した。
いつものカフェにたむろしている、レイ、セイ、ジョーとアトトゥーリ。
セイがレイを気遣いながら話し出す。
「結局やめちゃったんだね、コニャック先生……」
「まあ、さすがにね……」
「でも、良かったの? 付き合ってたんでしょ?」
「なななな、何故にそれを?」
「ジョーちゃんが教えてくれたんだもんねー」
「どうせ、食べ物で釣ったんでしょ? ま、もういいわ。済んだことだし」
すっかりあきらめ顔のレイに、ジョーが近づいて来る。
「ねえ、レイちゃん。サンドイッチのお代わりもらってもいい?」
「だめよ、晩御飯が食べられなくなるわ」
「えー、やだー! バブー、バブー!!」
「んもう! ジョーちゃんに変なこと教えないでよね、腹黒聖女とチャラ王子!」
「「ごめん、ごめん」」
お代わりを欲しがる無邪気なジョーを、レイたち三人は温かい目で見つめる。
こうしてシンレイン王国を震撼させた断罪・婚約破棄ブームは去っていったのである。




