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断頭台で身長を

掲載日:2026/06/23

 保健室の前の廊下には、生々しいバラバラの肉片が、いくつも落ちていた。

 中学生の女子にとって。体重が重い。というのは、死活問題で。

 毎年、身体測定の直前まで、無理なダイエットをする。

 白い贅肉だけでなく、赤い筋肉までも。

 廊下には、女子が落とした肉が、びたびたとくっついている。

 体重を落とせなかった者は、

「ちょっ、まじやば無理、重すぎ。死ぬー」

 と言って、命を落とす。

 そんなくだらないことで。

 と僕は笑えない。


 保健室の前の廊下に、僕は並んでいた。

 背の順で並んでいたら、僕は死んでいた。

 出席番号順で保健室の中に入るまでの猶予の時間で。

 僕は廊下に這いつくばり、必死で落ちている肉を集めた。

 周りの奴らは、うすら笑いで、僕を見下していた。

 集めた肉を膝の関節につけ、粘土のように伸ばしていく。

「じゃあ、次の五人、入ってー」

 保健室の先生の声が聞こえる。

 僕は立ち上がり……、立ち上がり……、立ち上が……、れない!。

 恐怖で膝が笑っていたわけじゃない。

 膝関節に集めた肉で伸びた足。

 けれど、その関節には、肉しか入っていない。

 体を支えることができない。

 なんとか、立ち上がろうとするが、右膝も左膝も。

 ぐにゃりぐにゃりとあらぬ方向に曲がりくねる。

「さあ、早く入ってー」

 視界が歪む。呼吸が浅くなる。緊張から汗が止まらない。

 僕は廊下から這いつくばって保健室に入る。

 保健室の先生に叫ぶ、

「待ってくださいっ! 先生っ、たっ、体調が悪いんですっ。先生っ」

「大丈夫だよー、ここは、保健室だから。ちょっと身長と、体重とを測ったら、休んでいいからー」

 永遠に。と聞こえたのは、恐怖からの幻聴か?

 僕は、同級生に抱えられるようにして、中へと運ばれる。

「いやだっ! 死にたくないっ。死にたくないっ! うっ、痛っ」

 同級生は、僕を、体重計の上に投げる。

 びちゃっと、嫌な音がした。

 濡れている。

 血で濡れている。

 肉で濡れている。

 体重を落とすためでなく、命を落としたために。

 女子生徒だった物が、秤の周囲を濡らしている。

「〜kgねー。うん、元気元気ー。じゃあ、次は、身長ねー」

「待っ、かっ、ヒュー。かっ、ヒュー。っひっ、ひにたくなっ」

 僕は運ばれる。

 身長計という、断頭台に。

 こつん、と足に、何かが当たった。

 藁をも掴む気持ちだった僕は、それを手にした。

「こっ、」

 僕がそう言おうとした時、すでに台の上。

 背中から投げ入れられ、仰向けに、測定バーを見上げていた。

 測定バーと僕の顔の間。

 視界に、ニンマリと笑う保健室の先生の顔がにゅっと入ってくる。

「はーい、じゃあー、頭と背中とお尻を柱にくっつけてー。くっつけないとー。そのまま。測っちゃうよー。それじゃあ、測定バー、あげまーーーす」

 キュるキュるキュる、キュるキュるキュる。

 幾人もの生徒の血を吸ったせいか、支柱に付着した鉄分と、ギロチンの擦れる音。

 一番上まで、上がったギロチンは、光に照らされ、鈍く銀色に輝く。


 死ぬ間際、世界がゆっくりになるってのは本当なのだ。

 僕は、この。ギロチンが上がるまで。

 そして。僕の頭に落ちるまで。

 瞬間。瞬間。瞬間。

 とても。長く。感じた。

 まだ。死ねない。

 僕の足に。こつん。と当たったもの。

 体重計の周囲に。いくつも。落ちていたもの。

 肉を落とせなかった。

 命を落としてしまった。

 女子だったもの。


 骨を。拾った。


 だれの骨かは分からない。

 どこの骨かも分からない。

 でも、今は。

 立てればいい。

 立つ立つ立つ立つ立つ立つ立つ立つ。

 僕ハッ! 骨ヲッ! 膝ニッ! 

 入れるっっっ!

 立ち上がれっ。

 立ち上がれっっ!

 立ち上がっっ、れっっっーーー!

 迫り来るギロチンを、僕はおでこで、受け止めるっ。

 片膝立ちでっ、受け止めるっ。

 キュるキュるキュる、キュるキュるキュる。

 幾人もの生徒の血を吸った支柱の鉄分と、ギロチンの擦れる音。

 うおおおおおおおおっ。

 僕の雄叫びと、周囲の歓声が混じる。

 キュるキュる、きゅっ。

 測定バーが止まる。

 僕は、頭と背中とお尻を、柱にもたれさす。

 はあ、はあ、はあっ。

 スーーーー。

 はーーーー。

 肩の力を抜いて正面を向き、視線が水平になるように、顎を引く。




「先生。何cmですか?」





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