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チャイムの国  作者: さくら
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砂の街と時を食べる者


第三章:砂の街と時を食べる者


砂漠の風は、前に来たときよりもはっきりと「重さ」を持っていた。


頬に当たる。

髪が揺れる。

足元の砂が、きゅ、と鳴る。


私は一歩ずつ進む。


遠くに見えていた街は、思っていたよりも近かった。


けれど――


近づくほどに、違和感が増していく。


建物が、傾いている?


いや、違う。


傾いているように「見えるだけ」だ。


角度が定まらない。


ある瞬間は真っ直ぐで、次の瞬間には歪んでいる。


まるで、時空が歪んだみたいだ。


それは、ブラックホールの手前にいるとでもいえるのだろうか?


「……ここが、街?」


門のようなものをくぐる。


看板がある。


でも文字が読めない。


文字が変わるのだ。


見ている間に、形が少しずつ崩れていく。


魔法のようだ。


「止まって」


突然、声がした。


私はびくっとして、振り返る。


そこには、一人の少女が立っていた。


私と同じくらいの年。


砂色のマントを羽織って、フードを深くかぶっている。


でも、その目ははっきり見えた。


鋭い。


「それ以上進むと、“削られる”よ」


「削られる……?」


少女はため息をつく。


「別の世界から来たんでしょ」


言い当てられる。


私はうなずく。


「チャイムの音で来た」


その言葉を聞いた瞬間、少女の表情が少しだけ変わった。


驚きと――興味。


「やっぱり。“鳴らす側”なんだ」


「え?」


「こっちは“鳴る側”」


少女は私の手首をつかむ。


「いいから、こっち」


強く引かれる。


その瞬間だった。


さっきまで私が立っていた場所の砂が、ゆっくりと沈んだ。


いや、違う。


“消えた”。


時間ごと、削り取られるみたいに。


ゾッとする。


「今の……何?」


少女は短く答える。


「“食われた”の」



連れてこられたのは、半分砂に埋もれた建物の中だった。


中は意外にも安定している。


壁も床も、ちゃんと形を保っていた。


「ここは大丈夫なの?」


「うん。“固定”してるから」


少女は壁に触れる。


そこには、奇妙な装置が埋め込まれていた。


丸い板。刻まれた模様。


――どこかで見た。


「それ……」


「知ってるの?」


私は思わず言う。


「ドアの横にあった」


少女が、はっきりとこちらを見る。


「……やっぱり」


少しの沈黙。


それから、彼女はフードを外した。


砂色の髪がこぼれる。


「私はミナ」


「この街の“留め役”」


「留め役……?」


「崩れるのを遅らせる人」



ミナは床に座り込むと、砂の上に指で線を描いた。


円を描く。


いくつも。


「この世界はね、安定してないの」


円が歪む。


崩れる。


「時間が均一じゃないから」


「早い場所、遅い場所、止まる場所……」


「そして、“食べられる場所”」


私は息をのむ。


「さっきのは?」


「“時間の喰い”」


ミナの声が少しだけ低くなる。


「砂の下にいる」


思い出す。


最初に見た、あの影。


「……あれって、生き物なの?」


「うん」


あっさり答える。


「時間を食べて生きてる」


「人も食べるよ」


さらっと言われて、背筋が冷える。


「食べられると、どうなるの?」


ミナは少しだけ考えてから言った。


「“いなかったことになる”」


言葉が、重く沈む。


「死ぬんじゃない」


「最初から存在しなかったみたいに消える」


私は思わず、自分の手を見る。


ちゃんと、ある。


でも――


「怖い?」


ミナが聞く。


正直にうなずく。


すると、彼女は少しだけ笑った。


「いいね」


「その感覚、ちゃんと持ってて」


「それがないと、ここでは長く生きられないから」



そのとき。


ゴゴ……と、低い音が響いた。


床がわずかに震える。


ミナの表情が変わる。


「来た」


「え?」


「時喰い」


彼女は立ち上がる。


「外、見る?」


一瞬ためらう。


でも――


私はうなずいた。


ミナはゆっくりと外を指さす。


「静かにね」



外に出る。


風が止んでいる。


不気味な静けさ。


砂が、波打っている。


まるで、水みたいに。


そして――


それは現れた。


砂の中から、ゆっくりと。


巨大な影。


形は定まらない。


蛇のようでもあり、魚のようでもあり、

ただの“歪み”にも見える。


でも、一つだけはっきりしている。


それが通った場所は――


世界が消える。


建物の一部が、音もなく消失する。


空間ごと、削られる。


「……あれが」


声が震える。


そのとき。


影が、止まった。


ゆっくりと――こちらを向く。


見られている。


確実に。


「まずい」


ミナが呟く。


「なんで!?」


「“鳴らす側”は目立つの」


次の瞬間。


影が、こちらに向かって動いた。


速い。


砂が荒れ狂う。


「走って!!」


ミナが叫ぶ。


私は反射的に走り出す。


心臓が壊れそうなほど鳴る。


背後で、世界が削れる音がする。


逃げる。


ただ必死に。


「こっち!!」


ミナが別の路地に飛び込む。


私はついていく。


そのとき。


視界の端で、何かが光った。


――円の装置。


壁に埋め込まれている。


チャイムの“選択盤”と同じ。


「ミナ、あれ!」


叫ぶ。


ミナが振り返る。


一瞬で理解した顔になる。


「使えるかも!」


でも距離がある。


間に合うか。


「行くよ!!」


ミナが方向を変える。


装置へ向かって走る。


賭けだ。


私は歯を食いしばる。


手を伸ばす。


あと少し。


あと少し――


影が、すぐ後ろまで来ている。


触れる。


円盤に。


その瞬間――


ピカッ!


砂が光った。

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