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全滅冒険者!!  作者: 大石次郎


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5話 死因 近付き過ぎた

自慢ではないが王都大学の史学部を出ている。専攻はトンチャ朝だ。フィールドワークを旨とするならば必然としてこのボコス迷宮の探索に参加せざるを得ない。


迷宮が辺境の現地民やダンジョン荒らしの類だけでなく、公になってからはや70年あまり。


どれだけの非戦闘員の研究者がこの迷宮で命を落としたことか。


一方で、謎とされたトンチャ朝の実体とその末路が今になって次々と明かされてきたのもまた事実。


「先生! 朝メシできたずら」


「···」


装備はともかく、簡単に身支度を整えた私は今日からの探索計画の気掛かりな点の確認をしていた。


「先生、朝メシ冷めるずら。書斎で食べるずら?」


ドワーフハーフの使用人兼探索助手兼護衛のズンスカが書斎の扉の向こうから呼び掛けている。


元はC+級の腕利きの戦士職だったらしいが4層でレッサーデーモンに電撃魔法で頭を弾かれ、蘇生後は記憶障害と地頭の鈍化の後遺症が出て仲間に見捨てられ、身寄りもなく、今はギルド預かりで国から派遣される研究者相手に腕っぷし込みの雑務をこなして暮らしている男だ。


「···朝食が、できたずら」


この哀れな男には色々欠点があるが、『一度言い出すと修正されるか別の認識に至るまで同じことを繰り返しがち』という物がある。


具体的にはこのまま無視していると延々とこのまま一定の調子で、はやく朝食を取れ、と言い続けられることになる。


「朝食には行く。ズンスカはダイニングで待て」


「わかったずら」


足音がのしのしと遠ざかる。今でもゴブリンの頭を平気で握り潰せる剛力。会話可能な野牛、と考えた方がいいだろう。


_____



トンチャ朝の痕跡のあるこのボコス迷宮攻略拠点ボコサレスには、王都大学の管理する研究所がある。


研究所といっても内勤研究者はエリートのみ、私のような現場組は正面の探窟家用ロビーの受付で諸々の交渉を済ませ地下へと潜ってゆくだけだ。


冒険者どもとの違いは研究成果を金に代えて暮らしているということ。


「ウィレム博士、また一層ですか? 最低限度の補助しかできませんが?」


「深層以外で効果的に調査できるのは地下一層だけだ。御託はいいから探索パックと手当てを!」


「···御託ではありませんが、少々お待ち下さい」


受付は渋々といった様子で一層用の探索パックと少額の補助金の小袋をだしてきた。


「汎用ポーション2本に聖水1本、霊木の灰1袋、糧食は乾パンだけか。棒状糧食も干し葡萄も付けないとは···」


まぁズンスカが色々持ってきてはいる。本当は収納の腕輪が1番必要なのだが、ズンスカの雇用補助に資金をゴッソリ持っていかれている。かといってモヤシのような私1人ではなんともならんしな。


「···ん?」


ロビーの長椅子で待たせていたズンスカに小汚い格好の行商のようなヤツが絡んでいた。


「大将! お目が高いっ。この品はトンチャ朝後期の名品で、あんたの御主人様もさぞかし」


「コラッ!! お前、入館証を見せてみろ!」


「うへっ、やっべっっ」


インチキ行商は慌てて外へ逃げ出していった。今更気付いた間抜けな守衛が追い掛けてゆく。


ここがギルドとの決定的な違いだ。強面の冒険者ギルド支部と違い、ああいうふざけ腐った輩がちょいちょい紛れ込んでくる。


「ズンスカっ、無用な物は買ってないな?」


「へぇ、オラなにも買ってないずら。ここさで待ってろと言われたもんですからなんも買わねす」


と言いつつこれまで何度もガラクタを売り付けられている。今日のは新顔だったが完全に連中の名簿に載ってしまってるんだろう。


注意せんと、私の活動に差し触る!


_____



一層、『石室の原(せきしつのはら)』所々に魔力灯の点いたなにかの砕けた遺跡の残骸が散らばった層。建造物は多いが迷路構造になっている所は少ないがらんどうの虚しい空間だ。


出現モンスターはワラビモチン、ブルーバット、レビテーションロック、ウィスプ、スケルトン辺り。


群れなければスケルトン以外は私でも対処可能な程度。


私はギルド発行のE級の鍵師職と魔法使い職の資格を一応持っているからな。


「···」


探知特化の汎用探窟杖(はんようたんくつづえ)に効率よくサーチの魔法を付与して、リスク管理している。


層が深くなるとサーチの魔法の常時展開自体が悪目立ちするが、一層ではへったくれもない。


「先生、今日の調査地はCF42、CF47、CC21」


「読み上げなくていい。さっきも言ったからな?」


資料を手にしている内に音読したくなり、話すからには確認したくなるんだろう。


「へぇ。調査地、変動してねぇといいですね」


「いや、むしろ多少の変動は望ましい。とくに変動中途の常態は『ボロ』が出易い」


「へぇ?」


一層は魔力が薄く、管理の甘いエリア。この層が遺跡風なのは元々地下遺跡だったからだ。それを打ち消すことはできていない。


ダンジョン主の隠しておきたい情報がここには出易

い。


移動中、鬼火のウィスプどもはサーチを切ってやり過ごし、小型で弾力のあるスライム、ワラビモチンの群れはズンスカが長棍で薙ぎ払って退散させ、顔のある浮遊する岩のレビテーションロック数体はライトの魔法を光度最大で炸裂させて追っ払ってやった。


そうして着いたCF42地点は外れ。新規情報なにもなし。CF47は変動か戦闘で? 遺跡が崩落し調査不能。 続けてCC21に来た。


廟の跡のような地点だ。構造物ではなく床面の変動で亀裂があり、倒れた壁面に隠れていた碑文らしき物がわずかに露出していた。


「ズンスカ! 除けてみろっ、慎重にな」


「へぇ、やりますだ」


ズンスカが怪力で瓦礫を除けると破損や風化を免れた碑文が見えた。


「おおっ!」


私は急いで静止画しかとれない容量の少ない、安物のメモリーオーブで碑文を端から端まで撮影し、それを保護器に入れて魔法式のロックを念入りに掛け、ズンスカに渡した。


「万一の時はなにがあってもそれを···そうだな。ここからだとCB49の王都大学のベースキャンプに届けるのだ。私の命よりも優先しろ」


「へぇ? 命より優先したら先生は死んでしまうだ」


「いいから復唱しろっ、万一の時、お前はどこへゆく?」


「CDの39でさ」


「CB49!」


「CB39!」


「CB49!」


「CB49!」


「よし」


一度言質が取れると意外と記憶力はよく、執拗なくらいだ。問題ないだろう。


さて、私自身も読み解かなくては! 別に自己犠牲ありきでこんな所に潜っていないっ。なになに···


破損や風化以外にも不自然な改竄の跡が見える。それを飛ばして読むと···やはりトンチャ朝末期だな。


『大願の···』『蒼き龍···』『この器の···』


なんだ? ボコス迷宮の発生を前提としている?? いや、これは迷宮発生期の迷宮自体の魔法式の符号の転写現象か?


蒼き龍。確か深層の探窟レポートに、


「?!」


急激な魔力反応! 多いっっ。


「先生!!」


背後の地表に多数の低級アンデッド式の召喚陣が出現し、そこから数十体のスケルトン達が現れた。


傷んだ武装の白骨兵だが人骨その物ではない、人骨を媒介に生成された死霊の傀儡人形のようなモンスター。よく見ると骨格の形状も人体と違い過ぎてイライラするくらいだっ。


それにしても、


「ふぅー···」


息を吐く。これはダンジョン主の意思だな。実家が貧しく、教授の不正を深刻したことや接待の類に構わず学内の御用聞きのようなヤツらに目を付けられたことでこんな穴蔵潜りを5年も続けていたが、私は、真実に近付けたか。


自分で研究できないのは口惜しいが、私の名を残す術は1つあるのは僥倖と言えないでもない。


組み合わせがある。瓦礫撤去用の安物のファイアジェム数個。悪漢やタチの悪いモンスターに致死的捕獲をされた時等の為の自決用の、やはり安物の微塵(みじん)の腕輪。あとは霊木の灰も使うか···


「ズンスカ! そこの物陰に隠れ聖水を被れっ! 『爆発があったら』ベースキャンプに走れ!!」


「お、オラは先生の護衛で助手」


「お前が助手なら仕事をしろっ、お前が向かう地点は?! 復唱!」


「···ううっ、CB49!!」


「よしっ!」


ズンスカは物陰に飛び込み、逆に私は緩慢ながら完全な包囲で迫ってくるスケルトンどもに駆けた。


槍を何本か投擲されて脚、腹、肩を刺される。即死させられなかったのは精度の低い傀儡の間抜けさだっ。


「史学部に私の像を建てろ! 馬鹿野郎がっ!!」


私は微塵の腕輪を基点に全ての素材を起爆させた。


_____



···爆発はあったべ。鼓膜がおかしくなってよ、ちっと火傷もした。オラは聖水を被って駆け出したよ。


砕けたスケルトン達が燃えてるべさ。浄めの火で崩れてくけどよ、まだ少し動けるのもいたからオラは長棍で吹っ飛ばして走ったべ。


「うっ?」


燃えてる倒れてたのが不意に起きて脇腹を刺されたけど、柄をへし折って、裏拳で頭頭蓋骨殴り飛ばしてやったべ。


穂先は抜いて、ポーションさ半分かけて掛けて半分は飲む。上手く塞がらねぇが、関係ぇべ···


「CB49CB49CB49」


復唱しながら走る。走る、走る走る。


ウィスプが十数体向かってきたけど、長棍で片っ端から叩き潰して走る。


あちこち焼かれた。残り1本のポーション頭から被る。


まだ走れる、走る走る。


罠踏んじまって、ハンマートラップぶん殴られて壁まで吹っ飛ばされたけど、いくらか折れたけんどオラ頑丈だ。リュックは棄てて無事だった保護箱と長棍だけ持って走る。


走る走る。


ブルーバットの群れに片耳と左目齧られたけど関係ねぇべ。


CB49CB49···


レビテーションロックをブン殴って倒したら長棍さ砕けちまったけど、関係ねぇ。


もうちっと、もうちっとだべ。


看板見えた。『この先、王都大学ベースキャンプ。冒険者は緊急時以外お断り』て書いてあるべさ。今、緊急だべ。


先生はたまに怒鳴るけどよ、棒とかでぶたねぇし、給料払ってくれるし、飯食わせてくれるし、いい人、だったなぁ。


「せんせ」


もうちっと、もう、ちっと···血が···足りね···


もう、ちっと···あ。


「ワラビ、モチンかぁ」


たった7体で、どってことないヤツらだけど、右から左から、飛び付いて体当たりされだした。


今は棍棒で殴り回されてるみてぇだべ···


「ああ、あああ···先生ぇ···」


キャンプの入口、もう、ちっと······


_____



「おい?! 誰かワラビモチンにやられてるぞっ?」


「こりゃダメだっ」


見張りが今頃気付いてワラビモチンを追い払いに掛かったね···


「よろしいのですか? 停滞気味の深部探窟が活性化してしまいますよ?」


ハイサキュバスは危機感を抱いているようだった。


「『迷宮の魔法その物に近付く者には防衛反応が起こる』一層の範囲でそれが行われた結果、あそこまで繋げたのだから対価だよ。私が阻害したように思われたのなら心外だがね」


「···上級冒険者及び軍の投入への対策を強化しておきます」


「よろしく」


忠実でこのダンジョン産まれで帰属意識もあるらしいハイサキュバスは几帳面そうに退室していった。


「蒼き龍、言い得て妙」


私は素朴な勇者の遺体回収をしている水晶玉の映像を青く発光する鉱床で作業する地底種族ニーベルング族の姿を映した。


「『大ミスリル鉱床帯』。せっかく蓋をしてあげてるのに···いいことにはならないよ? クククク」


怪しい蒼き輝きを私は水晶玉越しに眺めていた。

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