8話『勇者の初陣、影のサポート』
「……おっかしいなぁ。今日のノア、なんか凄く強そうに見えるぞ?」
翌朝。目覚めたアルトが俺を抱き上げ、まじまじと顔を覗き込んできた。
俺は内心の動揺を一切見せず、これ以上ないほど無垢な瞳で「なーん?」と首を傾げてみせる。
『(主殿、魔力の漏洩を0.01%以下に抑えてください。今のあなたの密度では、普通なら抱き上げた瞬間に彼の腕が消し飛びます)』
アークの冷静なツッコミを受け、俺は慌てて存在感を極限まで希釈した。
アルトは「気のせいか!」と笑い、俺を床に降ろすと、昨日手に入れたばかりの魔剣ルミナスを腰に差した。
「よし、エリオットさんから借りたこの剣の凄さ、今日こそ証明してやるんだ。……ギルドで一番難しい依頼、受けてくるぜ!」
アルトは意気揚々と店を飛び出した。
俺はアークと共に、その後ろ姿を影の中から追いかける。
はじまりの街のギルドは、朝から騒然としていた。
掲示板に貼り出された一つの依頼――【地脈を荒らす下位竜の討伐】。
本来ならBランク以上のパーティが数日がかりで挑む獲物だ。
「これ、俺がやります!」
アルトが手を挙げた瞬間、周囲の冒険者たちから失笑が漏れた。
「おいおい、ボロ宿の新人が自殺志願か?」「鉄剣すらまともに振れなそうなガキがドラゴンだってよ」
だが、アルトの幸運はここでも牙を剥く。
受付嬢が「……ええ、なぜか今、この依頼の制限ランクが『無制限』に書き換わっていますね。あれ?……受理されました」
『(私の書き換えに気づかないとは。この街の魔術的セキュリティもたかが知れていますね)』
アークが鼻で笑う。すべては俺たちの掌の上だ。
街から数キロ離れた荒野。
そこには、全身を岩のような鱗で覆った体長5メートルを超える地竜が、大地を震わせて咆哮していた。
「……でかい。けど、ルミナスがあればいけるはずだ!」
アルトが果敢に突っ込む。だが、現実は非情だ。
アルトの剣技はまだ素人の域を出ていない。地竜の強靭な尾が振るわれ、彼を叩き潰そうとしたその瞬間――。
(――さて、仕事の時間だ)
俺は地竜の足元に伸びる「影」に干渉した。
地竜が踏み出した足が、まるで底なし沼に嵌まったかのように一瞬だけ停止する。
「えっ? おおっ、隙だらけだ!」
アルトはそれを「地竜が自分から躓いた」と勘違いした。
彼はルミナスを振りかぶる。本来なら竜の鱗を断つには筋力が足りない。
そこで俺は、アルトの影を通じて「影の武装」をルミナスの刃に薄く纏わせた。
ズシャァァァッ!!
「ぎゃあああおん!?」
バターを熱したナイフで切るかのように、ルミナスが地竜の堅牢な首を両断した。
アルト本人が一番驚いている。
「……切れた。俺、今、ドラゴンをワンパンで……?」
『(……おめでとうございます、アルト様。あなたの「秘められた才能」が今、開花したのです)』
アークが空中に魔法文字を浮かび上がらせ、アルトを祝福する。
もちろん、その「才能」の正体は、俺が地竜の防御力をゼロにし、攻撃力を一万倍に底上げした結果なのだが。
地竜の死体から溢れ出す膨大な経験値の7割が、契約の糸を通って俺の胃袋へと流れ込んでくる。
あとの3割で、アルトのレベルも一気に跳ね上がった。
「すげぇ……力が湧いてくる! 俺、本当に勇者なんだ! エリオットさんの言った通りだ!」
夕陽を背に、ドラゴンの首を掲げて吠えるアルト。
その影で、俺はアークと共に満足げに喉を鳴らした。
「(ちょろいもんだな。……これで明日のギルドは、天才勇者の誕生に大騒ぎになるぞ)」
『(ええ。名声も、金も、経験値も、すべては私たちの「方舟」に積み上げられていきます)』
俺たちは、歓喜に震える「神輿」を担ぎ、意気揚々と街への帰路についた。
【アークの記録帳】
• 個体名: ノア
• 種族: [影纏いの神獣]
• レベル: 10 → 12(地竜の精髄を大部分徴収)
• 称号: [影の立役者]
• 保有スキル:
• [捕食進化]
• [影の移動]
• [魔剣生成:ルミナス]
• [影の武装]
• [影の遠隔操作](New):装備者の影を通じて、物理法則を無視したサポートを行う。
• アークの分析:アルト様、自分の実力を「元々これくらいあった」と解釈し始めています。人間とは実に都合の良い生き物ですね。おかげで、我々の介入を疑う様子は微塵もありません。
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