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スクラップブック:勇者の影で笑う猫  作者: beens
第1章:はじまりの街と偽りの救世主

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8/27

7話『最初の大進化:影をまとう獣』

 その夜、アルトの寝息はいつもより深かった。

彼が今日、森の奥で「たまたま見つけた」という魔力回復の果実を、アークがこっそり鑑定し、「安眠効果」を付与して食べさせたからだ。

「……準備はいいか、アーク」

俺は猫の姿で、店の地下――例の『魔力溜まり』へと続く隠し扉の前に立っていた。

地下室は、かつての店主がゴミ捨て場にしていたようだが、今やそこは、アルトがルミナスを通じて献上した何百体もの魔物の「精髄」と、俺が昨夜捕食した魔力の残滓が渦巻く、禍々しい繭のようになっていた。

『万全です、主殿。これより、あなたの霊格を一段階引き上げます。……ただの「残滓」から、真に世界を食い破る「獣」へ。苦痛を伴いますが、それも心地よい刺激でしょう?』

「……ふん。今の俺は、飢えて死にそうなんだ。早くしろ」

地下室の床に降り立った瞬間、俺は擬態を解いた。

影が爆発するように膨れ上がり、地下室の四壁を真っ黒に塗りつぶす。

「にゃ、ああああああ……ッ!!」

喉から漏れたのは、猫の鳴き声ではない。

地獄の底から響くような、重低音の咆哮。

内側から骨が砕け、肉が再構成され、毛並みの代わりに「高密度の魔力の鱗」が全身を覆っていく。

ドクン、ドクン……!

脈打つたびに、地下室の空気が震える。

背中からは影で形成された二対の翼が、尾は三股に分かれ、それぞれが意志を持つ蛇のように蠢く。

猫でもなく、人間でもない。

美しくも忌まわしい、漆黒の『影纏いの神獣シャドウ・キマイラ』。

『――進化、成功。霊格:中位魔族級に到達。……おめでとうございます、主殿。これであなたは、この街の「神」も同然です』

俺は新しく手に入れた鋭い四肢で、地下室の石床を軽く叩いた。

それだけで、厚さ数メートルの岩盤に深い亀裂が走る。

視界は夜を昼に変え、空気中の魔力の流れが糸のように鮮明に見える。

「……はは、最高だ。力が……溢れてくるな」

俺は三つの尾の先端から、極小の「影の弾丸」を放った。

それは地下室の壁を音もなく貫き、地上に影響を与えることなく、空間そのものを削り取った。

「これなら、アルトを『守る』のも、これまで以上に簡単だな。……もっとも、奴が倒すべき獲物を、俺が先に絶滅させてしまわないように気をつけなきゃいけないが」

『くくく……。ご安心を。そのための「方舟アーク」です。あなたの力は私が管理し、必要な時に必要なだけ、勇者様への「奇跡」として還元いたしましょう』

俺は再び、小さな、弱々しい黒猫の姿へと戻った。

だが、その瞳の奥には、以前とは比べ物にならないほど深い闇が宿っている。

翌朝、アルトが目覚めて俺を抱き上げたとき、彼は「おや?」と首を傾げるだろう。

「ノア、なんか毛並みがツヤツヤになったな!」と。

彼が触れているのは、世界を滅ぼしかねない強大な影の化身だとも知らずに。


【アークの記録帳スクラップ

• 個体名: ノア

• 種族: [影纏いの神獣シャドウ・キマイラ] ※大進化第1段階

• レベル: 5 → 10(進化によるレベルキャップ解放)

• 称号: [静かなる捕食者]

• 固有能力(自動発動):

• [威圧の霧]:ノアが殺気を漏らしただけで、レベル10以下の敵は即死する。

• 保有スキル:

• [捕食進化]

• [影の移動]

• [魔剣生成:ルミナス]

• [影の武装]

• [影の翼](New):空中移動、および影による広範囲攻撃が可能。

• アークの分析:最初のハードルを越えましたね。これで「はじまりの街」周辺に、ノア様の敵はいなくなりました。……次はアルト様に「手応えのある冒険」を提供し、さらなる高みへ誘導する準備を始めましょう。

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