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スクラップブック:勇者の影で笑う猫  作者: beens
第1章:はじまりの街と偽りの救世主

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5話『夜の路地裏、捕食の音』

 昼間のアルトは、まさに「光の申し子」だった。

俺が授けた魔剣ルミナスを振り回し、街の外の森でゴブリンやスライムを面白いようになぎ倒してきたらしい。夕方に帰還した彼は、全身返り血まみれ(ただし、本人は無傷)で、「この剣、やっぱりすごいよ!」と目を輝かせて報告してきた。

そして、彼が眠りについた今。

俺の懐には、契約魔法を通じて「経験値」という名の純粋な魔力が流れ込み続けている。

(……ふむ。アルトの稼ぎだけで、レベルが一つ上がったか。効率は悪くない)

俺は猫の姿で窓枠に座り、月を見上げた。

だが、これだけでは足りない。アルトから吸い上げる魔力はあくまで「栄養剤」だ。俺がかつての、あるいはそれ以上の「禍々しき姿」へ至るには、もっと濃密な魔力――強力な魔物の『コア』そのものを喰らう必要がある。

『主殿、準備は整いました。街の東側、スラム街のさらに奥。下水道から溢れ出した魔力が、一つの「歪み」を作っています』

ポーチの中でアークが静かに告げた。

俺は音もなく窓から飛び降り、着地する寸前に影を広げた。

「行くぞ、アーク。今夜は少し、脂の乗った獲物を期待したい」

影が俺の体を包み込み、黒猫の輪郭を人間よりも大きな、不定形の獣へと変える。俺たちは夜の闇に紛れ、音もなく路地裏を抜けていった。

スラムの最深部。そこには、バルカスがギルド長として「見て見ぬふり」をしてきた闇があった。

ゴミの山と廃屋の間に、周囲の空間を歪ませるほどの魔力を放つ、巨大な『影』が蠢いている。

「……ありゃあ、シャドウ・ストーカーか。はじまりの街の裏に潜むには、いささか分不相応な獲物だな」

そこには、漆黒の毛並みを持つ巨大な狼のような魔物がいた。赤い瞳を爛々と輝かせ、行き場を失った野良犬を弄ぶように切り刻んでいる。

『推定レベル15。はじまりの街の冒険者では、十人がかりでも返り討ちでしょう。……ですが、今のあなたなら、良い「前菜」になります』

「レベル15か。アルトの幸運のおかげで、予定より早くレベルが上がった俺の、最初の実験台にはちょうどいい」

俺は影の中から、一瞬で実体化した。

シャドウ・ストーカーが俺の気配に気づき、鋭い咆哮を上げる。奴の影が針のように鋭く伸び、俺の心臓を貫こうと放たれた。

「――遅いな」

俺は半歩だけ横にずれ、伸びてきた影の針を自らの影で包み込み、逆に「捕食」した。

「ッ!? ギ、ギィ……!?」

魔物が驚愕に目を見開く。自分の攻撃が「消失」したのではなく、目の前の存在に「奪われた」ことに気づいたのだろう。

俺はそのまま地面を蹴った。一瞬で間合いを詰め、人型の腕を鋭い鉤爪へと変える。

シャドウ・ストーカーの首筋を、俺の爪が容赦なく引き裂いた。

「ご馳走様だ」

黒い血が舞い、魔物の断末魔が路地裏に響く。

だが、俺はそれを逃さない。傷口から溢れ出す黒い霧――魔力の核を、俺の影が貪欲に飲み込んでいく。

ズ、ズズズ……ッ!

俺の背筋を、熱い衝撃が駆け抜けた。

魔物の核が俺の内側で砕け、冷徹な魔力へと変換されていく。

『……お見事です、ノア様。シャドウ・ストーカーの核を完全に吸収。ステータスに大幅な上昇を確認。……おや、新たなスキルの兆候が出ていますね』

俺は爪についた血を払い、再び小さな黒猫の姿に戻った。

体の内側で、新しい力が脈打っているのを感じる。単なる身体能力の強化ではない。影をより自在に、より「殺傷能力」の高いものへと変える力だ。

「……ふぅ。やはり、直接喰らうのが一番だな」

俺は満足げに喉を鳴らし、再びアルトの待つ宿屋へと足を向けた。

明日の朝、アルトが目覚める頃には、俺はもっと「愛くるしい猫」として、彼をさらに過酷な(実入りの良い)依頼へと導いてやるつもりだ。


【アークの記録帳スクラップ

• 個体名: ノア

• 種族: [虚無の残滓(擬態:黒猫)]

• レベル: 3 → 5(シャドウ・ストーカー捕食により急上昇)

• 称号: [闇の捕食者]

• 保有スキル:

• [捕食進化]

• [影の移動]

• [魔剣生成:ルミナス]

• [影の武装](New):自らの影を武器(爪や刃)に変え、実体化させる。

• アークの分析:はじまりの街の隠しボス的存在をあっさり捕食。レベルアップのテンポが速すぎますが、これもアルト様の「幸運」が引き寄せた縁(獲物)と言えるでしょう。……主殿、そろそろ第1段階の「大進化」の条件が見えてきましたよ。

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