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スクラップブック:勇者の影で笑う猫  作者: beens
第5章:勇者 vs 魔神

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エピローグ:世界一平和で、怠惰なスクラップ

 「希望の芽吹き村」の午後は、相変わらずのどかだった。

かつて魔神を葬った聖なる地も、今はただの「日当たりの良い田舎村」だ。

「えいっ、とうっ! ……ふぅ、やっぱり剣の修練は疲れるなぁ」

村の外れで木剣を振るっているのは、少年のアルトだ。

かつて「全次元の勇者」だった面影はまだない。だが、その瞳には真っ直ぐな光が宿っている。

「にゃーん(……腰が高いぞ、アルト。その構えじゃ、スライムにさえ逃げられる)」

俺は近くの切り株の上で、お腹を出して日向ぼっこをしながら欠伸をした。

今の俺は、どこからどう見てもただの黒猫だ。かつての圧倒的な魔力も、神を喰らう翼も、すべて「内側の深い闇」に仕舞い込んである。

『(主殿。……口ではそう仰っていますが、先ほどアルト様の足元に転がってきた毒蛇を、視線だけで「消去スクラップ」したのはどこのどなたですか?)』

(……うるさい。せっかくの昼寝を邪魔する『ゴミ』を掃除しただけだ)

アークのノートは、今や俺の毛並みの中に隠れ、実体を持たない思考のパートナーとなっていた。

「よし、今日はここまで! ……おいで、ノア。おやつにしよう」

アルトが俺を抱き上げる。

その腕の中は、かつて俺が支配したどの玉座よりも心地よく、温かい。

アルトが懐から取り出したのは、少し不恰好だが心のこもった手作りのクッキーだ。

「これ、リナリア……じゃなくて、村長さんの娘さんがくれたんだ。ノアにも半分やるよ」

俺は差し出されたクッキーを、カリカリと咀嚼する。

かつて神の心臓を喰らった俺にとって、それはどんな魔力結晶よりも深い「幸福」というエネルギーに満ちていた。

ふと見上げると、空の境界線が微かに揺らいでいるのが見えた。

かつて俺が排除した「女神の未練」の残りカスが、小さな塵となって消えていく。

(……アーク。世界の状態はどうだ?)

『(極めて良好です。大きな歪みもなく、あなたの「整理」のおかげで、この世界はあと数万年は勇者なしでも平和に回るでしょう。……ただ、あなたの好物が「最高級の煮干し」に固定されてしまったことだけが、唯一のバグと言えるかもしれません)』

(ふん。……たまには、安上がりの幸せも悪くない)

夕暮れ時。

村へ戻る道すがら、アルトは楽しそうに未来の夢を語っていた。

「いつか俺、すごい冒険者になって、ノアと一緒に世界中を旅するんだ! それで、困っている人をたくさん助けるんだよ」

「にゃお(……勝手にしろ。ただし、危なくなったら俺が影で片付けてやるがな)」

少年の夢を守るために、神すらも欺き、世界を一度壊して作り直した猫。

そんな真実を、アルトは一生知ることはないだろう。

それでいい。それが、この「世界一贅沢な片付け」の結末なのだから。

オレンジ色に染まる畦道に、二つの影が長く伸びる。

一つは少年の影。そしてもう一つは、時折、巨大な獣の形に揺らめいては、すぐに小さな猫の形に戻る、漆黒の影だった。


【アークの最終記録】

• 個体名: ノア

• 現在の役割: アルトの飼い猫(兼・世界の掃除屋)

• 今日の戦利品: アルトのクッキー半分

• 村に迷い込みそうになった次元のバグ(0.001秒で捕食)

• 分析:全次元の「スクラップ・プロジェクト」は完全に終了しました。

これ以上の介入は不要と判断し、本記録を凍結します。

……おやすみなさい、主殿。また次の「お片付け」が必要な時まで。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

読者の皆様の応援のおかげで、ここまで書き進めることができています。

もし「続編が気になる!」「応援してるぞ!」と思っていただけましたら、ぜひブックマークや、星での評価で応援をいただけないでしょうか。

皆様のポイントが、ランキングを駆け上がる原動力となります!

これからも熱い展開をお届けします!

よろしくお願いします!

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