最終章:『はじまりの場所、スクラップの真実』
勇者アルトの手によって討たれ、世界のすべての「毒」を抱いて消滅したノア。
意識が深い闇に沈み、因果の川を遡った先で待っていたのは、あの冷たい雨の日。
ついに、物語の最後のピースが繋がっていく。
激痛も、重圧も、魔力もない。
ただ、冷たい雨の感触と、湿った段ボールの匂いだけがそこにはあった。
「……にゃあ(戻ってきたのか。あの、最悪の日へ)」
視界の端には、泥に汚れ、消えかかった影を持つ小さな子猫――かつての俺の姿。
そして、目の前にはあの日と同じ、深いフードで顔を隠した「マントの男」が立っていた。
「……ようやく着いたか。長い旅だったな、ノア」
男が静かに口を開いた。その声は、驚くほど俺自身の声に似ていたのだ。
男がフードを脱ぐと、そこにあったのは、アルトでもなく、魔王でもない。
数千回、数万回の「世界のスクラップ」を繰り返してきた、未来の俺自身の姿であった。
【ノアの正体】
俺は、神が作ったバグでも、偶然生まれた魔物でも無かったのだ。
増えすぎた情報、歪んだ因果、救われなかった魂……。世界が「処理しきれなくなったゴミ」を一時的に封じ込め、宇宙がパンクするのを防ぐための「生きたゴミ箱」。それが、俺という存在の正体だった。
『(主殿。……いえ、私の「核」よ。……ようやく気づきましたか。この世界の管理システムは、定期的に「最強のゴミ箱」を作り、それを勇者に排除させることで、世界の不純物を一掃してきたのです)』
アークのノートが、黄金色に輝きながら空中に展開されていく。
男は、悲しげに微笑んだ。
「この世界は、ゴミが溜まれば滅びる。だから、誰かがそのゴミをすべて飲み込み、勇者に殺されなければならない。……俺は前の周回でその役割を果たせなかった。だから、お前という『新しい自分』を過去に捨て、やり直させたんだ」
「お前を捨てるのではない。お前に……この世界を救うための『器』になってほしかったんだ」
あの日、男が呟いた言葉の真意。
それは、自分という存在を一度殺し、まっさらな状態で「勇者との絆」を学ばせること。
絆を知らぬまま世界を喰らえば、俺はただの「災害」で終わる。だが、アルトと歩んだ俺は、「愛する世界を救うために自ら消える」という究極の浄化装置になれたのだった。
最後の選択
「さあ、ノア。お前はアルトに殺されることで、この世界の汚れをすべて消し去った。……だが、お前の魂はどうする? このまま『無』に帰るか。それとも……」
未来の俺が手を差し伸べた。
その手を取れば、俺は再び「管理者」として、新しい世界の影に潜むことになるだろう。
(……アーク。……お前はどうしたい?)
『(私は、あなたの記録帳です。あなたがどこへ行こうと、そのページを綴り続けるだけですよ。……たとえ、それが「勇者の家の、ただの飼い猫」としての日常だったとしても)』
俺はふっと笑みを溢した。
神や魔神、次元の支配者なんて役回りは、もう飽き飽きだ。
「にゃお(……おやつが豪華な方の人生を、選ばせてもらうよ)」
俺は未来の自分の手を拒絶し、降りしきる雨の中、段ボールの中から這い出した。
すると、遠くから聞き覚えのある、がさつで温かい足音が聞こえてきた。
「……あれ? こんなところに、猫が捨てられてる……」
まだ聖剣も持たない、ただの村人の少年――アルトが、傘を差し出しながら俺を見つけたのであった。
「お前、一人か? ……俺も一人なんだ。……一緒に、行くか?」
俺は少年の腕の中に飛び込み、最高に甘えた声で鳴き続けた。
世界を喰らう影でもなく、神の代行者でもない。
ただの、少しだけ影が濃い「ノア」という名前の猫として、再び物語のノートは開かれていくだろう。
【アークの記録帳】
• 個体名: ノア
• 種族: [ただの黒猫]
• レベル: 1
• 称号: [アルトの相棒]
• 保有スキル:
• [ゴロゴロ鳴く]
• [日向ぼっこ]
• [たまに勇者を裏から助ける]
• アークの最終分析:すべてのスクラップは完了しました。世界は救われ、因果は円環を閉じました。
……主殿、今日の晩御飯は奮発して「王都産の高級キャットフード」をアルト様におねだりしましょうか。
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