1話『再会の戦場、かつての絆の残骸』
ノアの支配は、全次元に及んだ。
紛争も、飢餓も、理不尽な死も存在しない、完璧に「整理」された世界。しかし、そこには変化も希望もなく、ただ効率的な魔力生産だけが繰り返される「巨大な揺りかご」のような停滞が満ちていた。
その静寂を破ったのは、一本の光の矢――聖剣ルミナスの輝きだった。
「……来たか、アルト」
世界の中心、虚空に浮かぶ「整理の玉座」で、俺は人型の影として目を覚ました。
目の前には、数年前の面影を残しつつも、過酷な修行と絶望を乗り越えた「真の勇者」の姿がそこにあった。
「ノア……。いや、全次元の捕食者よ。今日こそ、お前の長い管理を終わらせに来た」
アルトの背後には、かつて俺が雇用した面々が並んでいた。
魔王ゾルガード、四天王の面々、そして聖女リナリア。彼らは俺が与えた「安定」を捨て、アルトが掲げる「不自由でも確かな自由」を選んだのだ。
『(主殿。……かつての従業員全員の離反を確認。……皮肉なものですね。あなたが彼らを豊かにした結果、彼らは「管理される安心」よりも「自分の足で歩く不安」を選ぶだけの精神性を獲得してしまった)』
(……ああ。最高のスクラップ(廃棄物)に育ったじゃないか。……アーク、迎撃準備を)
「みんな、行くぞ! 魔神を倒して、世界を俺たちの手に取り戻すんだ!」
アルトの号令と共に、かつての仲間たちが一斉に襲いかかっていく。
魔王の咆哮、四天王の連携。それらはかつて俺が教え、強化した技術そのもの。
俺は[終焉の鎌]を手に取り、一人で彼らを迎え撃った。
一振りで空間を削り、一歩で因果を飛び越える。かつて「猫」だった存在は、今や一太刀で神々を絶滅させる暴力の権化となっていた。
「……にゃお(遅いな、ザガン。……パンの捏ね方が足りないんじゃないか?)」
「ぐっ……! まだそんな減り口を……!」
次々と仲間たちが地に伏していく中、アルトだけが聖剣を光り輝かせ、俺の懐へと飛び込んできた。
その剣筋には、女神の遺志だけでなく、世界中の人々の「生きたい」という執念が宿っていた。
ガキィィィィィィィン!!
鎌と聖剣が激突し、次元そのものの悲鳴が上がる。
「ノア! お前は言ったよな! 『無駄を削ぎ落とす』って! でもな、俺たち人間にとっては、その『無駄』こそが……誰かを好きになったり、一緒に笑ったりする時間が、一番大切だったんだ!」
「……それが、貴方の結論ですか。勇者様」
俺はアルトの目を正面から見据えた。
その瞳の奥にある輝きを確認し、俺はほんの僅かに口角が上がった。
(……アーク。……最終工程へ移行しろ。……俺という『最大のゴミ』を、この少年に片付けさせる時だ)
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