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スクラップブック:勇者の影で笑う猫  作者: beens
第4章:異次元の監査官と、崩壊する箱庭

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2話『神の理への叛逆』

 崩壊し、塵となって消えていく世界。その空に浮遊する監査官ゼロは、自らの杖――消去の概念そのもの――をノアに喰らわれた事実を、演算処理できずにいた。

「演算……不能。本個体、および当該世界の消去は不可能と判断。……最終プロトコル:[心中デリート]を起動する」

ゼロの体から、無機質な白い光が溢れ出す。それは周囲の空間を巻き込み、点へと収束していく。世界を消すのではなく、この空間に存在する「因果」そのものを爆縮させ、ノアごとすべてを無に帰す自爆命令。

「勇者……、そしてバグ猫。……この座標ごと、消えなさい」

「わあああっ! ノア! あいつ、爆発するぞ! 逃げよう!」

アルトが必死に叫び、俺の元へ駆け寄ろうとする。だが、彼は見た。

俺の背後で揺らめく影が、もはや「可愛い猫のしっぽ」ではなく、数千の眼を持つ奈落の触手へと変貌しているのを。

「……にゃお(逃げる必要はない。……これは、絶好の『素材』だ)」

俺はアルトの制止を聞かず、爆縮する光の渦へと飛び込んだ。

(アーク。ゼロの自爆エネルギー、およびこの世界の崩壊モーメントを同期させろ。……消去の概念を、俺の[影の武装]へ『フォーマット(初期化)』する)

『(了解。……対象世界の残り寿命、約300秒。すべてを圧縮し、新たな武装へと再構成クラフトします。……主殿、少し「重い」ですよ)』

俺の体が、光を飲み込むブラックホールと化した。

ゼロが命を賭して放った「消去の光」は、俺の体内にある[因果捕食]の胃袋の中で、ただの「高純度エネルギー」へと変換されていく。

さらに、周囲で崩れ落ちていた建物の残骸、ひび割れた空、死に絶えた概念――それらすべてを影の糸で手繰り寄せ、俺は一つの形へと編み上げた。

「――[終焉のデリート・サイズ]」

俺の口から吐き出されたのは、真っ黒な刃に白いノイズが走る、巨大な大鎌だった。

それは武器ではない。触れた場所の「存在権限」を剥奪し、強制的にスクラップへと変える、管理者殺しの道具だ。

「……バカな。世界そのものを、武器に変えた……というのか……?」

光を失い、透き通った抜け殻のようになったゼロが、空中で消えかかりながら呟く。

俺はその首筋に、再構築したばかりの鎌の刃を突き立てた。

「にゃーん(お前の言う『神』に伝えておけ。……このゴミ捨て場は、俺が買い取ったとな)」

鎌を一閃。ゼロという存在は、悲鳴も上げずに真っ白な「情報」となって俺の中に吸収された。

静寂が訪れる。

世界は消滅を免れたが、そこにはもはや空も大地もない。ただ、俺の影が作り出した漆黒の平面が広がる、無機質な「ノアの書斎」へと変貌していた。

「……ノア?」

震える声。振り返ると、アルトがルミナスを握ったまま、数メートル先で立ち尽くしていた。

彼の瞳にあるのは、信頼ではない。正体の知れない「怪物」を見る、剥き出しの恐怖だ。

「……お前、本当にノアなのか? さっきの姿は……何なんだ? あの天使みたいな人を、あんなに惨たらしく……」

俺は猫の姿に戻り、アルトの足元に寄ろうとした。

だが、アルトは無意識に一歩、後退あとずさった。

「お前……、今まで俺を、騙してたのか?」

その言葉に、俺は少しだけ喉を鳴らした。……悲しみではない。

ようやく、この「勇者ごっこ」のスクラップ期限が近づいてきたのだという、冷徹な確信からくる鳴き声だった。


【アークの記録帳スクラップ

• 個体名: ノア

• 種族: [次元を喰らうワールド・イーター]

• レベル: 31

• 称号: [管理者殺し](New)

• 保有スキル:

• [捕食進化]、[影の支配]、[因果捕食]、[神威の眼]、[次元跳躍]

• [終焉のデリート・サイズ](New):崩壊した世界の残滓から作られた。触れたものの存在定義を消去する。

• アークの分析:監査官ゼロの捕食に成功。女神のいる上位次元へのアクセスコードを抽出しました。

……しかし、アルト様の精神状態に「深刻な亀裂」を確認。……主殿、あなたはもう、彼の「ペット」ではいられないようです。

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