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スクラップブック:勇者の影で笑う猫  作者: beens
第4章:異次元の監査官と、崩壊する箱庭

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1話『次元跳躍、そして廃棄予定の世界』

 「聖魔都市ノア」の繁栄が頂点に達したある日。

俺は都市の中央にそびえる「ノア・タワー」の最上階で、世界の境界線が歪む音を聞いた。

『主殿、来ます。……この世界の物理法則を「上書き」しようとする、外部からの強力な干渉です』

(……ああ。案外、早かったな。魔王を雇ったあたりで、上の連中に気づかれるとは思っていたが)

俺はあくびを一つ。そして、隣で「ねえノア、今日のおやつは何かな?」と呑気に笑うアルトの襟首を影の触手で掴んだ。

「にゃお(旅立ちの時間だ、アルト。……新しいスクラップ場へ行くぞ)」

「ええっ!? ちょっと待って、ノア! まだパンの試作が――」

アルトの叫びが消えるより早く、俺はスキル[次元跳躍ワールド・シフト]を発動した。

視界が反転し、色彩が混濁する。

たどり着いた先は、先ほどまでの楽園とは正反対の、「終わりを待つ世界」だった。

そこは、空がひび割れ、大地が砂のように崩れ落ちていく、荒廃した次元。

建物の残骸は浮遊し、人々の姿はどこにもない。ただ、巨大な「歯車」が空に浮かび、不吉な軋みを上げている。

「……何、ここ。ボロボロじゃないか……」

アルトが絶句する。そんな彼の前に、空から一筋の白い光が降り注いだ。

光の中から現れたのは、感情の欠落した瞳を持つ、純白の甲冑を纏った「天使」のような存在。

「――次元番号:#402。生命活動の停滞を確認。これより、本世界の『デリート(削除)』を開始する」

その「天使」の手には、触れるものすべてをデジタルな塵へと変える「消去の杖」が握られていた。

『主殿。解析完了。個体名:【監査官・ゼロ】。女神に仕え、価値のなくなった世界を「廃棄処分」する、上位次元の掃除屋です』

(……掃除屋、か。……俺と同じだな。だが、俺はこいつとは流儀が違う)

「イレギュラーな存在を検知。……猫の姿をしたバグか。ついでに消去対象に加える」

ゼロが杖を向ける。その瞬間、空間がにじれながらノイズを上げ、アルトの足元が消えかかった。

「わわわっ!? 足が……消える!?」

「にゃお(黙ってろ)」

俺はアルトの影から飛び出し、宙に浮くゼロの目の前へと跳んだ。

俺の瞳、[神威の眼]が、ゼロの構成データ(因果の流れ)を完全に透視する。

(アーク。こいつの『消去権限』、書き換えられるか?)

『(可能です。……ただし、一時的にこの世界の「崩壊速度」を魔力として喰らい、主殿の出力を引き上げる必要があります。……因果律の等価交換を開始します)』

「消えろ、スクラップ」

ゼロが放った消去の光。それは、あらゆる防御を貫通し、存在そのものを「無」にするはずの攻撃だった。

だが、俺はそれを避けなかった。

俺は大きく口を開き、その「消去の概念」そのものを喉の奥へと流し込んだ。

「――[因果捕食コーズ・イーター]」

「なっ……!? 消去を……喰っただと!?」

無機質だったゼロの顔に、初めて「驚愕」というノイズが走る。

俺は影の触手でゼロの杖を絡め取り、そのままバキバキと咀嚼した。

(……ふん。女神の使いの力にしては、少し味が薄いな。……もっと『濃い』のを寄越せよ)

俺の背後から、漆黒の翼が六枚、魔王のそれよりも遥かに巨大で禍々しい姿で展開される。

アルトはその光景を見て、震えていた。

彼が見ていた「可愛くて賢い猫」の仮面が、異次元の敵を前にして、初めて完全に剥がれ落ちようとしていた。


【アークの記録帳スクラップ

• 個体名: ノア

• 種族: [次元を喰らうワールド・イーター]

• レベル: 30

• 称号: [バグの体現者]

• 保有スキル:

• [捕食進化]、[影の支配]、[因果捕食]、[神威の眼]、[次元跳躍] 等

• エネミーデータ:

• 監査官・ゼロ:女神直属の「世界消去」担当。現在、武器を喰われ戦意喪失中。

• アークの分析:女神側が、主殿の存在を「明確な敵」として認識し始めました。……主殿、この監査官を完全に捕食すれば、女神のいる「特異点」へのパスポートが手に入ります。

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