4話『最後の四天王、絶望のチェスボード』
「……フフ、筋肉バカ共が次々と毒牙にかかったようだが、私はそうはいかんよ」
魔王軍四天王の最後の一人、深淵のメルキオール。
彼は村に足を踏み入れるような愚は犯さない。王都に近い交易都市の高級宿の一室で、彼は優雅にチェス駒を動かしていた。
彼の作戦は「経済封鎖」だ。
周辺都市の商人に手を回し、希望の芽吹き村への流通を完全に遮断。さらに、村の特産品を不当に買い叩き、偽札(魔力偽造貨)を流し込むことで村の経済を内側から崩壊させる――。
「力に訴える必要などない。明日にはあの村のパン屋も、自警団も、金が払えず瓦解するだろう。……チェックメイトだ」
しかし、メルキオールは知らなかった。
彼が戦っている相手は、一国の軍隊ではなく、並列思考と無尽蔵のデータベースを持つ「影」と「魔導書」であることを。
「……にゃーん(アーク、敵の空売り(ショート)を確認したか?)」
村のギルド本部(俺の書斎)。
俺はふかふかのクッションの上で、浮遊するアークが映し出す「市場価格のホログラム」を眺めていた。
『(はい、主殿。メルキオール氏による魔力偽造貨の流入を確認。これにより村の通貨価値は一時的に下落していますが……すべて想定内です。むしろ、彼が空売りを仕掛けた分、買い戻しの際の損失が楽しみですね)』
(よし。……[偽造の奇跡]を応用して、村独自の『デジタル暗号魔貨』を発行しろ。裏付け資産は、先日喰った「神の心臓」の残余エネルギーだ)
翌日。メルキオールは驚愕した。
村を干上がらせるはずが、周辺の商人たちがこぞって「希望の芽吹き村でのみ使える新通貨」を求めて、王都の銀行から預金を引き出し始めたのだ。
「な、何だ!? なぜ私の偽札が効かない!? それに、なぜこの村の経済が爆上がりしているのだ!?」
「……メルキオールさん、でしたっけ? 貴方の手法は少し古臭いですね」
窓から「にゃおん」と飛び込んできたのは、一匹の黒猫……ではなく、その影から現れた支配人エリオット(人型のノア)だった。
「経済とは信頼です。そして今のこの国で、最も信頼されているのは『神を喰らった猫(聖獣)』が保証する通貨なんですよ」
エリオットは、真っ青になったメルキオールの前に、一枚の契約書を置いた。
「貴方が空売りで溶かした魔王軍の軍資金、金貨50万枚相当。……現在、すべて我が村の『ノア・ファンド』が吸収しました。……さて、魔王様にどう言い訳しますか?」
「……あ、……あぁ……」
メルキオールは、手に持っていたチェス駒を落とした。
知略で世界を支配しようとした男が、見たこともない「数式」と「市場原理」という暴力の前に、一瞬で破産したのだ。
「……にゃん(ようこそ、最後の一人。お前には村の『財務・税務・投資顧問』を任せよう。魔王軍への送金ルートも、そのまま我が村へのマネーロンダリング経路として使わせてもらうぞ)」
【アークの記録帳】
• 個体名: ノア
• 種族: [神を喰らう影]
• レベル: 26
• 称号: [中央銀行の支配者](New)
• 保有スキル:
• [因果捕食]、[神威の眼]、[影の支配]、[偽造の奇跡]、[光輝の反転]、[NPCマスク] 等
• 新加入スタッフ:
• 深淵のメルキオール(元・魔王軍四天王):現在、村の財務大臣および経済戦略担当。
• アークの分析:四天王、コンプリートしました。
1. ザガン(物流)
2. シルフィーヌ(環境)
3. ヴァルトス(軍事)
4. メルキオール(財務)
これで村は「国家」としての全機能を、魔王軍のトップエリートによって運営されることになります。……主殿、もはや魔王様本人が来ても、門前払い(あるいは雇用)できそうですね。
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