3話『忠義の騎士と、魂の選別』
「――貴様ら、狂ったか!!」
村の入り口に、雷鳴のような怒声が響き渡った。
漆黒のフルプレートアーマーを纏い、背負った大剣から黒い炎を噴き上げる男――四天王最強と謳われる聖騎士ヴァルトスである。
彼は今、目の前の光景が信じられず、兜の奥の瞳を激しく見開いていた。
そこには、鼻歌を歌いながらパンを運ぶザガンと、空を仰いで「あー、風を回すのも仕事のうちよね……」と虚空を見つめるシルフィーヌの姿があった。
「ザガン! シルフィーヌ! 魔王軍の矜持はどうした!? なぜ人間の、それも勇者の下で見苦しく媚びを売っているのだ!」
「……ヴァルトスか」
ザガンは足を止め、しみじみと焼きたてのバゲットを差し出した。
「食うか? ヴァルトス。魔王城の冷えた干し肉より、五倍は力が出るぞ」
「ふざけるなッ!!」
ヴァルトスが抜剣した。黒炎の衝撃波が地面を穿つ。
「勇者を出せ! 貴様らをたぶらかした呪いごと、我が炎で焼き尽くしてくれる!」
「あ、君が新しい移住希望者さん? 凄く強そうな鎧だね!」
そこへ、騒ぎを聞きつけたアルトがやってきた。
相変わらずの無警戒、そして太陽のような善意100%の笑顔。
「貴様が勇者か……! 我が名はヴァルトス! 裏切りし同胞の魂を救い、貴様の首を貰い受ける!」
「……にゃーん(アーク、準備は?)」
俺はアルトの足元に潜み、影をヴァルトスの足元へと静かに這わせた。
この男はザガンたちと違い、力や恐怖だけでは屈しない。「義」と「誇り」を重んじるからこそ、そこを突く。
『(主殿。彼の「騎士道精神」を数値化(データ化)しました。……彼にとっての敗北とは、力が及ばないことではなく、自らの「正義」が否定されることです。……[影の舞台]を展開します)』
(よし、アルトに「最高の舞台装置」を用意してやれ)
ヴァルトスが勇者に斬りかかろうとした瞬間、視界が反転した。
気がつけば、彼は村ではなく、どす黒い闇の中にいた。目の前には、聖剣を構えたアルト……の姿を借りた、ノアの分身(影)が立っている。
「――ヴァルトス。お前の正義とは何だ?」
影の勇者が、かつてヴァルトスが守れなかった民や、魔王軍の理不尽な命令で散っていった部下たちの姿を、闇の中に映し出す。
「魔王に従うことが義か? それとも、弱者を守ることが義か? ……この村を見ろ。ここには魔族も人間も、ただの『隣人』として笑っている。お前の求めた理想郷は、魔王の玉座ではなく、この猫の庭にあったのではないか?」
「……黙れッ! 紛い物の幻想を見せるな!」
ヴァルトスが黒炎を放つ。だが、その炎はノアの[因果捕食]によって虚空に飲み込まれ、代わりに「温かな家庭の匂い」や「子供たちの笑い声」という情報に変換されて彼にフィードバックされた。
「(ぐ……っ、心が……揺らぐ……。これが、勇者の……いや、この村の『力』だというのか……!?)」
現実世界に戻ったヴァルトスは、片膝をついて激しく息を切らしていた。
彼の目には、先ほどまでの怒りはなく、深い当惑と……そして、目の前で自分を心配そうに覗き込むアルトへの「敬意」が芽生え始めていた。
「大丈夫? 凄く辛そうな顔してたけど……。そうだ! お腹が空いてるとネガティブになるってノアも言ってたし、まずは一緒にパンを食べようよ!」
アルトが差し出したのは、ザガンが焼いたパンだった。
ヴァルトスは震える手でそれを受け取り、一口齧る。
「……美味い。……不覚にも、涙が出るほどに」
『(主殿。騎士ヴァルトス、陥落です。……彼の忠誠は「世界を平和にする者」へと上書きされました。……これで村の「警備総司令官」が確保できましたね)』
「にゃお(完璧だ)」
こうして、魔王軍最強の騎士は、「村の治安維持部隊(自警団)」の隊長として就任することになった。
ザガン(運搬)、シルフィーヌ(環境)、ヴァルトス(警備)。
魔王軍の四天王が、着々と村のインフラへと組み込まれていく。
【アークの記録帳】
• 個体名: ノア
• 種族: [神を喰らう影]
• レベル: 26
• 称号: [魔族の再就職斡旋人](New)
• 保有スキル:
• [捕食進化]、[影の移動]、[魔剣生成:ルミナス]、[影の武装]、[影の支配]、[偽造の奇跡]、[影の代行者]、[光輝の反転]、[NPCマスク]、[記憶の断片化]、[影の自白剤]、[影の過負荷]、[因果捕食]、[神威の眼]
• 新加入スタッフ:
• 聖騎士ヴァルトス(元・魔王軍四天王):現在、村の自警団・治安維持担当。
• アークの分析:四天王の三人を接収。村の軍事力は、すでに王都の正規軍を遥かに凌駕しています。残る四天王はあと一人……知略を司る「あの男」だけですが、彼はすでにこの状況を把握し、動いているようです。
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