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スクラップブック:勇者の影で笑う猫  作者: beens
第3章:四天王の来訪と、魔境の開拓

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1話『四天王、村のパン屋に戦慄する』

「希望の芽吹き村」は、今や「はじまりの街」を凌ぐ活気に満ち溢れていた。

王都からの多額の資金援助と、ノアが裏で管理する「魔導建築」の恩恵により、村の建物はどれも美しく、道は舗装され、至る所に豊かな作物が実っている。

だが、その平和は「極めて高度な偽装」の上に成り立っていた。

「……ここが、件の勇者の拠点か。反吐が出るほど、陽光と平和に満ちておるな」

村の入り口。黒いマントを深く羽織った大男が、忌々しげに呟いた。

魔王軍四天王の一人、鉄血のザガン。

かつて数多の城を一夜で陥落させた「剛力の魔人」である彼は、主君の心臓を奪った「正体不明の化け物」を探るべく、偵察に訪れていた。

「ふん、所詮は人間の村。まずは住民を数人拉致し、情報を吐かせ――」

ザガンがそう決めて、まずは腹ごしらえとばかりに、香ばしい匂いの漂う村のパン屋へと足を踏み入れた。

「いらっしゃい。……焼きたてはそっちのデニッシュだ」

カウンターの奥から、無愛想な声が響く。

そこにいたのは、筋骨隆々とした初老の男。ザガンは鼻で笑った。

(ふん、ただの人間か。……待て。この男、隙がない。構えが完全に……「一撃で首を刈る」者のそれだ)

ザガンは、パンをトングで掴もうとした手が止まった。

男の背後の壁には、巨大な「黒龍の角」が記念品のように飾られている。それはかつて、魔王軍でも手に負えなかった災厄級の魔物の部位だった。

「……親父、その角は?」

「ああ、これか? 昔、村の外で薪拾いをしてる時に邪魔だったんでな。ちょっと『掃除』した時の記念だよ」

店主はポツリと言った。

彼の正体は、かつて大陸全土を震撼させたが、ノアに「平穏な余生」と引き換えにスカウトされた元・伝説の暗殺者ギルド首領である。

「(な、何だと……!? 黒龍を薪拾いのついでに……!?)」

ザガンは冷や汗を流しながら、店を出て隣の薬草屋へ向かった。

そこでは腰の曲がった老婆が、煮えたぎる鍋に「魔界の猛毒植物」を平然と放り込み、風邪薬を作っていた。さらに道行く子供(変身種)は、遊び半分で庭石を指一本で粉砕している。

「(馬鹿な……。この村、何だ!? 住民のレベルが軒並み、我が魔王軍の幹部クラスを超えているではないか!!)」

「にゃーん(ようこそ。お前も『求人広告』を見て来たのか?)」

「!!?」

ザガンの背後に、いつの間にか一匹の黒猫が座っていた。

夜の闇をそのまま切り取ったような毛並み、そして銀河のように煌めく双眸。

ザガンは、その猫と目が合った瞬間、魂が凍りつくのを感じた。

四天王としての直感が、全力で警鐘を鳴らしている。

『逃げろ。それは猫ではない。世界そのものを喰らう「何か」だ』と。

「き、貴様が……魔神の心臓を……!」

「……にゃお(静かに。アルトに聞こえるだろう?)」

俺は[影の支配]を使い、ザガンの足元から伸びる影を「檻」へと変形させた。

ザガンは自慢の剛力を使おうとしたが、その瞬間に[因果捕食]が発動。彼が放とうとした魔力そのものが、俺の腹の中に「吸い込まれて」消えた。

『(主殿。四天王:ザガン、捕獲完了です。……推定戦闘力は高いですが、性格は「実直な武人」。洗脳するよりも、この村の「警備責任者」として高給で雇い、魔王軍への防波堤にするのが最もコストパフォーマンスが良いかと)』

(ああ。……パン屋の用心棒も欲しがっていたからな。ちょうどいい)

俺は、恐怖で動けなくなった魔王軍最強の戦士を見上げ、優雅に尻尾を振った。

こうして、魔王軍四天王の一人は、翌日から「村の交通整理係(兼・パン屋の警備)」として働くことになった。


【アークの記録帳スクラップ

個体名: ノア

種族: [神を喰らうディバイン・イーター]

レベル: 25

称号: [聖獣]、[はじまりの王]

保有スキル:[因果捕食]、[神威の眼]、[影の支配]、[偽造の奇跡]、[光輝の反転]、[NPCマスク] 等

新加入スタッフ:鉄血のザガン(元・魔王軍四天王):現在、村の交通整理および力仕事担当。

アークの分析:魔王軍の「最高戦力」を一人、無傷で接収しました。これにより、魔王軍内部の情報が筒抜けになります。

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