12話『王都の英雄、そして次なる獲物』
王宮の地下から帰還したアルトとノア、そして聖女リナリアを待っていたのは、地鳴りのような歓声だった。
迷宮の瘴気が晴れ、王都の空が数十年ぶりに真の青さを取り戻したのを見て、市民たちは確信したのだ。「真の勇者が現れた」と。
「勇者アルト万歳! 聖獣ノア様万歳!」
熱狂する群衆の中、アルトは照れくさそうに笑いながら手を振っている。
一方、俺はアルトの肩の上で、アークと共に「戦利品」の最終確認を行っていた。
「……にゃーん(国王の顔が見ものだな)」
『(ええ、主殿。自分たちが封印しきれなかった負債を押し付け、あわよくば勇者ごと葬り去ろうとした計画が瓦解したのです。今や国王にできるのは、あなたの機嫌を損ねないよう、最大限の「誠意(金と権力)」を差し出すことだけです)』
謁見の間。
昨日まで尊大だった国王は、今や借りてきた猫のように(俺の方がよっぽど堂々としているが)縮こまり、震える声で宣言した。
「……勇者アルト、そして聖獣殿。王都を救った功績を称え、公爵位に相当する領地――現在の『希望の芽吹き村』周辺の完全自治権を認める。さらに、反逆の罪で没収したフェルナンド公爵の全財産、金貨100万枚を贈与しよう」
「100万枚!? そんなにいいんですか!?」
アルトが飛び上がらんばかりに驚く。
だが、俺は知っている。その金貨の半分以上は、フェルナンドが裏で不当に集めた「汚れた金」だ。それを勇者に押し付けることで、王家は自らの手を汚さずに不祥事を処理しようとしている。
(アーク、その金貨の『洗浄』を。全て村の地下倉庫へ転送しろ。それと、公爵が隠し持っていた禁忌の魔導具コレクションも、目立たないように「スクラップ(回収)」しておけ)
『(承知いたしました。……おや、公爵のコレクションの中に、面白いものを見つけましたよ。「異界の門」を開くための触媒です。……これは、次の展開に使えそうですね)』
数日後。俺たちは懐の温まった(物理的にも魔力的にも)アルトと共に、自分たちの村へと凱旋した。
「おかえりなさいませ、主殿。……いえ、勇者様!」
村の入り口では、さらに「善良な村人」らしくなった元・凶悪犯たちが整列して出迎えていた。
村は王都からの移住者や、アルトを慕う冒険者たちで以前の数倍の規模に膨れ上がっている。
「ノア、俺……この村をもっと大きくして、誰もが笑って暮らせる場所にしたいんだ。それが俺の、勇者としての夢なんだ!」
夕日に染まる村を見下ろしながら、アルトが熱く語る。
俺はその横顔を見ながら、心の中で薄笑いを浮かべた。
(……ああ、いい夢だな。お前が笑えば笑うほど、この村の『魔力集積』は加速する。ここはもう、世界で最も甘美な『餌場』へと進化したんだからな)
だが、その時。
遥か遠方、魔族の版図である「魔王領」の最奥にて。
漆黒の玉座に座る影が、一つ、不快そうに目を細めた。
「……消えたか。王都の地下に眠らせていた、我が主の『心臓』が」
声の主は、魔王軍四天王の一人。
彼は虚空を指でなぞると、そこには「希望の芽吹き村」を優雅に歩く、一匹の黒猫の姿が映し出された。
「……ただの猫ではないな。……面白い。勇者の遊び場に、どんな怪物が潜んでいるのか、この私が見定めに行くとしよう」
【アークの記録帳】
• 個体名: ノア
• 種族: [神を喰らう影]
• レベル: 25
• 称号: [聖獣]、[はじまりの王](New)
• 保有スキル:
• [捕食進化]、[影の移動]、[魔剣生成:ルミナス]、[影の武装]、[影の支配]、[偽造の奇跡]、[影の代行者]、[光輝の反転]、[NPCマスク]、[記憶の断片化]、[影の自白剤]、[影の過負荷]、[因果捕食]、[神威の眼]
• 保有資産:
• 金貨100万枚(洗浄済み)
• 希望の芽吹き村(完全自治領、人口1,000人突破)
• 王都の利権網
• アークの分析:大勝利です。……ですが、主殿。あなたが「神の心臓」を喰らったことで、世界全体の因果のバランスが崩れ始めました。次なる敵は、より強大で、より「質の高い」魂を持つ者たちになるでしょう。
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