11話『神を喰らう猫』
「これで……終わりだぁぁぁッ!!」
アルトが叫び、漆黒の稲妻を纏ったルミナスが魔神の心臓を繋ぎ止める「因果の鎖」を一刀両断した。
刹那、迷宮全体が悲鳴を上げるような轟音に包まれる。
封印から解き放たれたのは、浄化された空気などではない。
数千年の憎悪と魔力を煮詰めた、どす黒い「無」の波動。魔神の意識が、自分を解放した生贄を喰らい尽くそうと、津波となって押し寄せた。
「……あ、がっ!? 体が、動か……」
アルトの意識が白濁する。リナリアもまた、あまりの霊圧に呼吸を止め、絶望に瞳を揺らした。
だが。
(――五月蝿いぞ、スクラップ。食事中はお静かに、だ)
俺はアルトの肩から飛び出した。
空中で、俺の小さな猫の体が、内側から溢れ出す闇によって膨れ上がる。
『(主殿、因果の再定義を開始します。魔神の指向性エネルギーを全方位から「収束」――捕食準備、完了)』
俺は大きく口を開けた。
物理的な口ではない。空間そのものを削り取る「虚無」の門だ。
「――[因果捕食]」
ズゥゥゥゥゥゥン……!!
アルトを飲み込もうとしていた魔神の波動が、目に見える「紐」のように捩じ切られ、俺の喉奥へと吸い込まれていく。
魔神の意識が驚愕し、俺の脳内に直接悲鳴を叩きつけてきた。
『キサマ……ナニモノダ……!? カミのチカラを、クラウというのか……!?』
(神? ……笑わせるな。お前はただの「高密度の魔力資源」だ)
俺は影の触手で、心臓の核を直接掴み取った。
バリバリと空間が割れる音が響く。俺の胃袋(アークの頁)に、魔神の数千年の記憶と権能が、ただの「データ」として強制書き込みされていく。
一方、リナリアの視界には、全く別の光景が映っていた。
激しい闇の奔流の中、一匹の小さな猫が、神々しい黄金の光を放ちながら(※[光輝の反転]による偽装)、アルトを必死に守っているように見えたのだ。
「……ああっ、なんという慈悲深い光……。あの猫様が、魔神の呪いを自ら引き受けて、浄化してくださっている……!」
リナリアは涙を流し、その場に跪いて祈りを捧げた。
実際には、俺が「うめぇ、これマジで最高だわ」と神の心臓をムシャムシャ食べているだけなのだが、彼女の目には「自己犠牲による聖なる儀式」に映っている。
『(ふふ。主殿、リナリア様の信仰心がカンストしました。……魔神の捕食、完了。おめでとうございます、主殿。……いや、「魔神を喰らいし獣」よ)』
ドクン、と俺の心臓が一度、大きく跳ねた。
背中から三本の尾がさらに長く伸び、毛並みは夜の闇よりも深く、それでいて銀河のような星々の煌めきを宿す。
俺のレベルが、音を立てて上昇していく。
数分後。
迷宮の瘴気は完全に消失し、そこには心地よい静寂だけが残っていた。
「……う、ううん……。俺、生きてるのか?」
目を覚ましたアルトが、ふらつく足で立ち上がる。
彼の目の前には、いつものように足元で「なーん」と欠伸をする、一匹の黒猫がいた。
「ノア! お前が守ってくれたのか? ありがとうな!」
アルトが俺を抱き上げる。その腕に伝わる俺の体温は、以前よりも少しだけ高く、そして計り知れない「重み」を宿していた。
「……勇者様。そして、偉大なるノア様」
リナリアが歩み寄り、深々と頭を下げた。
彼女の瞳に宿るのは、もはや疑念ではない。
この猫こそが、世界の均衡を守る「神の使い」であるという、狂信に近い確信だった。
「にゃあ(チョロいもんだ)」
俺はアルトの腕の中で、アークが新たに刻んだ「神の権能」を反芻しながら、勝利の喉鳴りを響かせた。
王都の地下に眠る「神」は消えた。……代わりに、一匹の猫がその力を得て、王都の地上へと帰還する。
【アークの記録帳】
• 個体名: ノア
• 種族: [神を喰らう影]
• レベル: 18 → 25
• 称号: [迷宮の真の支配者]、[神殺しの猫](New)
• 保有スキル:
• [捕食進化]、[影の移動]、[魔剣生成:ルミナス]、[影の武装]、[影の支配]、[偽造の奇跡]、[影の代行者]、[光輝の反転]、[NPCマスク]、[記憶の断片化]、[影の自白剤]、[影の過負荷]、[因果捕食]
• [神威の眼](New):万物の魔力の流れを完全視認し、弱点を即座に見抜く。
• アークの分析:魔神の心臓を完全吸収。主殿の「存在強度」が限界を突破しました。……さて、王都に戻れば、あなたを「聖獣」として崇める準備が整っているはずです。
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