10話『迷宮の番人と、捕食者の蹂躙』
迷宮の最下層に近づくにつれ、空気は粘り気を帯び、リナリアの聖なる結界は今にも弾けそうなほど軋んでいた。
「……勇者様、来ます!」
暗闇の奥から、ガシャン、ガシャンと規則正しい金属音が響く。現れたのは、かつて神代の魔法文明が作り上げた自律守護兵――古代の自動人形の軍勢だ。
その全身は魔神の瘴気に侵食され、錆びついた金属の隙間から不気味な紫色の光が漏れている。
「よし、ルミナス! 行くぞ!」
アルトが果敢に踏み出す。彼が剣を振るうたび、俺が裏で供給している[影の過負荷]によって、空間を断ち切るほどの漆黒の斬撃が奔った。
ドガァァァン!!
「……すごい。一撃で、あの硬い古代合金を粉砕するなんて……」
リナリアが驚愕の声を上げる。だが、彼女は気づいていない。
破壊されたゴーレムの破片が地面に落ちる直前、アルトの影から伸びた無数の触手が、それらを音もなく闇の中へと引き摺り込んでいることに。
(アーク、回収効率はどうだ?)
『(順調です、主殿。このゴーレムたちの核には、魔神の魔力が数千年分濃縮されています。……噛み砕くたびに、霊格が「再構築」されていくのが分かりますか?)』
(……ああ。少し、体が熱いな)
俺は猫の姿のまま、影の中で「本体」を一部解放していた。
アルトが正面の敵を派手に倒している間に、俺の影は迷宮の壁や天井を侵食し、死角に潜むゴーレムたちを、彼らが起動する前に「核」ごと食い尽くしていく。
「にゃあ(ご馳走様)」
俺が喉を鳴らすたび、俺のレベル以上に、俺という存在の「格」が跳ね上がっていく。
猫という器に収まっているのが不思議なほど、内側の闇は深く、鋭く、巨大なものへと変貌していた。
やがて、一行は最深部の巨大な円形広場へと辿り着いた。
そこには、無数の鎖で拘束され、不気味に脈動する巨大な肉塊――「魔神の心臓」が鎮座していた。
「……あれが、世界を滅ぼしかけた魔神の一部……」
アルトが息を呑む。
心臓が一度拍動するたびに、物理法則を歪めるほどの重圧が広場を襲う。リナリアはあまりの瘴気に膝をつき、祈りを捧げるのが精一杯だ。
「アルト様、あの鎖を……! あの鎖が、最後の中枢封印です。あれをルミナスで断ち切れば、瘴気は止まるはずです!」
リナリアの叫びに、アルトが頷く。
「わかった! これを壊せば、王都のみんなが助かるんだな!」
だが、俺とアークは知っている。
あの鎖は封印ではなく、魔神を「生かし続けるための生命維持装置」だということを。そして、それを断ち切った瞬間に溢れ出す魔力こそが、俺にとっての真のメインディッシュであることを。
『(主殿。準備を。……勇者が鎖を切った0.001秒後、この空間に満ちる全ての因果を「捕食」します)』
(……分かっている。さあ、アルト。……俺のために、その獲物を解体しろ)
アルトがルミナスを高く掲げた。
黄金の光(偽装)と漆黒の雷鳴が混ざり合い、運命の刃が心臓へと振り下ろされる。
【アークの記録帳】
• 個体名: ノア
• 種族: [影纏いの神獣] ※「大進化」直前
• レベル: 15 → 18(ゴーレムの核を多数捕食)
• 称号: [迷宮の真の支配者]
• 保有スキル:
• [捕食進化]、[影の移動]、[魔剣生成:ルミナス]、[影の武装]、[影の支配]、[偽造の奇跡]、[影の代行者]、[光輝の反転]、[NPCマスク]、[記憶の断片化]、[影の自白剤]、[影の過負荷]
• [因果捕食](New):発生した現象そのものを魔力として喰らい、無効化する。
• アークの分析:魔神の心臓の「開封」まで残り数秒。主殿、これまでの「猫の皮」が剥がれ落ちるほどの進化が始まります。……聖女様に正体を見られないよう、最大限の光学的偽造を準備しておきますね。
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