9話『王宮の密命、禁忌の魔迷宮へ』
騎士団長を一撃で粉砕したアルトの名声は、もはや制御不能なほどに膨れ上がっていた。
「神の再来」「救国の聖騎士」――市井の人々がそんな噂に花を咲かせる中、俺たちは王城の最深部、国王の私室へと招かれていた。
「勇者アルトよ。貴公の実力、疑いようもないものだった。……そこで、貴公にしか頼めぬ命がある」
玉座に座る国王の顔は、昨日の歓喜とは打って変わり、酷くやつれ、影を落としている。
彼は震える手で、一枚の古びた羊皮紙を広げた。
「王都の地下には、建国以前から封印された『禁忌の迷宮』が存在する。そこには、かつて世界を滅ぼしかけた魔神の肉体の一部が封印されているという……。だが最近、その封印が弱まり、王都全体に瘴気が漏れ出し始めているのだ」
「魔神のパーツ……。そんな危ないものが地下にあるんですか?」
アルトが不安げに腰のルミナスを握る。
一方、俺はリナリアの膝の上で、「にゃーん(最高のご馳走じゃないか)」と小さく喉を鳴らした。
『(主殿。魔神の残滓……。もしそれを「捕食」できれば、あなたの霊格は中位を通り越し、上位魔族、あるいはそれ以上の領域に到達するでしょう。……この依頼、断る理由がありませんね)』
(ああ。……王は、アルトに封印の修復を頼みたいんだろうが、俺の目的は中身の完食だ)
「……わかりました。俺にできることなら、やってみます!」
アルトはいつものお人好しを発揮して、重い密命を引き受けた。
国王は「恩に着る」と深く頭を下げたが、その瞳の奥には、勇者を厄介払いしようとする微かな「打算」が見えた。……おそらく、迷宮の怪物に勇者ごと封印を押し付けようとしているのだろう。
迷宮への入り口は、王宮の地下貯蔵庫のさらに下にあった。
重厚な鉄扉が開かれると、鼻を突くような濃密な魔力の臭気が溢れ出してきた。
「……ひどい気配です。アルト様、ここからは一歩も離れないでください。私の聖なる加護でも、どれだけ持ち堪えられるか……」
リナリアが宝珠を掲げ、防護の結界を張る。
だが、その結界さえも、迷宮の奥から漂う闇に蝕まれ、ジリジリと音を立てて削られていく。
「大丈夫だよ、リナリアさん。俺にはルミナスと、それにノアがいるから!」
アルトは俺を抱き直し、暗闇の中へと踏み出した。
俺は彼の影の中で、[影の代行者]を周囲に展開し、迷宮内の構造をスキャンし始める。
(アーク、獲物の位置は?)
『(最下層、地下五階です。……おや、面白いですね。魔神のパーツを守るための「番人」たちが、長い年月の間に魔神の魔力に当てられ、独自の進化を遂げているようです。……主殿、これは良い「前菜」になりますよ)』
「にゃお(なら、遠慮なく頂くとしようか)」
暗闇の先から、無数の赤い瞳が浮かび上がる。
それは、かつてこの迷宮を封印するために生贄にされた、古代の自動人形たちの成れの果てだった。
アルトがルミナスを抜く。
俺は彼の影に潜り込み、これから始まる「収穫祭」の準備を整えた。
王都の地下に眠る、最古にして最大のスクラップ――。それを全て喰らい尽くした時、ノアという存在がどこまで変貌するのか。自分でも楽しみになってきた。
【アークの記録帳】
• 個体名: ノア
• 種族: [影纏いの神獣]
• レベル: 15
• 称号: [国家級の不純物]
• 保有スキル:
• [捕食進化]、[影の移動]、[魔剣生成:ルミナス]、[影の武装]、[影の支配]、[偽造の奇跡]、[影の代行者]、[光輝の反転]、[NPCマスク]、[記憶の断片化]、[影の自白剤]、[影の過負荷]
• アークの分析:ついに「魔神の欠片」というメインディッシュに辿り着きました。王都を救うという建前を使いつつ、迷宮内の全資源を強奪しましょう。……主殿、お腹の具合はいかがですか?
更新通知を受け取りたい方は、ぜひブックマークをお願いします!
「続きが気になる」「面白い」と思っていただけたら、下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると、執筆の大きな励みになります!




