8話『御前試合、聖剣(?)の真価』
王宮の武闘場。
石畳の会場を、王都中の貴族と、玉座に鎮座する国王の視線が埋め尽くしていた。
「……昨夜の失態、我が一族の名誉にかけて、この場ですべてを清算させてもらうぞ。偽勇者よ」
対面に立つフェルナンド公爵は、充血した目でアルトを睨みつけていた。
彼の隣には、王都最強と謳われる騎士団長、シグルドが重厚な魔導甲冑に身を包んで立っている。
「公爵、俺はただ叙勲式に来ただけなのに……。なんで戦わなきゃいけないんだ?」
「黙れ! 貴様のような出所不明のガキが『勇者』を自称するなど不遜! シグルド団長、その『玩具』ごと、叩き伏せてやれ!」
騎士団長シグルドが、巨大な両手剣を抜く。
そのレベルは35。今のアルトが束になっても、本来なら一振りで粉砕される実力差だ。
(……アーク。どう思う?)
俺は観客席の最前列、リナリアの膝の上で丸まりながら、脳内で問いかけた。
『(圧倒的不利ですね。ですが、公爵は大きな間違いを犯しています。彼は「アルト様の剣」の出所を調べていない。……主殿、あのルミナスに蓄積された「影の魔力」を、一気に開放する許可を)』
(ああ、許可する。……どうせ勝つなら、二度と逆らう気が起きないほど派手にやってやれ)
「いくぞ、少年。恨むなよ!」
シグルドが地面を蹴った。レベル35の剛力が生む突進は、まさに暴走する戦車だ。
対するアルトは、あまりの速さに反応すらできず、ルミナスを構えるのが精一杯。
(――今だ)
俺が微かに喉を鳴らした瞬間。
アルトの手の中で、ルミナスが「変貌」を遂げた。
ズゥゥゥゥン……ッ!!
「なっ……!? 剣が……重い!?」
アルトの叫びと共に、ルミナスの刀身から、白銀の光を内包した「漆黒の稲妻」が溢れ出した。
それは[偽造の奇跡]によって聖なる光を装っているが、実態は高密度に圧縮されたノアの影そのものだ。
シグルドの大剣がルミナスと激突した瞬間、火花ではなく「空間の歪み」が生じた。
「……ぐ、あああああ!? 腕が、痺れ……バカな、この重圧は何だ!?」
『(出力固定。ベクトル変換(物理法則の書き換え)を開始します)』
F=ma
通常、剣の衝撃力 F は質量 m と加速度 a に依存するが、俺はアークの頁を通じて、ルミナスの「魔力質量」を一時的に1,000倍へと引き上げた。
アルトが軽く剣を振り抜いただけの動作が、騎士団長にとっては「数百トンの鉄塊」を叩きつけられる衝撃へと変わる。
ドォォォォォン!!
爆鳴と共に、シグルドの魔導甲冑が粉々に砕け散り、彼は会場の壁まで吹き飛んで埋まった。
静まり返る武闘場。
アルトの手の中には、まだ禍々しいほどに輝くルミナスが握られていた。
「……え? 俺、今、何をしたんだ……?」
「……し、シグルド団長を一撃で……!?」
公爵は腰を抜かし、国王は身を乗り出して驚愕している。
リナリアだけが、膝の上の猫(俺)をじっと見つめ、冷や汗を流していた。
「勝負あり。……我が国の騎士団長をこうも容易く退けるとは。アルト殿、貴公こそ真の勇者だ」
国王の称賛の声が響く。
フェルナンド公爵は顔を真っ青にして崩れ落ちた。
これで、彼の王宮内での発言力は完全に消滅した。昨夜の暴露と今日の敗北――公爵家の「スクラップ化」は完了だ。
「やったな、ノア! やっぱりこの剣、すごいよ!」
駆け寄ってきたアルトに抱き上げられ、俺は「なーん」と満足げに鳴いた。
(……当然だ。俺の魔力をこれだけ注ぎ込んだんだ。山一つくらいなら今のスイングで消し飛ばせたぞ)
『(主殿、出力調整がギリギリでしたね。これ以上やっていたら、会場ごと更地になるところでした)』
俺たちは、王都の住民たちが上げる熱狂的な「勇者コール」の中、悠然と会場を後にした。
アルトは英雄となり、俺はその影で、公爵家の全財産を「移住費用」として没収するための手続きを、アークに進めさせた。
【アークの記録帳】
• 個体名: ノア(擬態:黒猫 / エリオット)
• 種族: [影纏いの神獣]
• レベル: 1 5(王都の称賛を魔力変換)
• 称号: [国家級の不純物](New)
• 保有スキル:
• [捕食進化]、[影の移動]、[魔剣生成:ルミナス]、[影の武装]、[影の支配]、[偽造の奇跡]、[影の代行者]、[光輝の反転]
• 新スキル:[影の過負荷]
• 一時的に武器や防具の物理ステータスを、魔力消費と引き換えに数千倍にする。
• アークの分析:
王都最強を文字通り「粉砕」したことで、王宮内の力学が完全にアルト様(主殿)を中心に回り始めました。……さて、次は「王都の宝物庫」を合法的に掃除しましょうか。
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