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スクラップブック:勇者の影で笑う猫  作者: beens
第2章:虎の威を借る開拓記

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8話『御前試合、聖剣(?)の真価』

 王宮の武闘場。

石畳の会場を、王都中の貴族と、玉座に鎮座する国王の視線が埋め尽くしていた。

「……昨夜の失態、我が一族の名誉にかけて、この場ですべてを清算させてもらうぞ。偽勇者よ」

対面に立つフェルナンド公爵は、充血した目でアルトを睨みつけていた。

彼の隣には、王都最強と謳われる騎士団長、シグルドが重厚な魔導甲冑に身を包んで立っている。

「公爵、俺はただ叙勲式に来ただけなのに……。なんで戦わなきゃいけないんだ?」

「黙れ! 貴様のような出所不明のガキが『勇者』を自称するなど不遜! シグルド団長、その『玩具』ごと、叩き伏せてやれ!」

騎士団長シグルドが、巨大な両手剣を抜く。

そのレベルは35。今のアルトが束になっても、本来なら一振りで粉砕される実力差だ。

(……アーク。どう思う?)

俺は観客席の最前列、リナリアの膝の上で丸まりながら、脳内で問いかけた。

『(圧倒的不利ですね。ですが、公爵は大きな間違いを犯しています。彼は「アルト様の剣」の出所を調べていない。……主殿、あのルミナスに蓄積された「影の魔力」を、一気に開放する許可を)』

(ああ、許可する。……どうせ勝つなら、二度と逆らう気が起きないほど派手にやってやれ)

「いくぞ、少年。恨むなよ!」

シグルドが地面を蹴った。レベル35の剛力が生む突進は、まさに暴走する戦車だ。

対するアルトは、あまりの速さに反応すらできず、ルミナスを構えるのが精一杯。

(――今だ)

俺が微かに喉を鳴らした瞬間。

アルトの手の中で、ルミナスが「変貌」を遂げた。

ズゥゥゥゥン……ッ!!

「なっ……!? 剣が……重い!?」

アルトの叫びと共に、ルミナスの刀身から、白銀の光を内包した「漆黒の稲妻」が溢れ出した。

それは[偽造の奇跡]によって聖なる光を装っているが、実態は高密度に圧縮されたノアの影そのものだ。

シグルドの大剣がルミナスと激突した瞬間、火花ではなく「空間の歪み」が生じた。

「……ぐ、あああああ!? 腕が、痺れ……バカな、この重圧は何だ!?」

『(出力固定。ベクトル変換(物理法則の書き換え)を開始します)』

F=ma

通常、剣の衝撃力 F は質量 m と加速度 a に依存するが、俺はアークの頁を通じて、ルミナスの「魔力質量」を一時的に1,000倍へと引き上げた。

アルトが軽く剣を振り抜いただけの動作が、騎士団長にとっては「数百トンの鉄塊」を叩きつけられる衝撃へと変わる。

ドォォォォォン!!

爆鳴と共に、シグルドの魔導甲冑が粉々に砕け散り、彼は会場の壁まで吹き飛んで埋まった。

静まり返る武闘場。

アルトの手の中には、まだ禍々しいほどに輝くルミナスが握られていた。

「……え? 俺、今、何をしたんだ……?」

「……し、シグルド団長を一撃で……!?」

公爵は腰を抜かし、国王は身を乗り出して驚愕している。

リナリアだけが、膝の上の猫(俺)をじっと見つめ、冷や汗を流していた。

「勝負あり。……我が国の騎士団長をこうも容易く退けるとは。アルト殿、貴公こそ真の勇者だ」

国王の称賛の声が響く。

フェルナンド公爵は顔を真っ青にして崩れ落ちた。

これで、彼の王宮内での発言力は完全に消滅した。昨夜の暴露と今日の敗北――公爵家の「スクラップ化」は完了だ。

「やったな、ノア! やっぱりこの剣、すごいよ!」

駆け寄ってきたアルトに抱き上げられ、俺は「なーん」と満足げに鳴いた。

(……当然だ。俺の魔力をこれだけ注ぎ込んだんだ。山一つくらいなら今のスイングで消し飛ばせたぞ)

『(主殿、出力調整がギリギリでしたね。これ以上やっていたら、会場ごと更地になるところでした)』

俺たちは、王都の住民たちが上げる熱狂的な「勇者コール」の中、悠然と会場を後にした。

アルトは英雄となり、俺はその影で、公爵家の全財産を「移住費用」として没収するための手続きを、アークに進めさせた。


【アークの記録帳スクラップ

• 個体名: ノア(擬態:黒猫 / エリオット)

• 種族: [影纏いの神獣シャドウ・キマイラ]

• レベル: 1 5(王都の称賛を魔力変換)

• 称号: [国家級の不純物](New)

• 保有スキル:

• [捕食進化]、[影の移動]、[魔剣生成:ルミナス]、[影の武装]、[影の支配]、[偽造の奇跡]、[影の代行者]、[光輝の反転]

• 新スキル:[影の過負荷シャドウ・オーバードライブ]

• 一時的に武器や防具の物理ステータスを、魔力消費と引き換えに数千倍にする。

• アークの分析:

王都最強を文字通り「粉砕」したことで、王宮内の力学が完全にアルト様(主殿)を中心に回り始めました。……さて、次は「王都の宝物庫」を合法的に掃除しましょうか。

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