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スクラップブック:勇者の影で笑う猫  作者: beens
第1章:はじまりの街と偽りの救世主

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1話『捨て猫と、埃を被った本』

 冷たい雨が、「はじまりの街」の石畳を容赦なく叩いていた。

「……最悪のコンディションだな、アーク」

俺――ノアは、ふやけきった段ボールの隅で小さく丸まりながら、脳内で毒を吐いた。

今の俺の姿は、どこにでもいる黒い子猫だ。雨に濡れて毛は束になり、震える体は今にも消え入りそうに見えるだろう。だがその内側では、ドロリとした「魔神」の残滓が、飢えに狂ってのたうち回っている。

『主殿、文句を言わないでください。あなたの「可愛げ」を演出するには、これ以上のシチュエーションはありませんよ』

隣に転がっている、泥を被った古本が応える。

こいつはアーク。自称「方舟アーク」の知恵を宿した魔導書であり、俺の唯一の共犯者だ。

「可愛げ、か。反吐が出る。……早く『カモ』を連れてこい」

『おや、噂をすれば。……足音が一つ。重厚な金属音、そして無駄に真っ直ぐな歩法……。来ましたよ、私たちの「黄金の虎」が』

雨音を切り裂いて、一人の男が近づいてきた。

腰に無骨な鉄剣を下げた、見覚えのある――いや、今は「初対面」のはずの男、アルトだ。

彼は俺たちの入った段ボールの前で足を止めた。

「……ん? こんなところで、何してるんだ?」

アルトが膝をつく。彼が纏う聖なる魔力の残滓が、雨粒を弾いてキラキラと輝いて見える。あまりに眩しすぎて、俺の邪悪な本能が「今すぐその喉笛を食い破れ」と囁くが、俺はそれを強引に抑え込んだ。

「……にゃうん」

俺は、精一杯の弱々しさを込めて鳴いた。

アルトの瞳が、驚きと深い同情に揺れる。

「猫……それに、古びた本か。お前ら、捨てられたのか?」

『(ノア、今です。もっと震えてください。あと、少しだけ首を傾げると効果的だと私のデータが示しています)』

(うるせえ、やってるよ!)

俺は演技指導に従い、アルトの指先に冷たい鼻先を押し当てた。

アルトの顔が、一瞬でとろけるような笑顔に変わる。

「……ひとりぼっち、なんだな。よし、決めた。お前ら、俺と一緒に来い。俺も今日、この街で宿を決めたばかりなんだ」

アルトが大きな手で俺を掬い上げ、ボロボロのコートの懐に滑り込ませた。続いて、泥だらけのアークも拾い上げられる。

コートの中は、外の雨が嘘のように温かかった。

アルトの鼓動が、トクトクと規則正しく響いている。

『……完璧です、ノア。勇者の懐(物理)に潜り込むことに成功しました。彼の心拍数から見て、完全にあなたに絆されていますね』

アークの念話が、勝利を確信したように弾んだ。

「……ふん。まずは宿に着いたら、一番高いミルクを要求してやる。それから、こいつの財布の中身をじっくり鑑定させろ」

俺はアルトの胸元に顔を埋めながら、闇の中で細い瞳を歪めた。

勇者アルト。

お前は今日、雨に濡れた哀れな子猫を助けたつもりだろう。

だがな、お前が拾い上げたのは――いつか世界を飲み込む「災厄」と、すべてを記録し支配する「悪魔の書」だ。

「……にゃあ(よろしくな、相棒)」

俺の喉が鳴る音が、アルトには幸福な鳴き声に聞こえたようだった。


【アークの記録帳スクラップ

• 個体名: ノア(仮)

• 種族: [虚無の残滓(擬態:黒猫)]

• レベル: 1

• 保有スキル:

• [捕食進化]: 倒した対象の精髄を喰らい、自身の血肉とする。

• [影の移動]: わずかな影の中に身を隠す。

• 状態: 重度の空腹、極度の猫かぶり。

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