6話『王都への招待状』
「……なんだ、この村は。空気が、重すぎる……」
王都から派遣された勅使の男は、豪華な馬車から降りた瞬間、激しい寒気に襲われて膝を震わせた。
目の前には、絵に描いたような「平和な開拓村」が広がっている。子供たちが走り回り、美しい花が咲き乱れている。だが、すれ違う村人たち(元・狂戦士や元・毒術師)が向けてくる「無機質な笑顔」に、彼は本能的な恐怖を感じていた。
「ようこそ、希望の芽吹き村へ! 俺が村長のアルトです!」
屈託のない笑顔で現れたアルトを見て、勅使は辛うじて正気を取り戻した。
「は、はは……。貴殿が噂の勇者殿か。……国王陛下より、沙汰を預かって参った。地竜を討ち、街道を拓いた功績を称え、王都にて叙勲式を執り行う。……同行願いたい」
「叙勲式!? 俺が、お城に!? 凄いや、ノア! 認められたんだな!」
アルトは俺を抱き上げ、子供のように燥いだ。
俺は彼の腕の中で「にゃおん(カモがネギ背負って来たな)」と愛想よく鳴いてみせた。
その夜、村長宅(兼・俺の拠点)。
「……罠ですね。間違いありません」
聖女リナリアが、届けられた招待状の羊皮紙を険しい表情で見つめていた。彼女の神聖な力が、紙に染み付いた「傲慢な毒」を感じ取っている。
「王都の貴族連中が、ぽっと出の勇者を素直に歓迎するはずがありません。彼らにとって、アルト様は自分たちの既得権益を脅かす、得体の知れない爆弾のようなものです。……行けば、必ず消されます」
「えぇっ!? 罠なの!? でも、王様からの招待だよ?」
困惑するアルト。そんな彼に、エリオット(俺の人型)が優雅に紅茶を差し出した。
「リナリア様の仰る通りでしょう。暗殺に失敗した彼らは、今度は『法』と『マナー』という名の檻の中に、アルト様を閉じ込めるつもりなのです」
俺はアークから送られてきた「暗殺者の記憶」を脳内で反芻した。
裏で糸を引いているのは、王都のギルド利権を握るフェルナンド公爵。バルカスの元・上司だ。
『(主殿。公爵の総資産は金貨50万枚以上。地下倉庫には、魔導具のコレクションが山ほど眠っているようです。……ちょうど、私の頁が少し寂しいと思っていたところでした)』
(……そうか。なら、その「寂しさ」を埋めてやらないとな)
俺はアルトに向き直った。
「アルト様。罠だとわかっていて、それでも行くのが勇者ではありませんか? 貴方が王都で正しさを証明すれば、この村の立場もより盤石になるでしょう」
「……エリオットさん。そうだよね! 逃げたら、この村のみんなを不安にさせちゃうもんな。よし、王都へ行こう!」
アルトの単純……もとい、真っ直ぐな決意が決まった。
リナリアは溜め息をつき、「私も同行します。毒見役くらいにはなれるでしょうから」と肩を落とした。
翌朝。
豪華な馬車に揺られ、アルトとリナリア、そして一匹の猫が村を出発した。
見送る村人たちの瞳には、「主殿の邪魔をする奴らを、どうか惨たらしく処刑してきてください」という熱い期待(殺意)が込められていた。
「楽しみだなぁ、王都! どんな美味しいものが食べられるんだろう!」
燥ぐアルト。その足元で、俺はアークの頁を開かせた。
(アーク。王都にいる『影の代行者』たちに連絡しろ。……勇者の到着までに、公爵の汚職、不倫、隠し財産のリストを完璧に揃えておけ。叙勲式の夜に、すべてを『収穫』する)
『(御意。……ああ、楽しみですね。王都という巨大なスクラップブックを、どう切り刻むか)』
馬車が跳ねるたびに、アルトの腰の魔剣ルミナスが「キィィィ……」と、獲物を欲するような鳴き声を上げた。
勇者が喝采を浴びる舞台。
それは同時に、魔神が王都を食い荒らす「ディナーパーティー」の始まりでもあった。
【アークの記録帳】
• 個体名: ノア
• 種族: [影纏いの神獣]
• レベル: 14
• 称号: [静かなる侵略者]
• 保有スキル:
• [捕食進化]、[影の移動]、[魔剣生成:ルミナス]、[影の武装]、[影の支配]、[偽造の奇跡]、[影の代行者]、[光輝の反転]、[NPCマスク]、[記憶の断片化]
• アークの分析:王都へ向け出発。ターゲット:フェルナンド公爵。目的:資産没収、および王都の情報網の掌握。懸念点:アルト様が高級料理を食べすぎて太らないかどうか。
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