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スクラップブック:勇者の影で笑う猫  作者: beens
第2章:虎の威を借る開拓記

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5話『猫のあくびと、裏の暗殺者』

 陽光が降り注ぐ午後、「希望の芽吹き村」の広場では、アルトが村の子供たち(実は元・小鬼族の変身種)と追いかけっこをしていた。

「あはは! 待て待てー!」

「勇者様、こっちだよー!」

その微笑ましい光景を、俺はギルド支部(という名の俺の出張所)の屋根の上で、あくびをしながら眺めていた。隣には、古ぼけた本――アークが置かれている。

(……平和だな、アーク。反吐が出るほどに)

『(同感です、主殿。ですが、その「平和」という薄い氷の下で、獲物が罠にかかりました。村の北側、森の境界線です)』

(……来たか。王都の腐敗した貴族どもが送り込んだ、アルトの暗殺者か)

俺は片目を開け、村の境界へと意識を飛ばした。

そこには、周囲の景色に完璧に溶け込む迷彩マントを纏った三人の影があった。王都でも指折りの暗殺集団「黒百合」の精鋭だ。

「……聞いていた通り、拍子抜けするほど無防備な村だな。勇者も子供と遊んでいる」

リーダー格の男が、毒を塗った吹き矢を構える。彼らにとって、この村はただの「お花畑」に見えているはずだ。……俺たちの[NPCマスク]と[偽造の奇跡]が、そう見せているのだから。

「手早く終わらせるぞ。勇者の首を獲ったら、この村ごと焼き払え。……ん? 誰だ?」

暗殺者の背後に、一人の女性が立っていた。

洗濯物のカゴを抱えた、おっとりとした雰囲気の未亡人――マイラだ。新住民の一人で、かつては「静寂の死神」と呼ばれた伝説の暗殺者である。

「あら……。こんなところで何をしていらっしゃるの? ここは立ち入り禁止区域ですよ?」

「チッ、村人か。運が悪かったな、おばさん。死んでもらう」

暗殺者の一人が、音もなくナイフでマイラの喉を切り裂こうとした。

――だが、次の瞬間。

ナイフを握っていた男の腕が、肩から先、消えていた。

「……え?」

男が自分の失った腕を凝視するより早く、マイラが抱えていた洗濯カゴから「極細の鋼糸」が飛び出した。

「ふふ、勇者様にお見せするわけにはいかないの。あの方は、こういう『汚いお仕事』が大嫌いですから」

マイラの瞳から「慈愛」が消え、底なしの「虚無」が宿る。

彼女の糸は、暗殺者三人の手足を瞬時に絡め取り、声さえ出せない速さで地面に叩き伏せた。

「ギ、ギィッ……!? お、お前……何者だ……!?」

「ただの未亡人(村人)ですよ。……それより、主殿がお呼びです」

影がマイラの足元から這い上がり、暗殺者たちを泥のように飲み込んでいく。

数分後。

村の地下、俺の秘密の「処刑室兼・実験場」。

猫の姿のまま、俺は影の触手で宙吊りにされた暗殺者たちの前に降り立った。

「……さて。お前たちの雇い主は、王都のどの豚だ? 吐けば、影の胃袋の中で楽にさせてやる」

「ひ、ひぃぃっ!? 猫が、喋った……!?」

『(無駄ですよ、主殿。彼らは「沈黙の呪い」を心臓に仕込まれています。喋ろうとすれば破裂する)』

「……ふん。なら、アーク。こいつらの『記憶』を直接スクラップして、王都の貴族リストに加えろ。死体は……そうだな、オークたちの肥料にでもしておけ」

俺は一瞥もくれずに部屋を出た。

背後で、マイラが「承知いたしました」と優雅に一礼する。

地上に戻ると、アルトがちょうど遊び終えて汗を拭いていた。

「あ、ノア! どこに行ってたんだ? さっき、すっごく綺麗な蝶々が飛んでたんだぜ!」

「にゃーん(それは良かったな)」

俺はアルトの足元で、無邪気に喉を鳴らした。

平和な村の、平和な一日。

その平和を維持するために、地下でどれだけの血が流れているか、勇者様は一生知らなくていい。


【アークの記録帳スクラップ

• 個体名: ノア

• 種族: [影纏いの神獣シャドウ・キマイラ]

• レベル: 14

• 称号: [影の司法官]

• 保有スキル:

• [捕食進化]、[影の移動]、[魔剣生成:ルミナス]、[影の武装]、[影の支配]、[偽造の奇跡]、[影の代行者]、[光輝の反転]、[NPCマスク]

• [記憶の断片化メモリ・スクラップ](New):死体、あるいは無力化した対象から特定の記憶(情報)を抽出する。

• アークの分析:王都の「暗殺リスト」を確保しました。これにより、王都側で誰がアルト様を敵視しているかが明確になりました。……主殿、そろそろこちらから「挨拶」へ行く準備をしませんか?

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