4話『擬態する住民たち』
「希望の芽吹き村」の開村初日。
街道には、新生活を夢見る……はずの移住希望者たちが列をなしていた。
「見てくれノア! こんなにたくさんの人が来てくれたぞ! みんな、俺たちの村を頼りにしてくれてるんだな!」
村の入り口で、アルトが顔を輝かせて住民一人ひとりと握手を交わしている。
俺は彼の足元で「にゃーん(おめでたい奴だ)」と鳴きながら、やってくる「住民」たちを、アークの魔眼を通じて精査していた。
(……アーク、リストの通りか?)
『(はい、主殿。先頭の「腰の曲がった薬草売りの老婆」は、王都を追放された【禁忌の毒術師】。その後ろの「無口な木こり」は、魔王軍を脱走した【狂戦士】。さらに後ろの「子連れの未亡人」は、暗殺ギルドの【死神】です)』
(上出来だ。社会から弾かれた「毒」も、一箇所に集めて「薬」として管理すれば、これ以上ない防衛戦力になるからな)
彼らは皆、俺が裏社会のルートを通じて「最高の隠れ家と、二度と追手に怯えなくて済む身分を用意する」という条件で招いた、曲者揃いの魔族や犯罪者たちだ。
「……勇者様。やはり、この村の住民はどこか奇妙です」
アルトの隣で、リナリアが顔を顰めて呟いた。
彼女の持つ聖痕が、新住民たちが放つかすかな「殺気」や「魔気」に反応して、ジリジリと熱を帯びているらしい。
「えっ? そうかな? みんな、ちょっと個性的だけど、いい人ばかりだよ!」
アルトが笑いながら、大男の「木こり(狂戦士)」の背中を叩く。
「よろしくな、ボルグさん! その腕っぷしがあれば、村の開拓も捗るよ!」
「……オウ。勇者、ヨロシク」
ボルグは引き攣った笑みを浮かべて会釈した。
その内側では、俺の[隷属の刻印]が「ここで暴れたら影に食い殺す」という命令を絶えず囁いている。彼は今、恐怖で失禁しそうになりながら、必死に「善良な木こり」を演じているのだ。
「リナリア様、ご安心を」
エリオット(俺の人型)が、彼女の耳元で囁く。
「彼らは皆、過去に苦労した人々です。少々人相が悪いのは、過酷な外の世界を生き抜いてきた証。彼らには私が特別な『身分証明書』を発行し、素性も保証しておりますから」
俺がリナリアに見せたのは、アークが[偽造の奇跡]で作成した完璧な経歴書だ。
さらに、住民全員にはアークの魔術による[NPCマスク]が掛けられている。聖女の鑑定スキルを弾き、彼らを「少し体力のある一般市民」として誤認させる強力な認識阻害だ。
「……エリオットさんがそこまで言うのなら。ですが、私は目を離しません。この村が本当に『救済の地』なのかどうか」
リナリアは釈然としない様子で、それでも「老婆(毒術師)」が差し出した(麻薬成分を含む)ハーブティーを一口啜った。
夜。住民たちがそれぞれの家に落ち着いた頃。
俺は猫の姿で村の広場を見下ろしていた。
一見すると、平和な開拓村。
だがその実態は、各家に配属された「元・凶悪犯」たちが、それぞれの特技を活かして村の防衛網を構築する、魔王軍の拠点よりも堅牢な要塞だ。
老婆は村の周囲に不可視の毒の結界を張り、木こりは森に侵入者用の罠を仕掛け、未亡人は村内部の不穏な動きを監視する。
『主殿。これで第1段階の「擬態」は完了です。彼らがここで生活(徴収対象)になることで、あなたの魔力回復速度は、はじまりの街の3倍に達しました』
「……ふふ。アルトは自分のカリスマで平和を築いたと信じ込み、聖女は偽りの平和に毒されていく。……滑稽だな、アーク」
俺は月の光を浴びながら、鋭い牙を剥いて笑った。
世界を救う勇者の村。その真の姿は、俺が世界を喰らうための「苗床」なのだから。
【アークの記録帳】
• 個体名: ノア
• 種族: [影纏いの神獣]
• レベル: 14(住民からの魔力徴収により上昇)
• 称号: [要塞の主]
• 保有スキル:
• [捕食進化]、[影の移動]、[魔剣生成:ルミナス]、[影の武装]、[影の支配]、[偽造の奇跡]、[影の代行者]、[光輝の反転]、[魔力徴収]
• [NPCマスク](New):配下のステータスを偽装し、第三者の鑑定を無効化する。
• 村の住民:
• 元・魔王軍兵士、賞金首、禁忌魔術師など計30名(全員、善良な市民として擬態中)
• アークの分析:聖女リナリアの警戒心は、村の「あまりにも完璧な平和」によって徐々に麻痺しています。……主殿、次は村の「経済」を回す段階ですね。
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