3話『勇者の村、建設開始』
聖女リナリアが「監視」という名目で滞在を決めてから一週間。
街道の脇に、前代未聞の速度で「村」が出来上がりつつあった。
「よし、そこだ! その巨石を広場の中央に置いてくれ!」
アルトの快活な号令に従い、五匹のオークが「フンッ! フンッ!」と鼻息を荒くして、巨大な魔力伝導石を運んでいく。
普通の村作りなら数ヶ月はかかる作業が、魔物の怪力と、アークが設計した「超効率的建築理論」によって、わずか数日で形を成していた。
「……信じられません。これほどの速度で、しかも寸分の狂いもなく家々が並ぶなんて」
丘の上からその光景を眺めるリナリアは、呆然と呟いた。
彼女の隣には、エリオット(人型のノア)が静かに控えている。
「聖女様、これが『勇者の資質』というものです。アルト様の純粋な想いに、大地も魔物も応えているのでしょう」
「……そう、なのでしょうか。エリオットさん、貴方はこの村の配置をどう思われますか? 井戸を中心に、家々の屋根の角度がすべて一定の方向を向いている。……まるで、巨大な儀式場のように見えてしまうのですが」
リナリアの鋭い指摘に、俺は内心で舌を巻いた。
(……相変わらず勘がいいな、この女)
『(主殿、問題ありません。配置の理由は「風通しと日当たりを考慮した最新の都市計画」であるとデータで論破可能です。もちろん、地下に張り巡らせた「魔力吸引パス」については、彼女の聖なる魔力では感知できません)』
「ふふ、それは考えすぎですよ。すべては村人の健康と安らぎのためです」
俺は優雅に微笑み、視線を村の中央に向けた。
そこには、アルトを象った巨大な石像が建立されようとしていた。……実はこれが、この村全体の魔力を吸い上げ、俺の糧へと変換する「アンテナ」になるのだが。
作業の合間、アルトが汗を拭きながら俺たちの方へ駆け寄ってきた。
「エリオットさん! オークたちが『もっと働かせてくれ』って言ってるんだ。あいつら、本当に根性が座ってるなぁ!」
アルトの後ろでは、極限の疲労と恐怖で目が虚ろになったオーク・ジェネラルが、俺と目が合った瞬間に「ヒッ……!」と悲鳴を上げ、再び狂ったように石材を運び始めた。
「……彼らの熱意には、私も驚かされますよ」
リナリアはその光景を見ながら、そっと自らの聖痕に手を当てた。
彼女の持つ神聖な力が、微かにこの村の空気に「違和感」を感じ取っている。だが、ノアが常に放っている[光輝の反転]が、その違和感を「祝福された聖域の気配」として誤認させていた。
「アルト様。この村に、名前をつけませんか?」
リナリアの提案に、アルトは少し考えてから、満面の笑みで答えた。
「『希望の芽吹き村』……なんてのはどうだ? ここから、新しい世界が始まるんだ!」
「……にゃうん(ダサいな)」
俺は足元で猫の姿(分身)として鳴き、アルトの足に体を擦り付けた。
名前なんてどうでもいい。ここが完成すれば、俺は一歩も動かずに、この街道を通るすべての旅人と魔物から、魔力を自動で徴収できるようになるのだから。
「いい名前です、勇者様。……さあ、次は『住民』の募集ですね」
俺はリナリアをチラリと見た。
「聖女様も公認の、勇者が作った救済の村」。
この宣伝文句があれば、世界中から「餌(人間)」と「富」が集まってくるだろう。
【アークの記録帳】
• 個体名: ノア
• 種族: [影纏いの神獣]
• レベル: 13
• 称号: [魔導都市の設計者](New)
• 保有スキル:
• [捕食進化]、[影の移動]、[魔剣生成:ルミナス]、[影の武装]、[影の支配]、[偽造の奇跡]、[影の代行者]、[光輝の反転]
• [魔力徴収](New):自身の支配領域内にいる生物の余剰魔力を、微量ずつ自動で回収する。
• 村の進捗: 希望の芽吹き村(仮):建設率80%
• アークの分析:リナリア様を「監視役」として配置したことで、教国の不干渉権を実質的に獲得しました。……主殿、次は住民として、わけありの「亜人」や「はぐれ冒険者」をスカウトし、村の防衛力を高める計画ですね。
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