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スクラップブック:勇者の影で笑う猫  作者: beens
第2章:虎の威を借る開拓記

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2話『聖女リナリアの不信感』

 街道の脇、見晴らしの良い丘の上。

そこでは現在、世にも奇妙な光景が繰り広げられていた。

数十匹の筋骨逞しいオークたちが、鼻歌(のような呻き声)を交えながら、巨大な木材を運び、地面を均している。その中心で「もっと右だ! 怪我しないように気をつけろよ!」と爽やかに声をかけるのは、我らが勇者アルトだ。

「……なぁ、アーク。あの光景、客観的に見てどう思う?」

俺は木陰で、猫の姿のまま前足で顔を洗うふりをして、脳内で問いかけた。

『極めて不自然ですね。本来なら血で血を洗う殺戮の場であるはずが、今はまるで健全な土木工事の現場です。主殿の[隷属の刻印]が、彼らの生存本能を「労働への意欲」に変換しすぎたかもしれません』

(加減が難しいな。……おっと、招かれざる客だ)

街道の先から、銀色の甲冑を纏った騎兵数名と、一台の白塗りの馬車が近づいてくる。

馬車の側面には、この大陸で最大の宗教組織『聖光教国』の紋章が刻まれていた。

馬車が止まり、中から現れたのは、透き通るような金髪と、慈愛に満ちた(ように見える)青い瞳を持つ少女だった。

「――主の御名において。……そこの貴方、ここで何をしているのですか?」

鈴の鳴るような、だが芯の強い声。彼女こそ、教国が「聖跡」の調査のために派遣した聖女、リナリアであった。

「あ、こんにちは! 俺は勇者のアルトです。今、仲間たち(オーク)と新しい村を作ってる最中で……」

アルトが屈託のない笑顔で駆け寄る。

だが、リナリアの表情は晴れない。彼女の背後に控える聖騎士たちが、一斉に剣の柄に手をかけた。

「魔物を『仲間』と呼ぶのですか? 狂気か、あるいは何らかの闇の魔術に魅入られているとしか思えません。……下がってください、勇者。今すぐこの汚れを浄化します」

「待ってくれ! こいつらは改心したんだ! 俺の言葉を信じて、一緒に働いてくれてるんだよ!」

必死に庇うアルト。その様子を、リナリアは冷徹な眼差しで観察していた。

彼女の手にある宝珠が、微かに、だが不気味に黒く明滅している。

『(主殿、マズいですね。彼女が持つ[真実の宝珠]は、周囲の因果の歪みを感知します。……今、彼女は「アルト様の後ろ」にいる何かを探っていますよ)』

(……ちっ、勘のいい女は嫌いじゃないが、今は邪魔だな)

俺はゆっくりと茂みから歩み出た。

「なーん」と、最高に無害で可愛らしい、どこにでもいる捨て猫の鳴き声を上げながら。

「……猫?」

リナリアの視線が俺に固定される。

彼女は俺のそばまで歩み寄り、ドレスが汚れるのも構わずに膝をついた。

その瞳には、アルトに向けられたものとは違う、鋭い「鑑定」の光が宿っている。

「……勇者様。この猫は、貴方の連れですか?」

「ああ、相棒のノアだ! 賢い奴なんだぜ」

「……そうですか。……ですが、妙ですね。この猫の周りだけ、世界の『色』が欠け落ちているように見えます。……貴方、本当にただの猫ですか?」

リナリアの手が、俺の喉元へ伸びる。

その指先には、俺たち「魔」の存在を焼き切る[神聖魔力]が凝縮されていた。

『(主殿、いけません。ここで反撃すれば「黒」と確定します。……ここは「アレ」を使いましょう。彼女の聖なる力を逆利用し、彼女自身を「疑心暗鬼」に陥らせるのです)』

(……ああ。……アーク、[偽造の奇跡]を俺の毛並みに。……聖女様を『祝福』してやれ)

リナリアの指が俺に触れた瞬間――。

パァァァッ! と、俺の体から、彼女のものよりも遥かに清廉で、眩いほどの「黄金の光」が溢れ出した。

「なっ……!? こ、これは……!? 聖なる加護……いえ、それ以上の……?」

リナリアが驚愕して手を引く。

彼女の[真実の宝珠]が、あまりに強烈な「偽りの光」に当てられ、真っ白にオーバーロードして砕け散った。

「ノ、ノア!? お前、そんな光る特技あったのか!?」

「……し、失礼しました、勇者様。……どうやら私の勘違いだったようです。……これほどまでに清らかな気配を纏う生き物が、悪であるはずがありません……」

リナリアは狼狽しながら立ち上がった。

彼女の瞳には、まだ深い困惑が残っている。だが、物理的な証拠(宝珠の崩壊と黄金の光)が、彼女の直感を否定していた。

俺は彼女の足元に体を擦り付けながら、心の中で嘲笑った。

(……聖女様。お前の『神』も、俺のペテンには勝てないようだな)


【アークの記録帳スクラップ

• 個体名: ノア

• 種族: [影纏いの神獣シャドウ・キマイラ]

• レベル: 13

• 称号: [聖なる偽装者](New)

• 保有スキル:

• [捕食進化]、[影の移動]、[魔剣生成:ルミナス]、[影の武装]、[影の支配]、[偽造の奇跡]、[影の代行者]

• [光輝の反転ホーリー・フェイク](New):自身の魔力を一時的に神聖属性に偽装し、聖職者を無力化する。

• アークの分析:聖女リナリア。彼女の直感は脅威ですが、それゆえに「自らの感覚が信じられなくなる」という弱点があります。……主殿、彼女を「村の監視役」として引き込めれば、教国への隠れみのとして最高に機能しそうですね。

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