1話『街道の魔物を「スカウト」せよ』
はじまりの街を離れ、王都へと続く大街道を歩き始めて三日が経った。
周囲の景色はのどかな農村から、次第に険しい山脈を望む原生林へと変わりつつある。
「……なぁノア、アーク。最近、街道に魔物がいなさすぎないか?」
アルトが腰のルミナスを揺らしながら、不思議そうに首を傾げた。
本来、このあたりは「冒険者殺しの街道」と呼ばれるほど、凶暴なオークやゴブリンの群れが跋扈しているはずなのだ。
「にゃーん(お前のせいだよ)」
俺はアルトの肩の上で、退屈そうに前足の爪を研いだ。
理由は単純だ。アルトが歩く数百メートル先を、俺の[影の代行者]が先行し、街道を封鎖していた魔物どもを片っ端から「物理的に」黙らせているからだ。
『主殿、先行ユニットから報告です。三キロ先、街道を塞ぐように砦を築いているオークの集落を確認。個体数約五十。リーダーはレベル18のオーク・ジェネラルです』
ポーチの中でアークが淡々と告げる。
(レベル18か。はじまりの街の地竜よりは弱いが、数が多いな。……アーク、こいつらは「掃除」するには惜しいな?)
『同感です。これからの領地経営において、安価で頑丈な「労働力」は必須。殺すのではなく、我々の「福利厚生(死の恐怖)」を教えてやりましょう』
「にゃおん(よし、やるか)」
俺はアルトの肩からふわりと飛び降り、茂みの中へと姿を消した。
「あ、おいノア!? どこ行くんだよ!」
背後でアルトが叫んでいるが、構わない。彼には少し後で、最高に「都合の良い戦場」へ到着してもらう。
街道の先。巨大な丸太を積み上げたオークの砦。
そこでは、血の匂いをさせたオークたちが、次の獲物を待ち構えて下卑た笑い声を上げていた。
「――お前たちが、この街道の『地上げ屋』か?」
闇の中から、銀髪の青年――エリオット(ノア)が静かに姿を現した。
オークたちが一斉に武器を取り、咆哮を上げる。
「グガァッ!? キサマ、人間……! 殺シテ喰ウ!」
巨体を揺らし、リーダーのオーク・ジェネラルが鉄塊のような大斧を振り下ろす。
俺は一歩も動かず、ただ[影の武装]を発動させた。
地面から伸びた黒い刃が、ジェネラルの斧を紙細工のように切り裂き、その喉元でピタリと止まる。
「……勘違いするな。お前たちに選ぶ権利はない。……死んで俺の胃袋に入るか、それとも俺の『犬』となって、この先に造る村の土方になるかだ」
俺の瞳が、[影纏いの神獣]としての真の威圧を放つ。
[威圧の霧]に当てられたオークたちは、一瞬で戦意を喪失し、その場に平伏した。レベル18のジェネラルでさえ、ガタガタと震えながら俺の足元に額を擦り付けている。
「ヨ、ヨロコンデ……シタガイマス、影ノ王ヨ……」
『交渉成立ですね、主殿。……おっと、勇者様が到着します。擬態を解除し、彼に「手柄」を譲ってください』
(わかってるよ)
俺は一瞬で黒猫の姿に戻り、オークたちに「演技(死んだふり)」を命じた。
「はぁ、はぁ……! ノア、どこに行ったんだよ……って、うわあああっ! オークの砦だ!」
ようやく追いついたアルトが、目の前の光景に絶叫した。
だが、彼が見たのは、恐ろしいオークの軍団ではない。
……なぜか、地面に跪き、今にも泣き出しそうな顔でガタガタと震えているオークたちの姿だ。
「えっ……? なんでみんな、戦う前から降参してるんだ?」
俺はアルトの足元に駆け寄り、「にゃあ」と可愛らしく鳴いて、一匹のオーク(ジェネラル)の頭をポンと叩いた。
「……もしかして、ノア。お前がこいつらを説得してくれたのか?」
アルトの驚愕の言葉に、俺は(そんなわけないだろ)と思いつつも、ドヤ顔で尻尾を振った。
『アルト様。これはあなたの「勇者の資質」が、魔物たちの心にまで届いた結果に違いありません。彼らはあなたの高潔な魂に触れ、改心して協力したいと言っているのです(翻訳:死にたくないので働かせてください)』
「マジかよ……! 俺のオーラ、そんなに凄かったのか!?」
アルトは感激し、ルミナスを鞘に収めた。
「よし、わかった! お前たち、悪いことをやめて、俺と一緒にこの街道を安全にするための拠点作りを手伝ってくれ!」
オークたちは一斉に「ハハーッ!」と(絶望に満ちた顔で)平伏した。
こうして、伝説の「勇者の村」建設のための、最初の労働力(オーク50匹)のスカウトが完了した。
【アークの記録帳】
• 個体名: ノア
• 種族: [影纏いの神獣]
• レベル: 13
• 称号: [魔物のオーナー]
• 保有スキル:
• [捕食進化]、[影の移動]、[魔剣生成:ルミナス]、[影の武装]、[影の支配]、[偽造の奇跡]、[影の代行者]
• [隷属の刻印](New):影を通じて魔物を支配し、逆らえないようにする。
• 保有資産:
• はじまりの街(完全支配)
• オークの労働部隊(50体:現在、街道の清掃及び資材搬送に従事)
• アークの分析:アルト様、自分のカリスマ性に酔いしれています。このまま行けば、魔王軍の幹部を「説得」して村のパン屋にするのも夢ではありませんね。……主殿、次は村の「立地」の選定です。
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