12話『旅立ち、あるいは侵食の始まり』
はじまりの街の正門前には、かつてないほどの群衆が詰めかけていた。
その中心に立つのは、黄金の輝きを放つ(ように見える)魔剣を腰に差し、凛々しく胸を張る青年――勇者アルトだ。
「みんな、今までありがとう! 俺、王都へ行って、もっとたくさんの人を助けてくるよ!」
「頑張れよ、アルト!」「あんたなら本物の勇者になれる!」「道具屋のエリオットさんも、アルトさんをお願いしますね!」
歓声と拍手の中、アルトの肩の上で、俺――ノアは退屈そうに欠伸をした。
人間どもの感謝の念が、アークの頁を通じて心地よい微弱な魔力として流れ込んでくる。
(……ふん。これだけ「家畜」を飼いならしておけば、当分は食いっぱぐれることもないな)
俺は背後を振り返り、遠ざかる街並みを見つめた。
一見、昨日までと変わらない活気ある街。だが、その影には俺の魔力が血管のように張り巡らされている。
数時間前。夜明け前の『黄金の足跡亭』。
俺は地下室で、自分の影から一部を切り離し、一人の「男」を造り上げていた。
それはエリオット(俺の人型)と瓜二つの姿をしているが、中身は俺の意志を忠実に実行するだけの自律型ゴーレム――[影の代行者]だ。
「……いいか。俺たちがいない間、この街の物流と情報の流れを完全に管理しろ。アルトの評判を落とす不純物は排除し、利益はすべてアークの隠し口座へ送金しろ」
「――御意。主殿」
影の男は深々と頭を下げた。
アークがその男の脳内に、はじまりの街の全住民のデータと管理マニュアルを転送する。
『主殿、これで「はじまりの街」という一頁のスクラップが完了しました。ここはもう、私たちの自動発電所です。……さて、次はどの頁を切り取りに行きましょうか?』
「……まずは王都への街道だな。あそこには街道を荒らす盗賊や、開拓を阻む凶暴な魔物が山ほどいる。アルトにそいつらを掃除させながら、俺たちはさらに旨い『核』を喰らうぞ」
俺は猫の姿に戻り、アルトの部屋へと向かった。
「お待たせ、ノア。行こうぜ!」と笑う、あのお人好しの顔を見るために。
現在。
街道を歩くアルトの足取りは軽い。
「なあノア、アーク。俺、なんだか不思議なんだ。一ヶ月前までは雨の中で震えていたのに、今はこんなにたくさんの人に期待されて、未来が楽しみで仕方ないんだよ」
アルトは空を見上げ、晴れやかに笑った。
その純粋すぎる光に当てられ、俺は少しだけ不快そうに耳を動かした。
「……にゃうん(お前が幸せなほど、俺の計画が捗るからな)」
『アルト様、あなたの行く手にはさらなる栄光が待っていますよ。……もちろん、その「影」を歩む私たちにとってもですが』
ポーチの中で、アークの頁が風に吹かれてパラパラと音を立てる。
一冊の白紙の本に、最初の章が書き込まれた。
【第1章:はじまりの街と偽りの救世主 ――完――】
だが、それは終わりではなく、世界全体を自分たちの色に染め上げる「侵食」の第一歩に過ぎない。
「よし、行こう! 目指すは、まだ見ぬフロンティアだ!」
勇者の高らかな宣言と共に、三人の影が長く街道に伸びていった。
その影の形は、ときおり猫でも人間でもない、巨大な怪物の姿に歪んで見えたが、アルトがそれに気づくことはなかった。
【アークの記録帳】
• 個体名: ノア
• 種族: [影纏いの神獣]
• レベル: 13
• 称号: [はじまりの街の影の主]、[偽りの英雄の伴侶]
• 保有スキル:
• [捕食進化]、[影の移動]、[魔剣生成:ルミナス]、[影の武装]、[影の支配]、[偽造の奇跡]
• [影の代行者](New):自身の影から分身を作り出し、遠隔地の領土を管理させる。
• 世界侵食率: 0.05%(はじまりの街:完全支配)
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