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スクラップブック:勇者の影で笑う猫  作者: beens
第1章:はじまりの街と偽りの救世主

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11話『はじまりの街の影の主』

 バルカスがいなくなった冒険者ギルドは、一種の権力真空状態に陥っていた。

しかし、混乱は長くは続かなかった。人々は自然と、この街で最も勢いのある「奇跡の勇者」アルトに意見を求めるようになったからだ。

「ええっ!? 俺がギルドの臨時運営委員!? そんなの無理だよ、俺はただの冒険者だし……」

ギルドのカウンターで、アルトが頭を抱えている。

だが、周囲の冒険者たちは熱狂的な眼差しで彼を見つめていた。

「何を仰いますか、アルトさん! バルカスの不正を暴き、街の危機を救ったのは貴方だ!」

「アンタがいれば、この街はもっと良くなる。頼むよ、勇者様!」

アルトは困惑しながらも、持ち前のお人好しさを発揮して「……相談に乗るくらいなら」と引き受けてしまった。

『(ふふふ……。大衆心理とは操作しやすいものですね。アルト様を「王」に頂くことで、民衆は安心し、統制が容易になります)』

アルトの影の中で、アークが満足げに囁く。

アルトが「光」として街を導く裏で、俺たちは着々と「闇」の統合を進めていた。

その深夜。

スラム街の奥深くに存在する、裏社会の社交場――通称『鼠の穴』。

そこには、バルカスの失脚によって行き場を失った密輸商、暗殺ギルドの残党、情報屋たちが集まり、次の支配者が誰になるのかを巡って殺気立っていた。

「バルカスが消えた今、この街の裏は俺たちが仕切る!」

「ふざけるな、新参者が……!」

怒号が飛び交う中、会場の温度が急激に下がった。

入り口の扉が音もなく開き、銀髪の青年――エリオット(ノア)が、一冊の本を手に現れる。

「――騒がしいですね。夜の静寂しじまを汚すのは、感心しません」

「……あぁ!? 誰だテメェは!」

一人の男がナイフを抜いて突っ込んでくる。

俺は一歩も動かず、ただ軽く指を鳴らした。

次の瞬間、男の影が地面から跳ね上がり、彼自身の首を絞め上げて吊るした。

「ぎ、がっ……!? か、影が……!?」

「名乗るほどのものではありませんが……強いて言うなら、あなた方の新しい『大家オーナー』ですよ」

俺は優雅に歩を進め、上座の椅子に腰を下ろした。

アークが空中に魔法の契約書を幾枚も展開する。それはバルカスの隠し財産から算出した、彼らへの「未払い報酬」と「今後のノルマ」が詳細に記されたものだった。

「バルカスはあなた方を道具として使い潰しましたが、私は違います。……働きに応じた対価と、絶対的な『安全』を約束しましょう。ただし、私のルールを破る者は、自分の影に食われることになりますが」

圧倒的な魔力の奔圧に、裏社会の住人たちは沈黙した。

彼らは本能で理解したのだ。目の前の男は、バルカスのような矮小な人間ではない。抗うことすら許されない「ことわり」そのものなのだと。

『(主殿、掌握完了。これで街の情報網と物流の裏ルートは、すべて私たちの「スクラップブック」に登録されました)』

「ああ。……これではじまりの街は、俺たちの『胃袋』になったわけだ」

翌朝から、街の治安は劇的に改善された。

浮浪者は「黄金の足跡亭」の清掃員や物流の運び手として雇われ、裏通りの殺し合いは消滅した。

人々はそれを「聖剣を持つ勇者アルトがもたらした奇跡」と信じて疑わなかった。

アルトはギルドで英雄として慕われ、俺は店で猫として丸まりながら、街全体から吸い上げられる膨大な「富」と「魔力」をアークに蓄積させていく。

(……順調だな、アルト。お前が輝くほど、俺の影は深くなる)

俺はアルトが差し出した高級な煮干しを、優雅に咀嚼した。


【アークの記録帳スクラップ

• 個体名: ノア

• 種族: [影纏いの神獣シャドウ・キマイラ]

• レベル: 13

• 称号: [はじまりの街の影の主]

• 保有スキル:

• [捕食進化]

• [影の移動]

• [魔剣生成:ルミナス]

• [影の武装]

• [影の支配シャドウ・ドミネイト](New):他者の影に干渉し、強制的に操る。

• 保有資産: はじまりの街の裏組織全体(年間収益:推定金貨10,000枚)

• アークの分析:街全体の「因果」を掌握しました。これでこの街で起きるすべての出来事は、主殿の許可なしには成立しません。……さて、主殿。そろそろ「旅立ち」の時です。ここでの収穫は十分。次はさらに大きな獲物が待つ、王都への街道を切り拓きましょう。

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