10話『バルカス追放計画』
「殺せ。あのガキも、あの気味の悪い店主も、一匹残らず消してしまえ……!」
ギルド長室の奥。バルカスは震える手で、山盛りの金貨をテーブルにぶちまけた。
彼の前に立つのは、裏社会で「月欠け」と恐れられる二人のAランク暗殺者。
バルカスは、日に日に衰える自分の健康と、空っぽになっていく隠し口座に耐えきれなくなっていた。すべてはあの勇者が現れてからだ。
「安心しな、ギルド長。夜明けには、あの道具屋は死体置き場に変わってるさ」
暗殺者たちが影に溶けるように消える。バルカスはその背中に向かって、獣のような歪んだ笑みを向けた。
その深夜。
『黄金の足跡亭』の屋根の上に、二つの殺気が舞い降りた。
暗殺者たちは無音で天窓を外し、勇者アルトが眠る二階の寝室へと侵入する。
「……標的確認。寝顔はただの子供だな」
一人が毒を塗った短剣を抜き、アルトの喉元に突き立てようとした、その時。
「――おっと。そこから先は、有料エリアだ」
闇の中から、低く、鼓膜を直接揺さぶるような声が響いた。
暗殺者たちが驚愕して振り返ると、そこには人間でも猫でもない「何か」がいた。
漆黒の体躯。意志を持つように蠢く三本の尾。そして、月の光さえ吸い込むほど深い闇を纏った獣。
進化したノア――『影纏いの神獣』の姿だ。
「な、なんだこの化け物は……!? 報告にはなかったぞ!」
「報告? ああ、あの脂ぎった豚のことか」
俺は影の中からゆっくりと歩み出た。
俺が放つ[威圧の霧]に当てられ、Aランクのはずの暗殺者たちの膝がガクガクと震え出す。呼吸すらままならない。
「お前たちが狙ったのは、俺の『神輿』だ。……勝手に傷つけられては、俺の計画が狂うんでね」
「ぎ、ギェアァッ!?」
一人が放った投剣を、俺は尾の一振りで粉砕した。
そのまま影の触手を伸ばし、暗殺者たちの四肢を絡め取る。
「殺しはしない。……お前たちには、バルカスの『罪の生き証人』になってもらわなきゃならないからな」
『主殿、手短にお願いします。バルカスの執務室にある全ての隠し資料の転送を終えました。……さあ、仕上げです』
ポーチの中からアークが冷徹に告げた。
翌朝。
はじまりの街の広場には、驚愕の光景が広がっていた。
そこには、街の最高権力者であるバルカスが、昨夜の暗殺者たちと共に「猿ぐつわ」を噛まされた状態で、ギルドの掲示板に吊るされていたのだ。
彼の胸元には、アークが偽造なしの「本物の横領証拠」と「暗殺教唆の契約書」を丁寧に綴り合わせた一冊の報告書が。
「な、なんだこれは……!? ギルド長が、こんなことを!?」
集まった冒険者たちの怒号が響く。
そこへ、何も知らないアルトが寝ぼけ眼で通りかかった。
「あれ? バルカスさん、何してるんだ……? 運動かな?」
俺はアルトの肩の上で、「なーん」と欠伸をした。
バルカスは俺の姿を見た瞬間、恐怖で失禁し、そのまま白目を剥いて気絶した。
その日のうちに、バルカスはギルド長を解任。王都の監獄へと送られることになった。
街の人々は、バルカスの悪政を暴いた「幸運の勇者」を英雄として称え、アルトの名声は不動のものとなった。
「いやぁ、悪いことはできないもんだなぁ、ノア!」
アルトに撫でられながら、俺はアークと意識を共有する。
(……アーク。これでこの街に、俺たちの邪魔をする奴はいなくなったな)
『ええ、主殿。バルカスの全財産は、既に「匿名」でこの店の口座へ還流済みです。……さて、そろそろこの街の「影の主」として、本格的に動くとしましょうか』
アルトは笑い、俺は喉を鳴らす。
はじまりの街の権力構造は、たった一晩で、一匹の猫の手の内に収まった。
【アークの記録帳】
• 個体名: ノア
• 種族: [影纏いの神獣]
• レベル: 12 → 13(暗殺者の魔力を一部徴収)
• 称号: [はじまりの街の影の主]
• 保有スキル:
• [捕食進化]
• [影の移動]
• [魔剣生成:ルミナス]
• [影の武装]
• [威圧の霧]:殺気だけで弱者を無力化する。
• アークの分析:バルカスという不純物を取り除き、街の「正義」をアルト様が、「富」をノア様が掌握しました。……主殿、バルカスの椅子に座るのはあなたですが、座面が豚の脂で汚れていないかだけが心配ですね。
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