9話『偽造された伝説の薬草』
地竜を討伐した「黄金の足跡亭」の勇者の噂は、瞬く間にはじまりの街に広がった。
店にはひっきりなしに冒険者や野次馬が訪れるようになり、アルトは鼻高々だ。もっとも、店を取り仕切っているのは支配人のエリオット(俺の人型)であり、アルトはもっぱら「看板娘」ならぬ「看板勇者」として客寄せに励んでいるのだが。
そんなある日の夕暮れ。
一人の少女が、震える足取りで店の門を叩いた。
「お願い……助けて、勇者様! お母さんが、もう……」
少女の母親は「石化病」という、身体が徐々に硬化していく不治の難病に冒されていた。救うには、百年に一度しか咲かないという伝説の薬草『月光の星霜草』が必要だという。
「まかせておけ! 俺が必ず見つけてくる!」
アルトはいつものように快諾した。だが、アークが即座に俺の脳内で冷徹な現実を告げる。
『(主殿。鑑定の結果、そんな薬草はこの周辺には存在しません。一番近い自生地でも、ここから海を越えた聖域の最深部。往復で半年はかかります)』
(半年か。……その頃には母親はただの石像だな。さて、どうするアーク?)
『(ふふ。ちょうど庭に、昨日の雨で生えてきた「ただの雑草」がありますね。あれを使いましょう)』
(雑草を伝説の薬草に仕立てるか。悪くない)
深夜、俺は地下室で、アークが用意したどこにでもある「ぺんぺん草」のような雑草を机に置いた。
「アーク、準備はいいか」
『ええ。私の知恵で「古の伝説の波動」を幻視させ、ノア様の影の魔力で「細胞の活性化」を極限まで引き上げます。……もはや薬草というより、一種の魔導生物ですが、効能だけは本物以上です』
俺は爪の先から、純度の高い影の魔力を一滴、雑草の根元に垂らした。
雑草は一瞬、どす黒く変色し、のたうつように蠢いたが、アークの放つ銀色の「偽造の光」がそれを包み込む。
数分後。
そこには、銀色の薄いベールのような光を放ち、周囲に冷ややかな香気を漂わせる、この世のものとは思えないほど美しい「薬草」が完成していた。
「……見た目だけは、本物以上に聖なる薬草だな。名前はなんだっけ?」
『「月光の星霜草」ですね。……あ、少し「毒性」が強すぎました。中和魔法を。……よし、これで食べれば石化も溶けるし、おまけに寿命も五年は延びるでしょう』
(偽物が本物を超えるか。皮肉なもんだ)
翌朝。俺はわざとらしく、店の裏庭で「探し物をしていた」アルトの前に、その草を植えておいた。
「――ああっ!? こ、これだ! 間違いない、本に出てた通りの銀色の光だ!」
アルトは地面に膝をつき、奇跡に震える手でその雑草――もとい、伝説の薬草を摘み取った。
「やっぱり俺、運がいいんだな! こんなにすぐ見つかるなんて!」
『(……その運、半分以上は私が「そうなるように」因果を曲げた結果ですけどね、アルト様)』
アークの毒舌を聞きながら、俺は猫の姿でアルトの肩に飛び乗った。
少女の母親は、その「偽造された薬草」を飲んだ瞬間、石化が解けただけでなく、顔色まで二十代のように若返ったという。
街の人々は「奇跡を呼ぶ勇者」と「伝説の品が揃う道具屋」を崇め、信者のような熱狂が広がり始めた。
「勇者様、ありがとうございます! ありがとう!」
少女の泣きながらの感謝を受け、アルトは得意満面だ。
俺は彼の足元で、彼に贈られた感謝の念が、アークの頁へと吸い込まれていくのを冷ややかに眺めていた。
(……感謝しろ。その命は、俺の魔力で繋ぎ止められたんだからな)
【アークの記録帳】
• 個体名: ノア
• 種族: [影纏いの神獣]
• レベル: 12
• 称号: [偽りの聖者]
• 保有スキル:
• [捕食進化]
• [影の移動]
• [魔剣生成:ルミナス]
• [影の武装]
• [偽造の奇跡](New):卑俗な物質に強力な魔力と幻影を付与し、伝説の品として成立させる。
• アークの分析:街の人々の「信仰心」が新たなリソースとして蓄積され始めました。アルト様への信頼が深まるほど、私の偽造魔術の強度は増していきます。……さて、主殿。街の人々があなたを「神」の使いのように見始めていますよ。
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