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<EP_008>星屑を拾う帆船

<登場人物>

アストレイア:正義の女神

イーリス:虹の女神

テセウス:英雄。冥界の椅子に張り付いている

アリアドネ:テセウス被害者の会 会長。テセウスの被害者でもある

メーディア:テセウス被害者の会 顧問。百戦錬磨の魔女

パイドラ:アリアドネの妹。テセウスの被害者

ヘレネ:テセウスの被害者

ペリグネ:テセウスの被害者。シニスの娘であり、メラニッポスの母

パイア:テセウスの被害者。猪を飼ってるオバちゃん

ケルキュオーン:テセウスの被害者。オカマ

アンティオペー:テセウスの被害者。アマゾンの女王の妹。ヒッポリュトスの母

デメテル:豊穣の女神。居酒屋でめて〜るの女将


「同接数が50万超えました〜。みんなありがとうね〜」

重くなりかけた座敷内を打ち消すようにイーリスが水晶玉に向かって明るく話しかけた。

「それじゃぁ次に行ってみよ〜!」

イーリスが指を鳴らすとVTRが流れた。


当時、クレタ島のミノス王に攻められていたアテナイは和平を結ぶ代わりに、9年ごとに男女7人ずつをクレタ島の迷宮に住むミノタウロスへ生贄へと捧げることとなっていた。

クレタ島に送られた奴隷は全員が帰ってくることはなく、ミノタウロスに食べられたとアテナイでは噂になっていた。

アテナイとクレタ島に和平が結ばれ18年となっており、犠牲者の数は28人へと到達していた。

3度目の生贄が送られようとしていた時に、テセウスは29人目の生贄へと自ら立候補したのだった。

VTRはここで止まり、画面は冥界のテセウスへと戻っていった。


「そうだ。俺は化物退治を自ら買って出たんだ」

テセウスの声にコメント欄では「お?テセウスのターンが来たか?」「ミノタウロスは凶暴だって話だし、それを倒せたのはスゲェよな」といったコメントが流れた。

「それでは、ここで当事者のアステリオスさんと中継が繋がっています。中継先のナウクラテーさん、聞こえますか〜」

コメント欄に「アステリオスって誰?」「ミノタウロスの本名だよ」「ミノタウロスは『ミノス王の牛』って意味だからな」といったコメントが流れた。

画面が切り替わると、そこには帆船の甲板が映し出され、牛頭の少年と美しい黒髪が特徴的な中年の女性が映し出された。

「ナウクラテー、久しぶりだな。航海は順調か?」

中年の女性へアストレイアが声をかけた。

「はい。アストレイア様もお久しぶりです」

ナウクラテーが頭を下げた。

コメント欄には「この綺麗なオバちゃんは誰?」「ナウクラテーって言ってるから、たぶんダイダロスの妻」「ダイダロスって?」「ミノタウロスの迷宮を作った人」「さんがつ」とのコメントが流れた。

「アストレイア様。アステリオスは言葉を喋れません。ですので、私が代わりに証言してもよろしいでしょうか」

「うむ。許可する」

アストレイアの言葉にナウクラテーは再び頭を下げた。

隣ではアステリオスがスケッチブックに「ボクも筆談でならしゃべれます」と書いて胸の前に掲げていた。

「それでは、VTRスタート!」

イーリスが指を鳴らすとVTRがスタートした。


テセウスは暗い迷宮の中をダイダロスの糸を解きながら歩いていた。

ダイダロスの糸は、迷宮に入る前にアリアドネから渡されたものであった。

テセウスの耳に歌うような牛の咆哮が聞こえてきた。

「奴がミノタウロスか?」

そう狙いを定めたテセウスは短剣を抜くと静かに声の方向へと歩みを進めていった。

そこには、無数の壁に座らされた死体を前に跪いて手を組み、天井を仰いで咆哮をあげる牛頭のアステリオスがいた。

死体の前には石板が置かれており、そこには「我が友、メリーヌ、ここに眠る。彼女の魂がアテナイへとたどり着かんことを願う。メリーヌの魂が安らかであらんことを」と書かれていた。

アステリオスは咆哮を上げたあと、頭を垂れた。

その姿は死者へ捧げているように見えた。

その後ろ姿へテセウスは短剣を突き立てていった。

アステリオスが痛みに驚いて立ち上がると振り返り、テセウスを見ると両手を大きく広げた。

「ひっ!」

テセウスは小さく叫び声をあげると、今度は身体ごとぶつかっていき、短剣をアステリオスの胸へと突き刺した。

アステリオスは自分の胸に刺さる短剣を不思議そうに見つめると、大量の血を吐き出し、後ろへと倒れていった。

テセウスは倒れたアステリオスに馬乗りになると、その胸元に何度も剣を突き立てていった。

そこでVTRは止まり画面が切り替わった。


「え〜、以上がアステリオスさんとナウクラテーさんの証言により、我がスタッフが作った再現VTRでした」

イーリスが説明すると、コメント欄には「これマヂ?」「聞いてた話と違う…」「『星屑を拾う船 新解釈ギリシャ神話・ナウクラテー物語』に書いてあるで」「ステマになってないステマ乙」というコメントが流れていった。

「アステリオス、これは真実か?」

アストレイアの言葉にアステリオスは鼻息も荒く大きく首を何度も振り、スケッチブックに書かれた「祈る自分」を叩きながら指し、短剣を刺す動作をしてみせた。

「アストレイア様。本当でございます。テセウスが出航した後、アステリオスを見に行きましたら霊廟に倒れておりました。そのことはイカロスも見ております」

ナウクラテーが隣りにいた翼の生えた少年に目くばせすると、イカロスは何度も首を縦に振った。

「ふむ…テセウス、申し開きはあるか?」

すっかりピエロのような顔になったテセウスへアストレイアが話をふると、テセウスは唾を飛ばしながら反論してきた。

「嘘だ。その女たちが嘘を言ってるんだ。そいつは俺を食べようと襲ってきたんだ。両手を広げたのだって、俺を掴んで食べるためだったんだ。俺は自分の身を守っただけだ。俺は何も悪くねぇ!だいたい、片方の証言だけを聞いてVTRを作るなんて不公平だ!」

テセウスの弁明は続いたが、いったん音声を切るとイーリスへ聞いた。

「イーリス。これについての証拠はあるか?」

それを聞くとイーリスはバツの悪そうな顔をした。

「いえ。現在ダイダロスの糸は失われており、ラビリンスの侵入は禁止されてます。ですので、あくまでVTRは証言のみで作っており、証拠はありません」

「そうか……」

アストレイアは瞑目し、後ろから天秤を取り出すと、アステリオスの証言とテセウスの証言を両の秤へと乗せると、天秤は平衡を保った。

アストレイアは天秤を後ろへ戻すと、テーブルの上で指を組んだ。

「本件において、被告テセウスをノット・ギルティとする」

そう告げると会場内は大きくざわついた。

コメント欄も「これで無罪ってないわ〜」「アストレイア様、見損なったわ」「アステリオスがかわいそ過ぎる」などと大荒れで、大半はアストレイアを非難するものであった。

判決を下したアストレイアは眉間に深く皺を寄せ瞑目し、唇を噛んでいた。

「理由を聞こうじゃないか」

ざわつく会場内をメーディアの一言が切り裂いた。

「本件における証言は被告側、原告側の双方に大きく食い違いがある。そして、双方ともにそれを証明することができず、クノッソス宮殿内のラビリンスが侵入禁止となっていることから物的証拠を出すことも難しくなっている。また、アステリオス側の証言も当事者とその家族のみということから証拠としての信憑性を著しく欠いている。そのため、本件において、被告テセウスをノット・ギルティとする」

言葉を噛みしめるように、アストレイアは説明をしていった。

「すまん、ナウクラテー、アステリオス…」

説明が終わるとアストレイアは二人から目を伏せ、唇を噛み締めながら謝罪の言葉を呟いた。

アストレイアの判決にアステリオスは怒りを露わにしたが、ナウクラテーはアステリオスをなだめながら、頭を下げた。

「いえ。判決、ありがとうございました。判決はどうでも、私はこの子が人喰いの化物じゃないことを知って貰いたかっただけですから、それで十分です」

そう言うとナウクラテーが再び頭を下げると画面は椅子の上でガッツポーズを掲げるテセウスへと映っていった。

ざわつく座敷内でジョッキを握りしめ、俯くアストレイアにメーディアが囁いた。

「アストレイア様。ちょっと厳格過ぎやしないかい?これはエンタメやで」

「いえ、法は法ですので……」

アストレイアはメーディアからも目を逸らしながら呟いた。

「そうかい。それは仕方ないね。さ、飲みな」

メーディアに背中を叩かれると、アストレイアはジョッキに残っていたネクタルを一気に飲み干した。

コメント欄は「あのドヤ顔ムカつくわ〜」「これはアストレイア様が悪い」「いや、法的には妥当」「ほら、アストレイア様を見てみなよ。一番ツラいのはアストレイア様だと思うよ」などと賛否両論の声で溢れかえっていた。

ペルセポネがテセウスの鼻の頭のバツを赤い墨で丸く囲むと、会場には再び笑いが戻ってきた。

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