<EP_005>アテナイへの道 その3
<登場人物>
アストレイア:正義の女神
イーリス:虹の女神
テセウス:英雄。冥界の椅子に張り付いている
アリアドネ:テセウス被害者の会 会長。テセウスの被害者でもある
メーディア:テセウス被害者の会 顧問。百戦錬磨の魔女
パイドラ:アリアドネの妹。テセウスの被害者
ヘレネ:テセウスの被害者
ペリグネ:テセウスの被害者。シニスの娘であり、メラニッポスの母
パイア:テセウスの被害者。猪を飼ってるオバちゃん
ケルキュオーン:テセウスの被害者。オカマ
アンティオペー:テセウスの被害者。アマゾンの女王の妹。ヒッポリュトスの母
デメテル:豊穣の女神。居酒屋でめて〜るの女将
「次はアタシねぇん」
パイアが証言台から下がるとケルキュオーンが証言台に立った。
「えっとぉ〜、アタシはエレウシースにいたケリュキュオーンって言うんだけどぉ」
ケリュキュオーンはずっと身体をくゆらせて喋り、その姿がとても気持ち悪かった。
イーリスは眉をハの字にしながら指を鳴らし、VTRをスタートさせた。
コリントスではシニスを、クロミュオーンではパイアを、メガラでスケイローンを倒したテセウスはエレウシスに入った。
そこには、旅人にレスリングを持ちかけ、負けると殺していたケルキュオーンという男がいた。
「止めてくれ」
アストレイアはジョッキを傾けながら手を上げてVTRを止めた。
「ケルキュオーン。このVTRは本当か?」
アストレイアはケルキュオーンを射抜くように見ながら質問した。
「え?そ、そりゃぁ、旅人にレスリングを持ちかけていたのは確かよ。でもレスリングよ。打ちどころが悪くて死んじゃうこともあるでしょ?」
アストレイアに見つめられ、ケルキュオーンはしどろもどろになりながらも答えていった。
「そうだな。レスリングの練習中に死者が出ることは珍しくない。ただ、お前は最初の死人が出た後で安全管理を見直したのか?」
「いや…それは…」
ケルキュオーンが口ごもると、アストレイアは大きく息を吐き出し、イーリスに合図を送った。
「イーリス、続けてくれ」
VTRが再開された。
エレウーシスに入ったテセウスもまた、ケルキュオーンにレスリング勝負を挑まれたのであった。
テセウスとケルキュオーンは闘い、テセウスの勝利となり、ケルキュオーンはその試合で絶命した。
ここでVTRは止まった。
「そうだ、そこのオカマはレスリングで負けた相手を殺している悪党だったんだ。それを俺は退治したんだ。俺は悪くねぇ!」
画面内のテセウスが叫んでいた。
「ケルキュオーン、反論は?」
アストレイアの言葉に、ケルキュオーンは身体をくゆらせながら答えていった。
「そうよ。アタシはテセウスにレスリング勝負を挑んだのは事実よ。でもね、アストレイア様。コイツはね、負けそうになった時に、隠し持っていたナイフでアタシを刺したのよ!」
「嘘だ。俺はコイツをレスリングで負かしたんだ!」
テセウスが叫んだ。
「原告、証拠はあるのか?」
アストレイアの言葉にケルキュオーンは小ぶりのナイフをアストレイアの前に出すと、服をめくって脇腹をみせた。
そこには明らかな切り傷の痕があった。
「証拠はこれよ!このナイフでアイツはアタシを刺したのよ!」
ケルキュオーンの言葉に、アストレイアはナイフを持ち上げると傷口に押し当てた。
傷口とナイフの形状はピタリと合致した。
「ケルキュオーン、この傷がお前の死因だという証拠はあるのか?」
「もちろんよ」
ケルキュオーンは服を脱ぐと全裸となり全てをさらけ出した。
「さぁ、見て頂戴。このアタシの身体には大きな傷痕なんて無いわ。このナイフがアタシの命を奪ったのよ!」
全裸のケルキュオーンが画面に映し出されるとコメント欄は「絵面が汚い」「うわぁ。何、このチャンネルw」「アストレイア様に見られるなんて、ご褒美やん」といった言葉が高速で流れていった。
アストレイアはケルキュオーンの身体を隅々まで見ていき、再び座った。
「わかった。原告の証言を採用しよう」
「「「うをぉぉぉぉ!」」」
アストレイアの言葉に会場に歓声があがった。
「おおっと、ここで視聴者からタレコミが入ってまいりました」
イーリスが腰から水晶玉を持ち上げ覗き込み、送られた情報を読んでいく。
「なになに…ケルキュオーンには娘殺しの疑いがある。娘アロペーが隠れてヒッポトォーンを産んだため、怒ってアロペーを殺した…とのことです。えぇと、情報提供者は…ポ、ポセイドン様ぁぁ!?」
イーリスの言葉に座敷はどよめいた。
コメント欄も「なんでポセイドン?」「ヒント。テセウスの父はポセイドン」「父ちゃんの援護キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!」「まぁ、ヒッポトォーンの父親はポセイドンだしな」「マヂで!?Σ(゜∀゜)」「ただの逆恨みじゃん」と盛り上がっていた。
アストレイアはイーリスの水晶玉を覗き込んだが、すぐに目をはなし、テーブルの上で指を組み直した。
「この件に関してアロペー殺害は無関係だ。なので、今回の件のみで判決を下すことにする。本件における被告テセウスは…」
アストレイアの次の言葉を座敷もコメント欄も固唾を飲んで待っていた。
「ギルティ」
アストレイアが言葉を紡ぐと会場は歓声に包まれた。
「本件についての被告はギルティとするが、レスリングの練習中や試合での死亡は珍しくないため、ケルキュオーンの殺害についてはノット・ギルティとする。しかし、レスリングの試合中に武器を隠し持ち、それを試合で使ったという点においてはギルティとする。被告の扱いに関しては、ギリシャレスリング協会へ報告し、レスリング協会の裁定をもって本裁定とすることを決定する。また、原告はレスリング練習場における安全対策を怠ったとし、過去の試合にて亡くなった遺族に対し、一人頭3千ドラクマの賠償が妥当と判断する。また、原告のアロペー殺害に関してだが、捜査機関に報告をし、然る後に再び判決を下すこととする。以上」
アストレイアの判決に座敷内は静まり返った。
その時、会場から拍手と笑い声が響き渡った。
「ハッハッハ。さすがはアストレイア様。大した大岡裁きや。お見事」
メーディアは一人笑いながら拍手をしていく。
コメント欄では「さすがアストレイア様」「うむ、妥当だ」などといった言葉が流れていった。
メーディアの拍手に続くように座敷内も拍手で包まれていった。
画面内ではペルセポネがテセウスの鼻頭に小さくバツを書いていた。




