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<EP_018>ヘレネ誘拐事件

<登場人物>

アストレイア:正義の女神

イーリス:虹の女神

テセウス:英雄。冥界の椅子に張り付いている

アリアドネ:テセウス被害者の会 会長。テセウスの被害者でもある

メーディア:テセウス被害者の会 顧問。百戦錬磨の魔女

パイドラ:アリアドネの妹。テセウスの被害者

ヘレネ:テセウスの被害者

ペリグネ:テセウスの被害者。シニスの娘であり、メラニッポスの母

パイア:テセウスの被害者。猪を飼ってるオバちゃん

ケルキュオーン:テセウスの被害者。オカマ

アンティオペー:テセウスの被害者。アマゾンの女王の妹。ヒッポリュトスの母

デメテル:豊穣の女神。居酒屋でめて〜るの女将


スパルタに着くとテセウスとペイリトオスはヘレネを探し始めた。

ヘレネがアルテミス神殿にて祈祷を捧げていることを聞きつけると二人はアルテミス神殿へと向かった。

二人がアルテミス神殿の太い円柱の陰に隠れ、脂ぎった顔を半分だけ出して神殿内を覗き見ると、神殿の中央で、二人の女性がアルテミスに捧げる舞を踊っていた。

一人は成長したしなやかな肢体を持つ女性、もう一人はまだ幼さの残る、少女と言っていいほど小柄な存在だった。

「へい、ブラザー。どっちがヘレネちゃんなんだ?」

テセウスが小声で、しかし鼻息を荒くしながら聞いた。

「わかんねぇよ。スパルタ一の美女が神殿にいるってしか聞いてねぇんだからよ」

ペイリトオスも目を皿のようにして舞を凝視していた。

「にしても、片方がいやに小さくねぇか?」

「ま、小さい方を取らずに騒がれても面倒くさいだろ。両方拐っちゃおうぜ。どっちかがヘレネちゃんだろうしな。」

ペイトリオスは物騒なことをさらりと言ってのけた。

「んだな。じゃ、行きますか。俺、あっちのデカい方な」

「じゃあ俺、小さい方行くわ」

二人の舞が終わり、静寂が訪れた瞬間だった。

「しゃあああ!」

奇声を発しながら、二人の男は柱の陰から飛び出した。

「きゃああああ!」

「何!? あなたたちは……んぐっ!」

二人は迷うことなく、持参した汚い麻袋を彼女たちの頭から被せた。

袋の中で激しく暴れる二人だったが、テセウスとペイリトオスの怪力に抗えるはずもなかった。

二人は「獲物」を肩に担ぎ上げると、神聖な神殿の床を土足で蹴り、港の船へと一目散に走り去った。


コメント欄には「ただの人さらい……」 「コイツらに良心ってのは無いのか?」 「年取って、王としてのプライドまでどこかに忘れてきたんかな?」 「いや、最初から持ってないんじゃねぇか?」といった絶望と嫌悪の入り混じった言葉が流れた。


船が出航し、スパルタの影が遠ざかると、テセウスとペイリトオスは戦利品を確認することにした。船室には、二つの大きな麻袋が転がっていた。

「さてと、ヘレネちゃんをゲットしたわけだけど、どうする? どっちが彼女を嫁にするか、今のうちに決めとこうぜ」

ペイリトオスが袋を指差しながら言うと、テセウスは鼻を鳴らした。

「そうだな……ここは公平にくじ引きにしようぜ。後で恨みっこなしだ」

テセウスは手近な木の枝で即席のくじを作ると、ペイリトオスに引かせた。

結果はテセウスの勝ちとなり、ヘレネはテセウスの嫁となることが決まった。

「うっしゃー! 悪く思うなよ、兄弟。俺の勝ちだ」

「ちっ、しゃーねーな。運も実力のうちか」

「それじゃ、未来のハニーとご対面しますかね」

二人がニヤけ面で袋を剥ぎ取ると、そこには恐怖で顔を強張らせた一人の幼い女の子と、彼女を庇うように立つ妙齢の女性がいた。

「あなたたち、この方をスパルタの王女ヘレネ様と知っての狼藉ですか!タダで済むと思っているのですか!」

目の前の巨漢二人に怯えながらも、侍女が毅然と言い放つと、二人は目が点になった。

「へ? こっちの……このちっちゃい子が、ヘレネちゃん?」

固まってしまったテセウスの横で、ペイリトオスが腹を抱えてバカ笑いを始める。

「ハッハッハ! 良かったな兄弟、なかなかの有望株だぜ。……じゃ、こっちの女は俺が貰っていくわ。お互い、しっかりやろうな!」

ペイリトオスは暴れる侍女を担ぐと、隣の自室へと消えていった。

隣の部屋から侍女の悲鳴が聞こえてくる中、テセウスは恐る恐る、目の前で震える少女に尋ねた。

「キミ……ホントにヘレネちゃん?」

涙を流しながら少女が頷くと、テセウスは天を仰いだ。

「ちなみに、おいくつ……?」

「十歳……」

テセウスは泣きじゃくるヘレネを一人船室に残すと、甲板へ出て船頭に「トロイゼンへ向かえ」と指示を出した。

船室へ戻ると、侍女の悲鳴はすすり泣く声に変わっていた。

すっきりとした顔のペイリトオスが部屋から出てくる。

「兄弟。行き先を変えたみたいだけど、どこへ行くんだ?」

「トロイゼンだ。数年、俺の母ちゃんに預けて育ててもらうよ。アテナイに連れて帰ると、あの恐ろしいディオスクロイに速攻で取り返されるかもしれないからな」

「なるほど、熟成させるわけか。趣味が良いな、兄弟!」

「だろ? 最高の状態になるまで待つのさ」

顔を見合わせた二人の下卑た高笑いが夜の海に響いていった。


コメント欄は「……コイツらの倫理観、どうなってんだよ」「テメェらの血は何色だぁぁ!」「青じゃないかな」 「イカに謝れ!」といった怒りとドン引きの声で埋め尽くされた。


VTRが止まると、証言台のヘレネがポツリと付け加えた。

「……この後、本当にトロイゼンに連れて行かれて、アイトラさんに預けられたんですぅ」

アストレイアは片手で額を深く押さえ、もはや限界といった様子でイーリスに聞いた。

「……イーリス。本当にこれ、判決が必要か?」

「まぁまぁ、アストレイア。この話はここで終わらないんだなぁ。判決はちょっと待ってね」

イーリスが指を鳴らすとVTRが再開された。

コメント欄には「まだあるのかよ」「どんだけぇ〜」「もう、お腹いっぱい」「俺、吐きそうになってきた」といったコメントが高速で流れていった。

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