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<EP_011>ナクソス島置き去り事件 その3

<登場人物>

アストレイア:正義の女神

イーリス:虹の女神

テセウス:英雄。冥界の椅子に張り付いている

アリアドネ:テセウス被害者の会 会長。テセウスの被害者でもある

メーディア:テセウス被害者の会 顧問。百戦錬磨の魔女

パイドラ:アリアドネの妹。テセウスの被害者

ヘレネ:テセウスの被害者

ペリグネ:テセウスの被害者。シニスの娘であり、メラニッポスの母

パイア:テセウスの被害者。猪を飼ってるオバちゃん

ケルキュオーン:テセウスの被害者。オカマ

アンティオペー:テセウスの被害者。アマゾンの女王の妹。ヒッポリュトスの母

デメテル:豊穣の女神。居酒屋でめて〜るの女将


あまりの衝撃的なVTRにアストレイアはポカンと口を開け呆然とした顔をしてしまった。

その顔を水晶玉に抜かれると、慌てて咳払いをして真面目な顔に戻し、居住まいを正した。

「イーリス。証拠はあるのか?」

アストレイアの言葉にイーリスは嬉しそうな顔をした。

「ハーイ、それでは当事者のデュオニュソス様を呼んでみましょう。デュオニュソス様〜聞こえますか〜」

イーリスの言葉に画面が切り替わると、髪や身体を極彩色に染め、同じように極彩色のトーガをとんちきに着崩したデュオニュソスが登場した。

コメント欄には「スゲェ格好…」「芸術の神様だからね」「狂気の神様でもある」「芸術は爆発だ!」といったコメントが流れた。

「やあやあ、皆様、飲んでるかな?マイハニーも楽しんでる?」

「や〜ん、ダーリン、今日も決まってるわね〜」

二人の会話に、座敷内は微妙な雰囲気に包まれてしまった。

「デュオニュソス様、お久しぶりです」

「アストレイアちゃんも楽しんでくれてるかな?ほら、ニンフもじゃんじゃんネクタル持ってきて」

デュオニュソスは上機嫌ではあるが、感情の読めない表情でニンフにおかわりを持ってくるように伝えていく。

ネクタルのおかわりを受け取りながら、アストレイアはデュオニュソスに尋ねた。

「デュオニュソス様、大変申し訳ないのですが、先程のやり取りは真実でしょうか?」

「うん?テセウスくんがボクの加護欲しさにアリアドネちゃんを差し出してきたってとこ?」

「はい」

「ホントだよ〜」

アストレイアが頷くとデュオニュソスはさらりと言いのけた。

「まぁ、さすがにね〜身重の相手を差し出すと言ってきたときは驚いたけどね。でも、あの時のアリアドネちゃんは結構重体でさ、パナケイアちゃんの霊薬を飲ませないとなぁって思ってたんだよね。でも、キミも知ってるだろ?パナケイアちゃんの霊薬は神の所有物にしか使えないんだ。だから、ボクとしては譲って貰ってラッキーだったんだよね」

デュオニュソスは相変わらず感情の読めない顔でにこやかに答えてきた。

「ふむ……」

デュオニュソスの答えにアストレイアは考え込んでしまう。

コメント欄には「パナケイアって?」「薬の女神様」「彼女の霊薬って神様にしか使えないんだ」などといったコメントがついた。

「テセウス、申し開きはあるか?」

「そ、そりゃ、身重のアリアドネを譲るのは気が引けましたよ。でも、オリュンポス12柱のデュオニュソス様が御所望されているんですよ?なら、俺が譲らないわけにはいかないじゃないですか」

テセウスは必死になって弁明してくるが、落書きだらけの顔なので必死になればなるほどおかしさが勝ってしまう。

「それなら、どうしてダーリンの加護を欲しがったの?」

テセウスの必死の弁明をアリアドネが断ち切った。

「私を譲ることは百歩譲ってダーリンへの畏怖で許したとして、その代わりに加護をねだるってサイテー過ぎない?」

アリアドネは冷たい視線を向けてテセウスを問い詰める。

「いや、だって、ほら、俺ってアテナイの王子じゃん。アルゴ探検隊の一人だし、英雄だし、ミノタウロス退治も成功してるわけじゃん。だったら、ヘラクレスやアキレスみたいに神の加護の一つも無いと様になんないでしょ」

「ほぉ…それで、私を売ったんだ…」

アリアドネは底冷えする声で言った。

コメント欄では「ヘラクレスやアキレスに謝れ!」「お前と一緒にすんじゃねぇ!」「【悲報】ペルセウスさんクズにディスられる」などのコメントが乱れ飛んだ。

「あとさぁ、最初にダーリンが戻した時に、アンタ、出航しようとしてたよね?なんで?もっと探そうとしなかったの?」

「いや、探したよ。探したけどみつからないし、とっととアテナイに帰りたかったし…」

「ほぉ…」

アリアドネの声は冥界の最下層コキュートスから響いてくるようだった。

「それにさ、俺が看病してもアリアドネは一向に良くならなかったし、だったらデュオニュソス様にお願いしたほうが良いじゃん。結果的にアリアドネはデュオニュソス様の元で元気になって、その後で星座にもしてもらったんだし、良かったじゃん。俺の判断は間違ってない」

テセウスは必死に弁明してきた。

コメント欄には「会長って星座になってんの?」「かんむり座はデュオニュソス様と会長の結婚式の時の冠だし、かみのけ座は会長の髪の毛だよ」「ほぇ〜、会長、愛されてんなぁ」というコメントがついた。

「デュオニュソス様、アリアドネはパナケイアの霊薬が無ければ助からなかったのですか?」

アストレイアがデュオニュソスに尋ねると、デュオニュソスは楽しげな顔で答えてきた。

「ん〜、一応、ボクも神様だからね。ネクタルに身体を漬け込んでから、薬用のネクタルを飲ませて様子を見てたら治ったよ」

「そうですか…それをしなかった理由はありますか?」

「だってさ、テセウスくんたちがちゃんと看病してると思ってたし、それに神の力はみだりに使う物じゃないでしょ」

「そうですか」

のほほんと答えるデュオニュソスにアストレイアは口を噤むと瞑目した。

「アストレイア様、判決を!」

怒りを湛えたままの目でアリアドネが判決を促してくると、アストレイアは目を開き、テーブルの上で指を組んだ。

「被告テセウスをギルティとする」

「「「「Yeah!!!!」」」

会場内のボルテージが一気に高まり、雄叫びがあがった。

「まず、ナクソス島に入った時点でアリアドネが妊娠していたということから、被告と原告には内縁関係が成立していたと考えられる。内縁の妻が悪阻により体調不良であった時に、身勝手な理由で他人に譲渡することは保護責任者義務違反に相当する。そもそも、内縁の妻である原告を本人の了承なしに他人へと譲渡することは、原告の人権と尊厳を無視するものであり到底許されるべきものではない。よって被告をギルティとする」

アストレイアの言葉に会場のボルテージは更に高まっていく。

コメント欄も「順当」「これがギルティでなくて、何がギルティになんだ」「やっぱり、アストレイア様、サイコー!」といったコメントが高速で溢れかえっていった。

画面では、モザイク越しにペルセポネがテセウスへと落書きをしていく。

「あ、ちょ、ちょっとペルセポネ様、目は止めて…ぎゃぁぁぁ!」

ペルセポネが退くと、テセウスの右目には大きくバツが描かれており、墨が目に入ったのであろう、黒い涙を流すテセウスの顔があった。

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